2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730037
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
猪瀬 貴道 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 助教 (70552545)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 投資条約 / ISDS条項 / 仲裁手続 / 請求主体 / 国際投資法 / 投資紛争解決国際センター(ICSID) / 私人の国際法主体性 / 原告適格(スタンディング) |
Research Abstract |
平成23年度は、投資条約仲裁事例の整理を中心に研究を遂行した。投資条約を根拠として仲裁付託された事例は、UNCTAD によるデータによると、300事例以上に登る。このうち、分析可能となっている仲裁判断が公開されている事例について資料の収集および整理を行った。 具体的には、UNCTAD のデータベースサイト(http://archive.unctad.org/iia-dbcases/)などを利用して、まず会社が請求主体となっている事例を抽出して、その中からさらに、非申立側紛争当事者である投資受入国から、請求主体に関する抗弁(人的管轄権に関する抗弁)がなされている事例に限定して、公開されている仲裁判断文書を収集している。 それらの仲裁判断文書については、1. 請求主体、2. 根拠となる投資条約の関連規定、3. 請求内容・請求文言という3つの観点からの整理を行っている。 また、これらの整理分析から、請求主体の制約の根拠として「濫用」という概念が主張されていることが明らかになった。その「濫用」概念が、本研究課題のひとつの論点となりうると考え、上記整理は継続しつつ、この「濫用」概念についての検討を行った。その結果、投資条約仲裁手続において、「濫用」を根拠とする請求主体の制約は、2つの側面で主張されうることがわかった。すなわち、投資事業を行う会社の設立に関する濫用(実体的権利濫用)と請求を提起することの濫用(手続濫用)である。この2つの「濫用」について、事例分析を中心に検討して、日本国際経済法学会において研究報告を行った。 このほかに、関連研究会などに参加して、本研究課題について、参加者から助言を受けたり、意見交換を行ったりすることで、研究内容の向上に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した研究計画においては、平成23年度において、投資条約仲裁事例の収集および整理を完了する予定であったが、現在のところ未完了となっており、当初計画よりも達成状況は遅れている。ただし、検討対象となる事例の選定はおおむね終了し、関連資料の収集を実施して、その資料の整理、分析にも着手しており、平成24年度前半をもって、この作業を完了できる見込みとなっている。 また、本研究課題のひとつの論点として「濫用」概念による請求主体についての制約という問題を明らかにすることができ、それについて、事例の整理と並行して検討を進めて、一定の成果を得られた。この成果については、日本国際経済法学会において、研究報告を実施して、さらに再検討を加えた上で、論文としてまとめて公表予定である。 したがって、本研究課題の一部についての研究遂行状況は、当初計画よりも遅れているが、他の部分については、当初計画よりも進んでおり、交付申請書に記載した「研究の目的」の達成度は、全体としては、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
投資条約仲裁事例の分析整理を完了し、関連文献とともに検討する。そこで明らかになった論点について、訴訟・紛争解決手続におけるスタンディングに関する一般的理論との比較から考察を加える。具体的には、この問題に関連する国際法、および国内法(民事訴訟法、仲裁法など)の文献を精読し、まずスタンディングに関する法理論を把握することが必要となる。その上で、投資条約仲裁手続におけるスタンディングの判断枠組とこれまで検討されてきたスタンディングに関する一般的理論との異同を明らかにし、その理由について考察する。 とくに、紛争解決制度としての投資条約仲裁手続が、国際法上、どのように位置づけられるかを明らかにするという問題意識に基づき、国際法上のスタンディングの問題、とりわけ、会社の外交的保護における「会社の国籍国」による請求と「株主の国籍国」による請求の関係についての法理論について、先例、先行研究など従来の理論枠組を再検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度においては、未完了となっている投資条約仲裁事例の収集および整理を引き続き行い、前半をもって完了する。整理した資料の分析とともに関連文献を収集して、論点を整理する。その整理した論点に合わせて、とくに国際法上の紛争解決手続におけるスタンディングの一般的理論についての資料・文献についても収集を行う。これらの資料の購入費、収集のための旅費等を研究費から計上する。また、ファイルなど資料の整理のための物品も購入する。 後半は、国際法上のスタンディングの問題、とりわけ、会社の外交的保護における「会社の国籍国」による請求と「株主の国籍国」による請求の関係についての法理論について、先例、先行研究など従来の理論枠組を再検討する。可能であれば、そこで整理した国際法上のスタンディングに関する従来の理論と投資条約仲裁事例における理論との比較考察を行う。随時、必要となった資料の購入、複写などに研究費を使用する。 また、研究の遂行状況についての外部からの意見を求める必要性から、月に一度程度、主に東京で開催される本研究課題に関連する研究会に参加し、助言を受けたり、意見交換を行ったりする予定である。このための旅費も研究費から支出する。
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