2011 Fiscal Year Research-status Report
非正規滞在の無国籍者の法的地位に関する研究―国際人権法の理論と実践―
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23730038
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
付 月 筑波大学, 人文社会系, 研究員 (70522423)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 無国籍 / 人権 / 法的地位 / 非正規滞在 |
Research Abstract |
本研究は、無国籍者の法的地位、特に日本における非正規滞在の無国籍者の法的地位について、国際人権法の観点および比較法の観点から検討し、具体的な法的解決策を探求することを目的としている。 上記の研究目的を達成するために、本研究では手始めに、平成23年度において、主に以下の3点に関する研究を行った。まず、(1) 本研究の対象者である日本における非正規滞在の無国籍者の現状を把握したうえ、無国籍でかつ非正規の状況が創出されるメカニズムについて検討した。次に、(2) 非正規滞在の無国籍者を発生原因別に分類し、それぞれの類型が直面する人権問題についての検討を行った。そして、(3) これらの問題を、国際人権条約の関連条項に照らして、日本における法制度上の問題点についての検討を進めてきた。 本研究で取組む問題の発信をすべく、日本における非正規滞在の無国籍者訴訟、すなわち、来日したタイ出身の無国籍者の退去強制事件の背景および判決について、国際家族法学会が運営するウェブサイトに投稿して紹介した(Yue FU, Statelessness, legal status and family reunion - A report from Japan、下記「15.備考」に示したURLを参照)。 また、2012年2月6日にバンコクのタマサート大学法学部で開催された無国籍者に関する国際シンポジウムでは、日本における無国籍者の分類と関連法制度を内容とする口頭報告を行った(下記「13.研究発表」のうち、「学会発表」を参照)。 上記の研究は、人権保障の見地から問題点を明らかにするために重要である。また、本研究における問題意識および研究成果の積極的な発信は、問題解決の方策を検討するための第一歩であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上に述べた通り、本研究は、無国籍者の法的地位、特に日本における非正規滞在の無国籍者の法的地位について、国際人権法の観点および比較法の観点から検討し、具体的な法的解決策を探求することを目的としている。 非正規滞在の無国籍者は、極めて不安定な法的地位に置かれているために、さまざまな権利が制限されている。この現状に対して、本研究の初年度である平成23年度においては、研究開始当初に計画していた通り、主に上記の3点について検討を進めた。すなわち、(1) 本研究対象者の現状把握、および問題発生の原因究明、(2) 非正規滞在の無国籍者の分類、およびそれぞれの類型が直面する人権問題の特定、(3) 国際人権法の視点からみた問題点、に関する検討である。 また、平成23年度当初に計画していた研究のほかに、研究代表者は、日本における無国籍者の法的支援を行っている弁護士や無国籍者の研究者と共に、タイ側の無国籍者支援団体や研究者の協力を得て、タイ北部に住む無国籍者の現状視察を行った。これは、国境を越えた移動から生じる無国籍問題の特質に鑑みて、日本にいる非正規滞在の無国籍者の出身国における状況を理解する必要があると考えたからである。そして、今後の日・タイ間における無国籍者の支援のための協力体制構築の必要性を確認し、その方向性に関する意見交換をも行った。 本年度を通しての研究を進めるにあたり、特に(1)に示した日本における非正規滞在の無国籍者の現状把握、および上記のタイにおける無国籍者の現地調査では、特定非営利活動法人(NPO法人)「無国籍ネットワーク」の協力を得た。研究代表者は、日本における無国籍者を支援する同NPO法人の活動に継続的に参加することにより、見えざる存在としての本研究の対象者の現状をより深く理解することができたとともに、彼らが直面する問題の深刻さと複雑さを再認識させられた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の初年度である平成23年度に引き続き、平成24年度および平成25年度においては、以下の通り研究を推進していきたいと考える。 (1) 平成24年度では、平成23年度の研究を踏まえて、比較法的研究および現地調査研究を中心に進める。すなわち、前年度で特定した非正規滞在の無国籍者の人権問題について、比較法的見地から検討する。特に、日本と同様に非正規滞在の無国籍者の人権問題を抱えるドイツやオーストリアを中心とするヨーロッパ諸国を比較の対象とする。具体的には、これらヨーロッパ諸国における、非正規滞在の無国籍者の法的地位および人権問題への対処方策について考察し、そこで用いられている法理論と法制度による実務での適用状況、およびその効果を明らかにする。 また、研究開始当初には予定していない点であるが、無国籍者の国境を越えた移動に着目して、そこから生じる無国籍でかつ非正規滞在の問題についても、平成23年度に続いて検討していきたい。具体的には、来日した無国籍者が非正規滞在に陥った原因を解明し、問題解消のための法的支援のあり方について検討する。そのためには、無国籍問題に取組む国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の事業実施パートナーにもなっているNPO法人「無国籍ネットワーク」の活動に、継続して参加する。また、平成23年度に開始したタイの無国籍支援団体や研究者との協力体制をも続け、意見交換を行っていきたい。 (2) 本研究の最終年度である平成25年度では、日本における法制度上の問題および非正規滞在している無国籍者の人権問題について検討する。そして、彼らの法的地位を安定させ、権利を保障するための法理論を示し、法制度の改正等による実践的な法的解決策を提示したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度における研究費の使用については、研究開始当初に予定していた通り計画している。すなわち、計100万円の直接経費を、(1) 物品費:25万円、(2) 旅費:55万円、(3) 人件費・謝金:11万円、(4) その他:9万円という内訳で、下記の研究のために使用することを予定している。 平成24年度では、前に述べた通り、比較法的研究および現地調査研究を中心に進める。つまり、平成23年度で特定した日本における非正規滞在の無国籍者の人権問題について、日本と同様に非正規滞在の無国籍者の人権問題を抱えるドイツやオーストリアを主な対象として、比較法的見地から検討する。具体的には、これらヨーロッパ諸国における、非正規滞在の無国籍者の法的地位および人権問題への対処方策について考察すること、および、そこで用いられている法理論と法制度による実務での適用状況、およびその効果を明らかにすることである。加えて、上にも述べたように、無国籍者の国境を越えた移動と非正規滞在との関連性に着目した論点にも取組みたいと考える。そのためには、研究代表者がこれまで参加してきた「無国籍ネットワーク」の活動を継続するとともに、平成23年度に構築したタイの無国籍支援団体や研究者との協力体制を活かして、情報交換および意見交流を行っていきたい。 このように、平成24年度において、比較法的見地から、ヨーロッパ諸国における非正規滞在の無国籍者に関する現地調査に重点をおいて研究し、また、タイとの国際的な学術交流を進めていきたいと考える。そのため、海外渡航および現地調査のための費用が必要であり、旅費を少し多めに予算を配分している。
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Research Products
(3 results)