2012 Fiscal Year Research-status Report
非正規滞在の無国籍者の法的地位に関する研究―国際人権法の理論と実践―
Project/Area Number |
23730038
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
付 月 筑波大学, 人文社会系, 研究員 (70522423)
|
Keywords | 無国籍 / 非正規滞在 / 人権 / 法的地位 / 子ども / 国籍 / グローバル化 / 家族 |
Research Abstract |
平成24年度では、日本における非正規滞在の無国籍者の法的地位について考察するという本研究の目的に鑑みて、以下に述べる研究を推進し、成果を挙げてきた。 すなわち、①研究初年度である平成23年度における検討を踏まえて、本研究の対象者である日本における非正規滞在の無国籍者が、無国籍でかつ「不法」滞在となった経緯ないし原因の解明を継続して行った。②これら日本における非正規滞在の無国籍者の抱える法的問題とその特徴を明らかにした。③それらの問題に対する具体的な法的解決策の第一歩として、日本が無国籍条約(1954年の無国籍者の地位に関する条約、および1961年の無国籍の削減に関する条約)に加入する意義について検討した。そして、④無国籍条約に照らしての日本における課題について考察した。 前年度および今年度の研究を通して得られた成果について、以下の国内学会において報告を行った。(1)「 無国籍条約加入の意義と日本の課題」と題する報告を、2012年5月19日に明星大学で開催された移民政策学会2012年度年次大会のミニシンポジウム「『在留カード』導入前に無国籍問題を考える」において行った。(2)「グローバル化する家族と子ども―退去強制による家族の分離と子どもの利益―」と題する報告を、2012年11月10日に早稲田大学で開催された日本家族〈社会と法〉学会第29回学術大会の若手セッションにおいて行った。 平成24年度における研究は、本研究対象の置かれている現状を見つめるだけでなく、無国籍でかつ非正規滞在という地位に至った経緯ないし原因を究明することができた。そして、子どもの国籍の生来取得の問題と、無国籍の地位の世代間連鎖の問題が明らになった。この一連の研究は、本研究対象の直面する法的問題の特質を明らかにすること、また、これらの問題に対応した法的解決策を考察するうえで重要である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度では、以下の研究成果を得ることができた。本研究の目的、すなわち、「日本における非正規滞在の無国籍者の法的地位」について検討し、「具体的な法的解決策を探求する」こと、および、その研究成果を公表して広く社会に還元することが既に一部達成されている。 第1に、日本における無国籍でかつ非正規滞在している者が直面する問題、特に市民生活を営むうえでの問題、および、これらの問題を引き起こす原因ないし根本的な問題を明らかにした。そして、これらの問題を解決するために、2つの無国籍に関する条約の関連条項について日本の文脈において考察し、日本の両条約への加入意義について検討した。その成果について、移民政策学会で報告した(「13.学会発表」参照)。その後、同学会の要請を受けて、学会誌である『移民政策研究』の特集のための論文を執筆した(平成25年度に刊行予定、「13.雑誌論文」参照)。 第2に、非正規滞在であるがゆえに退去強制の対象になっている外国人家族の直面する法的問題、とくに、親子の国籍や法的地位が異なることから、退去強制によって親子が別々の国に分離させられる問題について検討した。その成果を、日本家族〈社会と法〉学会で報告した(「13.学会発表」参照)。また、同報告の内容を論文として執筆し、学会誌に投稿しているところである。 平成24年度における研究は、文献研究を中心に進めた。また、上記の研究は、前年度に引き続き、日本における無国籍者に対する法的支援を行っている唯一の団体である特定非営利活動法人「無国籍ネットワーク」の協力を得て実現している。 以上のことにより、本研究は、おおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度である平成25年度においては、平成23年度および平成24年度における検討を踏まえて、以下の通り研究を推進していきたいと考える。 まず、①本研究の対象である非正規滞在の無国籍者の置かれている現状および直面する法的問題について、引き続き現場レベルで把握することに努める。そのためには、日本における無国籍者の法的支援を行い、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の事業実施パートナーにもなっている特定非営利活動法人「無国籍ネットワーク」の活動に継続して参加し、情報収集を行う。②無国籍者の権利保障および無国籍問題の解決に向けた国際的な議論に関する最新情報を収集する。そのためには、2013年6月にジュネーブで開催が予定されているUNHCRと難民・無国籍を支援する世界各国のNGOとの年次協議会に参加する。今年の同年次会議では、UNHCR無国籍ユニットによる無国籍に関する特別会合が予定されているうえ、本会議でも無国籍セッションが設けられている。したがって、本研究課題を遂行するために、同会議への参加には意義がある。③平成24年度までに明らかにした日本における非正規滞在の無国籍者の人権問題について、国際人権法の観点に加えて、比較法の見地から検討する。具体的には、無国籍者の法的地位ないし人権問題について、日本の参考になる法制度または取組みを行っている国を比較の対象として、文献研究および現地調査を通して分析を行う。④無国籍問題に関する国際的な議論を踏まえて、日本における法制度上の問題および非正規滞在している無国籍者の人権問題について、包括的かつ多角的に再検討を行う。⑤彼らの法的地位を安定させ、権利を保障するための法理論を示し、法制度の改正等による実践的な法的解決策を提示したい。そして、⑥最終的に、本研究課題に関する成果を論文としてまとめることを予定している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度における研究費の使用については、平成24年度より繰り越した研究費を含めて、以下の通り計画している。すなわち、計1,100,146円の直接経費を、(1) 物品費:25万円、(2) 旅費:55万146円、(3) 人件費・謝金:10万円、(4) その他:20万円という内訳で、下記の研究のために使用することを予定している。 平成24年度から研究費の一部を繰り越したこと、および、平成25年で予定している旅費が多くなっている理由については、以下の通りである。まず、前に述べたように、今年度の6月に、無国籍問題の解決に向けた国際的な議論に関する最新情報を収集するために、世界における無国籍問題に取組むことを任務としている国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の主催による難民・無国籍者支援NGOとの国際会議に参加する。これは研究当初予定されていなかった事項であるが、前年度から研究費の一部を今年度に繰越して充てることにした。ちなみに、前年度からの繰り越し分は、前年度に予定していた海外での調査費用の予算分であったが、研究上の必要性から文献研究を中心に行ったため、使用せずに繰り越したものである。そして、今年度は、比較法的視点からの研究を遂行するために、海外渡航して比較対象国における文献調査および現地調査を予定しているために、旅費を多めに割り当てることにしている。 さらに、「その他」については、今年度は本研究課題の最終年度であることから、研究成果を論文としてまとめて公表することを考慮して、そのための印刷および製本の費用として使用することを予定している。
|
Research Products
(3 results)