2012 Fiscal Year Research-status Report
WTO紛争処理における履行確保に向けた課題-利害関係者の視点から-
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23730045
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
飯野 文 日本大学, 商学部, 准教授 (00521288)
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Keywords | WTO紛争処理 |
Research Abstract |
平成24年度は、平成23年度に引き続き、非貿易的関心事項(食品安全)分野において、どのような状況下で貿易紛争が生じているのか、また貿易紛争がWTO紛争処理手続に付託され、法的判断が出された場合に、どのような規律上の限界があるのか等について検討を行った。 この結果、平成23年度に抽出された問題(輸入国が発動する緊急措置、輸入国の食品安全基準への適合、科学的不確実性、民間基準、輸入国の食品安全確保体制の導入、潜在的課題としてFTAの締結に伴う基準の厳格化)に加えて、措置のWTOに対する通報の遅れといった手続上の問題、必要以上に対象範囲を拡大したSPS措置の導入や継続、輸入手続・基準のルール違反(科学的正当性の欠如、内国民待遇原則違反)が抽出された。 但し、食品安全分野に関わるルール(WTOにおけるSPS協定)には、そもそも、それ以外の物品貿易に関する協定に比して特殊性が認められる。すなわち、物品貿易に関わる協定は、従来、無差別・相互的という原則に基づいてルールが形成されている一方、SPS協定では「科学」的に正当か否かという点がベンチマークとしてルールに導入されている。そこで、SPS協定における「科学」に関する規定について検討を行い、それが輸出国・輸入国に及ぼす影響について分析した。この結果、SPS協定上の科学に関するルールは科学に関わる幅広い知見と能力をWTO加盟国に要求しており、加盟国の経済発展段階によって異なる影響を及ぼし得ることが得られた(例えば、科学的キャパシティに劣る発展途上国は導入するSPS措置の科学的正当性の担保に限界があり得る等)。 非貿易的関心事項の分野では、履行確保が遅れる案件も過去に見られていることから、上記の分析結果からは、貿易紛争の特性を検討する上で貴重な示唆が得られる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記「研究実績の概要」で示した通り、平成23~24年度に行った研究成果からは、貿易紛争の特性を検討する上で貴重な示唆が得られるものである。一方、研究計画によれば、平成23年度はWTO紛争の全般的な類型化・履行困難性の概念の整理、平成24年度は抽出した貿易紛争の関係者に対するインタビューを行うことを予定していたため、当該計画に照らせば、やや遅れが見られる。遅れの理由としては、紛争事案を検討する際に潜在的な紛争事案や事案の細部に入り込んでしまったこと、分析を続ける中で、紛争が発生する背景の検討が必要ではないかと考え始めたことが挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度も研究計画に準じて、進めていくこととしたいが、場合によっては、紛争が発生する背景(紛争発生のメカニズム)の検討から始めることも考慮したい。いかなる状況で貿易紛争が発生するのかも併せて検討しなければ、本質的に紛争を解決し得る紛争処理手続の検討が難しいためである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23、24年度に予定したインタビュー調査関連費用を平成25年度に繰り越している。平成25年度に当該調査を行うことを目指す。
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