2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23730046
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
川副 令 日本大学, 国際関係学部, 助教 (40292809)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 立作太郎 / 国際法 / 満州事変 / 牧野伸顕 |
Research Abstract |
申請時に示した「研究の目的」では、平成23年度中に立作太郎の全著作について調査を行い、著作目録を作成することとし、これを所属研究機関の機関誌上で公表することを目標としていた。 本年度の実績として、立作太郎の全著作物のうち、国内(日本語)で公表されたされた著書および訳書はすべて調査し、コメントつきの目録も完成した。論文の数は膨大であるが、主要な論文はPDF化して調査を済ませ、PDF化できなかった他の論文も大ざっぱに内容確認を行い、目録に掲載した。したがって、国内で発表された著書・論文については、調査漏れがないと断言はできないが、一応当初予定の目録作成は完成している。他方、日本国外で公表された著作、あるいは国内発表であっても外国語で書かれた著書・論文等については、平成24年2月に入って調査を着手したため、現在も調査継続中である。 文献調査の過程で、以下の点が明らかになった。第一に、満州事変を古典的自衛権概念で正当化せんとした立は、その約10年前には同じ概念を用いてシベリア出兵論を批判していた。したがって、彼の古典的自衛権概念が、帝国日本の軍事的対外進出論を無差別に正当化する機能を有していたと考えるのは、適切でない。 第二に、満州事変を拡大期と収束期に分けて観察すると、立は拡大期には関東軍の軍事行動を正当化する論陣を張った(これは表向きは外務省の立場でもあった)が、満州事変の収束過程に入ると軍部や世論の過激派と明確に袂を分かち、外務省親英米派の路線に沿ってリットン調査団報告書との妥協可能性を示唆するほか、満州国早期単独承認論や連盟脱退論を牽制する論説をも執筆していた。 第三に、満州国成立、連盟脱退、塘沽停戦協定による事変収束は、東アジアの新秩序のあり方をめぐる日本国内の政争を激化させたが、立はこれを憂慮して軍部統制を探るための国際法論と憲法論を私書の形で牧野伸顕に伝えていた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究の目的」において平成23年度中の最終目標として掲げた立作太郎著作目録の公表を実現できていないため、「順調に進展している」とは言い難いが、国内で発表された日本語での著作については目録作成(一部コメント付)を完成しており、この部分を切り離して平成24年度10月中に所属研究機関紀要にて公表する準備ができているため、「大幅な遅れ」ではないと判断した。 かかる遅れが生じた理由は複数あるが、最大のものとして、国立国会図書館憲政資料室を調査中に予想外の重要資料(昭和10年6月13日発信の牧野伸顕宛書簡)を発見したことを挙げさせていただきたい。この書簡には、立の公刊された著書や論文からは伺われない、軍部過激派の政治進出、国体明徴運動等に対する強い危機感と憤りが表明されている。これによって、「日本軍国主義の国際法論の代表的論客」といった従来の一般的な立作太郎理解のみならず、本研究の構想時に示した申請者自身の理解(国策擁護と世論訓致の併存)にも修正が必要となった。すなわち、立の時局論には既存の国策決定を強硬に擁護しつつ、将来の決定を穏健路線に導こうとする点に二面性がうかがわれるだけでなく、法律顧問的ポジションに徹する公的言説と軍部急進派の独走に警鐘を鳴らそうとする私的な言動の間にも二面性があることが判明した。 著作目録作成と論文執筆は、本来互いに切り離して行うべき作業であるが、この重大書簡発見の衝撃の大きさゆえに、本研究の基盤となる歴史認識(満州事変理解)の再調整や調査済みの他の文献の再検討が必要となり、これに当初予定以上の時間を割く結果となってしまった。(なお、この遅れを取り戻すための善後策は、次の項目で示します。)
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)立作太郎著作目録については、本来23年度中に行うべきであった調査成果の公表を急ぐ意味から、国外あるいは外国語で発表された著作の掲載を断念して、既に完成している部分(国内かつ日本語で発表された著書・論文・書簡の目録)を平成24年10月発行の学部機関誌(「国際関係研究」)に投稿する。 (2)「研究の目的」では、平成24年度は「帝国日本の対外関係と立作太郎の国際法論」を一般的なテーマとし、(ア)立の時局国際法論における国策擁護と世論訓致の併存関係の分析、(イ)第二次世界大戦中に立が展開した総力戦論の起源の解明を具体的な課題として、論文執筆を行う計画となっている。今後は、原則としてこの計画に則して論文執筆を進めるが、上述の重要書簡の発見を受けて、具体的な課題の設定を、次の通り部分的に変更したい。 課題(ア)は変更しない。 課題(イ)について、総力戦国際法論の起源の分析は主たる課題から外し、副次的課題とする。それに代えて、満州事変期における国際法学者立作太郎の政治的スタンスと私的平面での言動のズレに関する分析を行うこととしたい。 そもそも、申請者が立作太郎の総力戦国際法論に着眼したのは、ここに立の国際法論と日本軍国主義の展開のアンビバレントな関係が集約的に表れていると考えたからであるが、この点を明快に裏付ける資料は調査の過程で発見されなかった。他方で、上述の牧野宛て書簡には軍部独走やそれに追従する国内政治運動に対する立の抵抗姿勢が、しかも国際法学者としての自己規定を維持する形で、極めて明確に表明されている。こうした調査研究の進捗に合わせて課題(イ)を上記の通り変更することが、最良の成果につながると思料した。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
論文執筆計画に部分的変更はあるが、その余の点については申請時の計画を維持する。すなわち、平成24年度は論文執筆に集中し、必要な文献や資料を補足的に収集するほかは、研究会やワーキンググループのレベルで研究成果を公表して学兄諸氏の批判を仰ぎ、早期(平成25年度中)に論文公表に繋げることを目指す。したがって、研究費(申請額20万円)は、全額を消耗図書購入と研究会出席のための交通費に充当する。その他の用途は予定していない。
|