2012 Fiscal Year Research-status Report
国際刑事司法における正当性・民主的正統性の指標に関する実証的研究
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23730049
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
竹村 仁美 愛知県立大学, 外国語学部, 准教授(移行) (10509904)
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Keywords | 正統性 / 正当性 / 国際刑事法廷 / 国際刑事裁判所 / 国際刑事司法 / 特別法廷 |
Research Abstract |
本研究課題中間年度に当たる平成24年度は研究課題の一つの柱である「国際法・国際刑事司法における正当性・民主的正統性の理論の整理」という視点についての研究成果を出すことを中心に研究を遂行した。具体的には次に掲げる研究成果を通じ、国際刑事司法における正統性の意義や指標を明らかにした。第一に、"Reconsidering the Meaning and the Actuality of Legitimacy of the International Criminal Court"という題目で国際刑事裁判所における正統性の意義に関する考察を5月に日本法社会学会若手ワークショップにおいて報告する機会を得た。第二に、6月には同内容を法社会学会世界大会で報告した。第三に、この国際刑事裁判所の正統性の意義及び評価に関する考察を発展させ、カンボジア特別法廷の正統性評価の視座を加えた研究内容を10月に開催された日本国際法学会・韓国国際法学会合同国際会議(シンポジウム)において"An Analysis of the Legitimacy Discourses in International Criminal Justice through the Comparative Researches on the ICC and the ECCC"という題目で口頭発表を行う機会を得た。この報告内容を後に研究ノートとして国際法外交雑誌に投稿している(未刊)。実証的研究成果として、2013年3月前半にオランダの国際刑事裁判所、旧ユーゴ国際刑事法廷、レバノン特別法廷の3つの法廷を訪問し、裁判傍聴の他、職員、判事などにインタビューを行い、正当性及び正統性評価を行うための基礎ともなる知見を得た。このうち、レバノン特別法廷についてはレバノン特別法廷をめぐる国際刑事法上の諸論点」を北九州市立大学法政論集に掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の具体的研究項目は、(1)国際刑事司法制度の正当性・民主的正統性の指標、(2)国際刑事司法における検察官の裁量の行使とその統制の可能性、(3)終焉していく国際刑事法廷・混合法廷の遺産の検証と常設国際刑事裁判所への示唆である。(2)については、一定程度の研究の蓄積があり、それを継続する形で研究を行っているけれども、平成24年度、(2)の視点に特化した研究成果の発表は行えなかった。他方で、平成24年度は(1)及び(3)の基礎的研究を一定程度達成することができた。また、23年度に行えなかった国際法における正当性と正統性のそれぞれの意義内容については、日本の国際法学会誌投稿の英語での研究成果である研究ノートにおいて予備的考察を行った。今後は(1)及び(2)の視点の研究成果を(3)の視点に研究成果に反映させていく形で、将来の国際刑事司法の在るべき姿について一層洞察力を高めて行くことが期待される。具体的には、既存の臨時国際刑事法廷及びいわゆる混合法廷の遺産を、(i)検察官の裁量の行使の適切さやそれに対する統制の存否の視点、(ii)裁判官による検察官の裁量の統制や法創造機能(司法積極主義)、(iii)被害者や紛争で直接の影響を受けた方々に対するインパクト、といった観点から評価することが計画されており、(i)及び(iii)については平成24年度あるいはそれ以前に一定の研究を遂行した。しかし、(ii)の視点に関する既存の国際刑事法廷の正統性評価と未来への示唆の考察は充分に行えていないので、最終年度に当たる平成25年度には特にこのような視点からの研究を行っていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
既存の混合法廷と呼ばれる形態の国際的性質を帯びた刑事法廷については、カンボジア特別法廷及びレバノン特別法廷について基礎的研究及び一定の正統性評価を遂行することができているけれども、当初計画していたシエラレオネ特別法廷の臨時の国際刑事法廷の遺産については十分な研究を行うことができていない。今後、シエラレオネ特別法廷に関してその現状と遺産を精査し、本研究を通じて構築しつつある正統性の指標をもとに、正統性評価を行うことが課題となる。また、研究計画時には想定し得ていなかった臨時の国際刑事法廷の遺産に関する体制として、2010年12月22日に、国連憲章第7章下で行動する安全保障理事会によって「刑事法廷に対する国際的残余メカニズム(the International Residual Mechanism for Criminal Tribunals:略称、MICT)」が設立された。今後、このメカニズムの内実や実効性について、さらには、本メカニズムと既存の混合法廷や常設の国際刑事裁判所との相互作用のあり方について検討を進め、国際刑事司法全体の一体性及び個々の法廷の個別性のあり方について大きな視点からの考察を行う必要がある。実際に訪問や調査を行えていない国際刑事法廷や混合法廷については、研究年度の最終年度に当たる平成25年度には訪問の見通しを立てて見聞を広め研究に活かしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画として、平成24年度には海外での研究発表の機会や国内での研究発表の機会があり、旅費を多く要したため、平成24年度末に行ったオランダでの在外研究の一部費用を平成25年度の研究費から支出することを計画している。次年度も研究報告の機会を得て、いくつかの国内出張を予定しているため国内旅費の支出が予定される他、関連文献を収集するため書籍といった物品費の支出が見込まれる。最終的には収集した文献を精読し、本課題の研究成果としてまとめることを目標としており、その際、研究成果を英語の論考の形式で出すのであれば、校閲の費用を計上することを計画している。
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