2012 Fiscal Year Research-status Report
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23730060
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
成瀬 剛 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (90466730)
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Keywords | 科学的証拠 / 証拠の許容性 / 裁判員制度 / 証拠の関連性 / DNA型鑑定 / 刑事証拠法 |
Research Abstract |
今年度の前半は,まずイギリスの法律委員会が公表した専門証拠(Expert Evidence 科学的証拠と非科学的専門証拠の両方を含む概念)の許容性基準に関する諮問書及び最終報告書を検討し,イギリスが導入しようとしている信頼性基準(アメリカのDaubert・Kumho基準を洗練させたもの)の具体的内容及び同国が信頼性基準を採用するに至った経緯・理論的根拠を明らかにした。 また,オーストラリア法改正委員会の報告書を検討し,同国がDaubert基準を拒否した理由を明らかにするとともに,同改正委員会の報告書を受けて制定された1995年証拠法が専門証拠に対していかなる規律を及ぼしているかについて考察した。 今年度の後半は,まずカナダの専門証拠規律に関するリーディングケースであるMohan判決,J.L.J.判決(いずれも連邦最高裁判所の判決)を検討し,同国が関連性概念の下で専門証拠の危険性に対処しようとしていることを明らかにするとともに,近時,オンタリオ州最高裁判所によって出されたAbbey判決を分析し,非科学的専門証拠に対する許容性基準の在り方を考察した。 さらに,ドイツの専門証拠に対する規律を検討するため,Eisenbergの証拠法注釈書などを精読し,同国では上級審が信頼性の乏しい専門証拠に依拠した下級審判決を破棄するという方法により証明力段階で一定の規律を及ぼしていることを明らかにした。 以上の通り,今年度の研究成果は,イギリス・オーストラリア・カナダ・ドイツにおける専門証拠の許容性基準を具体的に提示するとともに,各国が異なる許容性基準を採用している理由を明らかにしたことにある。この成果は,本研究の最終目的である日本の科学的証拠規律を考察するにあたって貴重な指針を提供するものであり,重要な意義を有する。 なお,これまでの研究成果の一部を論文にまとめ,法学協会雑誌に掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,以下の3つに分けられる。第1に,関連性概念の意義・機能の再定位及び同概念の下で議論される証拠群(科学的証拠,悪性格・類似事実による立証,証拠物の同一性・真正性など)に対する許容性判断基準の異同の明確化,第2に,科学的証拠に対して特別な許容性基準を定立する根拠及びその根拠の妥当する証拠の範囲(特別な許容性基準の射程)の提示,第3に,科学的証拠一般に妥当する許容性基準の導出である。今年度の研究成果は,これら3つの目的に対して,以下のような意味を持つ。 まず,第1の目的との関係では,イギリスの悪性格立証に関する立法の動向を考察することにより,この問題の関連性概念における位置づけを明確化した。また,オーストラリアの1995年証拠法における関連性規定を検討することにより,証拠の同一性・真正性に対する規律を明らかにした。 次に,第2の目的との関係では,イギリスの法律委員会が信頼性基準を定立する根拠として,アメリカのDaubert判決が述べていた意見法則との関係だけでなく,信頼性の乏しい専門証拠の危険性及び証明力段階でその危険性に対処することの困難性を挙げていることを明らかにした。また,イギリス・オーストラリア・カナダでは,専門証拠全体に対する許容性基準という枠組で議論が行われており,特別な許容性基準の射程を科学的証拠に限ってきた日本の立場について再考する必要があることを示した。 最後に,第3の目的との関係では,Daubert基準を発展させるイギリス,手続的規律を重視するオーストラリア,関連性概念による対処を試みるカナダという形で,各国の独自性を明らかにすることにより,科学的証拠一般に妥当する許容性基準として複数の選択肢が存在することを明らかにした。 以上の通り,今年度の研究成果は,3つの研究目的全てに対してそれぞれ重要な貢献をするものであるので,上記の自己評価をした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度前半は,まず,科学的証拠に関する議論の相互参照が著しい英米法4カ国(アメリカ・イギリス・オーストラリア・カナダ)の影響関係をまとめる。その上で,これまでの比較法研究の成果を,日本における最新の議論(例えば,司法研修所編『科学的証拠とこれを用いた裁判の在り方』〔2013年3月〕)と照らし合わせながら,さらに考察を深める。 平成25年度後半は,これまでの全考察を踏まえて,まず,日本における関連性概念の意義・機能を再定位し,科学的証拠に対する許容性基準とこれまで関連性概念の下で論じられてきた他の証拠群に対する許容性基準との異同を明確化する。その上で,科学的証拠に対して特別な許容性基準を定立する根拠及びその射程を明らかにし,科学的証拠一般に妥当する許容性基準の導出を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず,次年度に使用する予定の研究費が約18万円存在する。これは,①昨年度からの繰越金が約11万円あったことに伴い,本年度の研究費が当初の予定よりも多かったこと,及び,②後に述べる次年度のアメリカ出張のための旅費を捻出するため,あえて物品費の予算執行を抑えたことによるものである。 その結果,次年度は新たに請求する分と合わせて,約88万円の研究費を使用できることとなる。その具体的な使用計画は,以下のとおりである。 まず,次年度は科学的証拠に関する議論の相互参照が著しい英米法4カ国(アメリカ・イギリス・オーストラリア・カナダ)の影響関係をまとめるので,その検討のために各国の証拠法関連図書を10万円ずつ購入する予定である(10万円×4カ国=40万円)。他方,日本においても科学的証拠に関する議論が急速に進展しているので,その最新動向を把握するため,日本の証拠法関連図書も10万円程度購入する。 また,次年度は,昨年度に引き続き,もう一度アメリカへ出張する予定であるので,その旅費として35万円を充てる。この出張では,科学的証拠の許容性に関する議論を生み出したアメリカが今後どのような方向に向かおうとしているのかについて,他の4カ国(イギリス・オーストラリア・カナダ・ドイツ)の議論状況を踏まえながら,現地の研究者・法律実務家と意見交換をする予定である。 さらに,各国の科学的証拠規律を検討するに際しては,当然のことながら,図書のみならず,各国の判例・裁判例及び論文も大量に分析・検討する必要があるので,そのデータベース資料の印刷代及び図書室における文献複写代として,約3万円使用する予定である。
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Research Products
(4 results)