2012 Fiscal Year Research-status Report
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23730067
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
原田 和往 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (20409725)
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Keywords | 刑事訴訟法 / 公訴時効 |
Research Abstract |
平成24年度は,時の経過に伴う弊害から被疑者の防御権を保護する手段となると考えられる,憲法37条1項の迅速裁判条項に関して,従来の議論の整理・分析を行った。分析の結果,公訴時効制度との間に趣旨・目的の共通性を認めるか,また,共通性を認めるとして,当該制度による保護で足りるとみるか,という2つが,同条項による保護の在り方をめぐる議論の争点となることがわかった。まず,防御権の保護は制度の目的ではないとして,共通性を否定する場合,公訴時効の有無は,迅速裁判条項の適用範囲に直接影響するものではなく,迅速裁判条項の公訴提起前の段階への適用の可否は,公訴時効制度の在り方とは独立して議論されるべきことになる。 これに対し,両者に共通性を認める場合,公訴時効による保護に対する評価によって立場が分かれる。例えば,当該制度にによる対応で足りるとみるならば,「犯罪行為が終わったときから公訴提起に至るまでの間における被疑者の受くべき一般的不利益については,既に公訴時効制度によりこれを償つている。したがつて,所論の迅速裁判条項の精神を被告人たる以前の段階に推及するとしても,それは当該被疑者に対し逮捕その他の強制捜査が開始された後に限られる」(福岡高判昭57・9・6)として,条項の適用範囲は制限されることになる。他方,「公訴提起の遅延は公訴時効制度によつても防止することができ,それ自体極めて有効・強力な制度的保障であるけれども,公訴時効は法定期間の経過により,画一的に公訴権を消滅させるものであつて,いわば最少限の遅延防止を形式的に保障するに止まり,公訴提起の遅延を実質的に防止するためには,なお不十分な制度である」(熊本地判昭54・3・22)として,その対応は十分ではないとみるならば,前者の存在によって一律に後者の適用範囲が制限されることにはならない。この議論枠組みを抽出できたことが本年度の成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,平成16年及び平成22年の法改正を経た現行の公訴時効制度を前提として,今後,公訴時効が廃止された犯罪の刑事手続において,訴追まで長期間が経過している場合に,時の経過に伴う弊害に個別に対処する必要性の有無,及びその理論的根拠を検討することを目的としている。 本年度の研究では,上述したとおり,時の経過に伴う証拠の散逸に関し,被疑者の防御権を保障する手段となりうるものとして,迅速裁判条項に着目し,公訴時効制度との関係について検討を加えた。その結果,一部犯罪に対する公訴時効の廃止は,原則として,迅速裁判条項の適用範囲の拡張を促す方向に作用することはあっても,これを否定するものではないことが明らかとなった。このことは,公訴時効が廃止された犯罪の刑事手続において,訴追まで長期間が経過している場合の個別的な法的保護の要否及びあり方を検討するという本研究の目的にとって重要である。本年度,この点が明らかにできたことから,研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の3年目であり,最終年度でもある平成25年度は,アメリカ法を対象とした比較法研究で得られた知見を加味し,公訴時効に代わる個別の対応策を構築することを目的とする。これまでの研究から,アメリカ法では,憲法の迅速裁判条項だけではなく,適正手続条項も起訴前の遅延に対処するための法的手段として考えられていることが判明している。そこで,本年度は,アメリカにおける起訴前の遅延への法的対応に関する議論及び刑事手続において被告人に有利な証拠が散逸した場合の法的対応の在り方に関する議論を確認・分析し,対応措置の実質及びその理論的根拠を整理した上で,平成16年及び平成22年の公訴時効制度の改正に関する議論において,時の経過によって証拠が散逸するという経験的事実に対し如何なる評価が加えられているかを踏まえて,これらの対応策に関する議論の中で日本に応用可能なものを選別することが中心的な課題となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は,刑事手続において証拠が散逸した場合の法的対応の在り方について検討した学術文献等の収集に使用するとともに,収集した文献を整理するためのファイル及び電磁的記録媒体等の文具の購入に使用する予定である。また,次年度の研究を遂行するにあたっては,会員である早稲田大学刑事法学研究会に参加し,大学院在籍時から研究テーマについて助言を仰いでいる研究者から助言を得る予定である。次年度の研究費は,このための旅費にも使用する予定である。
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