2011 Fiscal Year Research-status Report
取調べの録音・録画制度のあり方および刑事司法に及ぼす影響
Project/Area Number |
23730071
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
堀田 周吾 首都大学東京, 社会科学研究科, 准教授 (30381437)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 取調べの録音・録画 / 自白の任意性立証 |
Research Abstract |
平成23年度は主に、国内およびアメリカ合衆国の議論を整理することに充てた。わが国の議論状況は、概ね次のように総括することができる。第一に、取調べの録音・録画制度は、取調べの適正確保のための手段であると同時に、取調べの状況を事後的に検証可能とすることで供述の任意性立証に資するという狙いの下で、その導入の必要性が主張されている。第二に、賛成論の多くは、その理論的基礎を憲法上の権利に求めるのである。 もっとも、諸文献を分析した結果、同制度を被疑者が享有する憲法上の権利からの要請であるとみることには疑義が生じた。日本国憲法の34条、37条、38条の解釈からは、取調べ状況の録音・録画を請求する権利が被疑者に与えられると結論付けるのは困難だからである。アメリカでも、たしかに、デュー・プロセス上の証拠保存義務を根拠に取調べの録音・録画を義務化する判例は州レベルでは存在するものの、それは合衆国憲法修正5条の一般的な解釈からは乖離しており、多数の支持を得るには至っていないのである。なお、以上の考察の成果は、堀田周吾「取調べの録音・録画と被疑者の権利」法学会雑誌52巻2号(平成24年1月)に掲載した。 また、アメリカの議論状況を学説・判例の両面から分析すると、憲法論とは一線を画した、あくまで供述の任意性立証を目的とした政策的措置として同制度を捉える近年の傾向が明らかになった。この点に関する成果は、堀田周吾「取調べの録音・録画と合衆国裁判所の監督権」法学会雑誌53巻1号に掲載予定である(平成24年7月)。 以上の成果は、本研究における3つの柱の1つである(1)わが国における取調べの録音・録画制度の理論的基礎の考察に関わるものであるが、さらに、平成24年度の主な課題である(2)具体的な制度設計と(3)同制度が刑事司法全体に及ぼす影響を考察するうえでも重要な前提をなすものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたとおりに、取調べの録音・録画制度の理論的基礎の考察は一つの区切りをつけることができている。同時に、論文の形で成果をまとめるには至っていないものの、制度設計のあるべき方向性や刑事司法全体への影響についての検討も進みつつある。最終年度である平成24年度中に、本研究の目的を達成する目途を立てることができた。 なお、平成23年度に予定していた渡米調査は、平成24年度の夏季に実施することとした。渡米調査の機会からより多くの成果を得るために、文献研究に基づく考察をさらに進めておくべきであると判断したためである。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、第一に、アメリカ合衆国における重要な捜査行為規範であるミランダ原則と、取調べの録音・録画制度との関係を明らかにする。第二に、渡米調査で、取調べの録音・録画を前提とした捜査実務の現状を分析する。第三に、その成果をふまえて、日米の刑事司法の違いにも十分に配慮しながら、わが国における同制度のあるべき方向性を探ることにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度に引き続き、必要な図書その他物品を購入するほか、渡米調査のための渡航費等に充てる。訪問先の候補として、カリフォルニア大学バークレー校のCharles D. Weisselberg教授、サンフランシスコ大学のRichard A. Leo教授、テキサス州ヒューストン市警察などを検討中である。
|