2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730077
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
根本 尚徳 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (30386528)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 予防 / 差止請求権 / 危険責任 / 免責要件 / 不可抗力 |
Research Abstract |
まず,本年度の前半(2011年8月まで)には,本研究の基礎作業の1つとして,法益侵害の予防を目的とした法制度の1つである差止請求権(制度)に関する基礎理論((1)発生根拠論および要件論・効果論に関する基本枠組み,および(2)差止請求権制度の機能・体系的位置それぞれに関する私見)をまとめる作業に取り組んだ。 また,同じく基礎作業の1つとして,本研究のテーマに関連する日本およびドイツの文献を調査・収集し,それらの解析に力を注いだ。当該作業を通じて,(後に言及する危険責任に関する具体的成果を得るとともに)我が国およびドイツ,さらにはヨーロッパにおいて従来,展開されてきた(また現に展開されている)上記テーマをめぐる議論の概要の把握に努めた。 さらに,本年度の後半(2011年9月以降)には,本研究のテーマに関連する具体的問題の1つとして,いわゆる危険責任の法的性質,特にその免責の可否(免責要件の充足の有無)に関する一般的な(あるべき)判断方法如何という問題を取り上げ,これについて,ドイツにおける不可抗力要件をめぐる議論に手がかりを求めつつ,理論的考察を試みた。その結果,危険責任の免責の可否に関する判断は,その帰責事由の存否に関する判断といわば表裏一体の関係にあるものと解されるべきであることを明らかにした。 加えて,2012年3月には,マックス・プランク国際私法・比較法研究所(ドイツ・ハンブルク)およびミュンスター大学(同国・ミュンスター)をそれぞれ訪れ,本研究のテーマに関連する最新の資料を調査・収集した。合わせて,上記テーマをめぐるドイツの最新の議論状況を知るべく,Prof.Dr.I.Saenger(ミュンスター大学。民法・商法・消費者法・民事手続法)に,この点に関する聞取り調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,本研究に与えられた研究期間の初年度に当たる。この1年間を用いて,当初その実施を予定していた基礎作業((1)差止請求権の基礎理論に関する総括,(2)国内外の文献調査・収集およびそれらの解析,(3)ドイツの研究者に対する聞取り調査)をすべて行った。これらによって,次年度以降における本研究の基盤を確立することができた。 すなわち,第1に,国内外の文献調査・資料収集を精力的に実施した。その結果,本研究のテーマに関連する最新の文献(特に国外の文献に関しては,未だ国内の主要図書館に所蔵されていないものを含む)を入手しえた。 第2に,それらの分析の解析に努めた結果,我が国およびドイツ,さらにはヨーロッパにおいて従来,展開されてきた(また現に展開されている)上記テーマをめぐる議論の概要を把握しえた。これらの作業は,来年度(2012年度)および再来年度(2013年度)における具体的課題の分析((1)ドイツ法上の利益剥奪請求権制度の機能上の特徴および限界,ならびにその理論的問題点などに関する検討,(2)英米法上の懲罰的損害賠償制度の日本への導入の可否に関する考察)を進めていくための基礎となるものである。 さらに,Prof.Dr.I.Saengerからは,本研究が取り組んでいるテーマ(問題)が理論的にも実践的にもドイツ,さらにはヨーロッパにおいて喫緊の検討課題であり,興味深い重要なものであるとの感想を得るとともに,来年度以降における本研究への継続的・具体的支援(上記テーマに関する最新情報の提供の他,例えば,本研究の中間および最終成果をまとめた独文のペーパーに対するコメントやアドヴァイスなど)の約束を取り付けた。 なお,上記のとおり,本研究のテーマに関連する問題について考察を深め,その結果を学術論文としてまとめることができたことも,現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」と評価した一因である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究に与えられた研究期間の第2年目に当たる来年度(2012年度)においては,本年度(2011年度)にすでにその解析を終えた文献資料等および上記聞取り調査の成果を基にして,民事責任法を通じた法益侵害(違法行為)に対する一般予防の可否をめぐる従来および現時のドイツにおける議論の概要を整理する論文の執筆に着手する。 合わせて,すでに収集し終えた文献資料等の検討を引き続き進めながら,ドイツ法上の利益剥奪請求権制度に関する分析に研究の重点を移していく。これについては,来年度後期中に,その成果(の要点)をドイツ語のペーパーにまとめた上で,これをドイツ人研究者(前出のProf.Dr.I.Saengerの他,ドイツ不法行為法,ヨーロッパ不法行為法を専門的に研究する別の研究者も候補として予定している)に送付し,それに対するコメントやアドヴァイスなどを求める。そして,それらを踏まえて,最終的には日本語で学術論文をまとめる。 上記2つの論文執筆作業を促進するために,まず,来年度前期および後期に,本研究・研究代表者が所属する国内(東京,京都,札幌)の研究会や,本研究が取り扱う問題に研究代表者と同様に関心を寄せている他の研究者の主催あるいは所属する研究会に複数回出席し,そこで上記2つの論文それぞれに関する報告を行い,それをめぐって参加者と意見を交換する。 また,来年度後期には,ドイツを短期間訪問し,上記2つの論文それぞれの主題に関する文献資料のうち,日本では発見・入手することの困難な最新のものについて補充調査を実施する。合わせて,ドイツ人研究者より,事前に送付した独語ペーパー(本研究の成果の要点をまとめたもの)に対するコメントやアドヴァイスを直に受ける(この点については前述した)。さらに,それらを基にして,ドイツ人研究者と本研究のテーマに関して意見交換を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度(2011年度)に配分されていた研究費は,ほぼ当初の予定どおり,使用した。なお,若干の残余分は,本来,本年度末に発注した洋書の代金の支払いに充てるために,残しておいたものである。しかし,それらの書籍が本年度中に届かなかったために,それらを執行しえなかった(これらの研究費は,次年度に洋書が手許に届き次第,それらの代金の支払に充てる予定である)。
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