2012 Fiscal Year Research-status Report
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23730077
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
根本 尚徳 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (30386528)
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Keywords | 予防 / 差止請求権 / 危険責任 / 免責要件 / 不可抗力 / 集団的消費者被害 / 適格消費者団体 |
Research Abstract |
本年度は,初年度に開始した国内外の文献の調査・収集・解析作業を継続しつつ,すでに獲得した研究成果を発表すること,そして,それに関して国内の研究者との間で意見交換を行うことに力を注いだ。 すなわち,まず,1つの研究論文(拙稿「免責の判断構造 ―不可抗力要件をめぐるドイツにおける議論を手がかりとした一考察―」現代民事判例研究会編『民事判例IV 2011年後期』(日本評論社,2012)121頁以下)を公表した。これは,民事責任(特に危険責任)の免責に関する一般的な判断構造を究明したものである。 また,他大学の研究者が主要な構成員となった研究会における研究報告を計2回実施した(①第10回ライフ・イノヴェーション研究会での研究報告(2012年7月14日,名古屋大学にて。題名「集団的消費者被害と差止請求権―原理的・具体的課題の整理と展望―」),②科研基盤A「財産権の現代化と財産法制の再編」研究会での研究報告(2013年3月16日,京都大学にて。題名「差止請求権制度の機能・体系的位置について―物権的請求権・債権・差止請求権―」))。前者では,いわゆる集団的消費者被害を一般的に予防するために導入された適格消費者団体による差止請求制度に関する原理的問題と解釈論的問題の双方について考察した。また,後者では,民法上,最も重要な予防手段である差止請求権に関する一般原理について,日本とドイツとの最新の議論状況を踏まえて理論的検討を行った。いずれに対しても,各研究会の参加者から多くの意見を得ることができ,今後,本研究をさらに前進させるために,より一層の検討を加えるべき新たな課題を発見した。 加えて,本年度の研究成果の一部(適格消費者団体による差止請求の請求内容に関する解釈論的問題の整理と検討)を論文として公表すべく,現在,その執筆作業に取り組んでいる。近日中に,脱稿しうる見込みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,まず,前述したとおり,初年度の研究成果を漸次公表し,日本国内の多数の研究者にこれに対する意見を求める機会に恵まれ,また実際に多くの論評(本研究の研究成果に対する賛成意見を含む)に直接に接することができた。これによって,本研究が順調に進んでいるとの確かな感触を得られた。さらに,そのような意見交換を契機として検討を深めた問題について,現在,論文を執筆している。 また,初年度に開始した基礎作業(国内外の文献調査・資料収集)を引き続き実施し,本研究の研究課題に関連する最新の文献,とりわけ,事業者の競争秩序違反行為に対する民事法上の一般予防を可能にするためにドイツにおいて導入されたいわゆる利益剥奪請求権に関する文献を多数,入手した(それらの中には,未だ日本国内の主要図書館のどこにも所蔵されていないものが複数存在する)。 さらに,それらの文献の解析を進めた結果,上記利益剥奪請求権制度に関するドイツの最新の議論状況(①この法制度をめぐる原理的課題,②この法制度が必要とされる紛争の類型的特徴,③この法制度を実際に運用する際に生じうる実際的・解釈論的問題など)の把握をほぼ終えた。 本研究の研究代表者は,次年度の後半(2013年8月~2014年3月)には,ドイツにおいて在外研究に従事する予定であるところ,本年度に行った上記のような分析作業を基礎として,次年度に現われるであろう最新の研究成果(上記制度に関する議論は,まさしく現在進行中であるため,今後とも研究成果が陸続と公表されることが予想される)を参照しつつ,また,現地の研究者および実務家と密に意見交換をしながら,本研究を進めれば,その研究期間の終了時(2014年3月)までには,その成果を1つあるいは複数の論文にまとめることができるものと考えている。この点もまた,本研究の現在までの達成度を前記②のように評価した理由の1つである。
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Strategy for Future Research Activity |
一方では,国内外の文献の調査・収集・解析を引き続き進めつつ,他方では,本年度にすでに行ったそれらの作業を基に,その成果を論文の形にまとめる作業に力を傾注したい。 本研究に与えられた研究期間の最終年度に当る次年度(2013年度)は,研究期間を大きく3つに分けて,それぞれごとに取り組むべき具体的課題を設定し,その達成に全力を挙げる。 まず,第一期(2013年4月~8月)においては,本年度(2012年度)に着手した論文の執筆を終え,これを脱稿すること,および同年8月からの在外研究に備えるべく,邦語文献に関する解析作業のまとめを行う。 次に,第二期(2013年9月~12月)には,ドイツにおいて,それまで日本国内では入手しえなかった文献があればそれを補充し,その後,これまで利益剥奪請求権制度について進めてきた研究の成果に関して,ドイツの研究者および実務家と意見交換を実施する。具体的には,それらの者に,研究成果の要点をまとめたレポートを事前に送付し,その検討を求めた上で,直接に会って,当該研究成果の意義やさらに詰めるべき問題点などについて意見を交わす。このような機会を2~3回持つことによって,研究成果のさらなる発展を期す。また,それらの意見交換の結果をも踏まえつつ,それまでに得られた成果を論文にまとめる作業にも着手する。 そして,第三期(2014年1月~3月)には,必要に応じて文献の探索・補充・解析作業や他の研究者・実務家との意見交換をも引き続き実施しつつ,論文の執筆作業に専念する。最終的には,本研究の研究期間終了時(2014年3月末日)までに論文を1つまたは複数完成し,できる限り早期に日本国内で発行される学術雑誌にそれらを公表することを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度(2012年度)に配分された研究費は,結果としてすべて執行せず,残額については次年度(2013年度)に繰り越すこととなった。これは,主として,本年度は,①当初,ドイツへの研究調査旅行を10日間実施する予定であったところ,先方の研究者とインターネット上で必要なやりとりをすることができたことなどのために,その期間を7日間に短縮しえたこと,②本年度の最後に京都大学における研究会にて研究成果の口頭発表(研究報告)を行うべく,そのために必要な出張費用の支出を当初,見込んでいたものの,その研究報告が(幸いにして)先方からの招待によるものとなったため,上記出張費用の出費を免れたことなどによるものである。これらの残額に関しては,次年度の第二期(2013年9月~12月)および第三期(2014年1月~3月)にかけて複数回行うことを予定しているドイツの研究者・実務家との間における意見交換(そのための出張費用およびそれらの研究者・実務家に事前に送付するレポートのネイティブ・チェックに要する費用など)に使用する。 また,本研究は,日本・ドイツの双方で今まさに議論が活発に交わされている問題を扱うものである。それゆえ,次年度(2013年度)にも,引き続き,この問題に関する重要な研究成果が日本国内およびドイツ国内において複数,公表されることが予想される。その際には,当然,それらの文献を,できる限り早く収集しなければならない(本研究のまとめとして執筆する予定の論文に,これらを反映させるため)。それゆえ,それらについても,適宜,研究費を用いる。 さらに,特に次年度の第一期(2013年度4月~8月)には,現在,執筆している論文(本研究に基づく研究成果の一部)を基に東京の研究会において研究報告を行い,それについて参加者との意見交換を行う予定である。そのためにも,与えられた研究費を支出する。
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