2013 Fiscal Year Annual Research Report
不法行為法における被害者像―注意義務及び注意水準との関係において
Project/Area Number |
23730078
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
永下 泰之 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (20543515)
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Keywords | 民事法学 / 損害賠償 / 注意義務 / 素因 / 法の経済分析 |
Research Abstract |
本研究は、不法行為法における被害者像を析出し、その析出された被害者像を基に、加害者及び被害者の注意義務・注意水準の機能的分析及び再設定を試みることである。前年度には、注意水準の設定につき、法の経済分析の観点からの研究を行った。その際には、ワシントン大学(@シアトル)に赴き、資料を収集するとともに、同大学のカランドリロ教授へのインタビュー及び意見交換を行った。 最終年度は、前年度の資料の分析・検討を行い、その成果を研究会にて報告した(北大民事法研究会及びEU消費者法研究会)上で、論文の執筆に専念した。同論文については、日本私法学会第77回大会にて報告するとともに、同報告での質疑応答の結果を論文に反映させ、公表した。なお、公表に際して、ドイツ(マックス・プランク外国私法・国際私法研究所@ハンブルク)にて資料収集及び同研究所の研究者と意見交換を行い、刷新をはかった。 以上の研究から得られた知見は以下のとおりである。被害者の素因(脆弱性)の故に発生・拡大した損害をも加害者が責任を負うとすると、加害者の注意義務・注意水準が高度化するが、これは被害者を「標準人」と措定しているから生じる問題である。ところが、現実的には社会参加者は「標準人」とは限らないところ、脆弱性を有する者は標準から外れる部分については自身で負担しなければならないとすると、社会参加者(潜在的加害者含む)の行動の自由が阻害されてしまう。したがって、行動の自由の保証のため、被害者像を「最低限の抵抗力」を有する者と措定することが望ましい。結果、加害者の注意義務・注意水準が高度化するが、加害者にとっても過大な負担となることは望ましくないため、被害者たる者が「最低限の抵抗力」を下回った部分については、調整が図られるべきであり(被害者自身が責任の一部を自己負担する)、ここで注意義務・注意水準の程度が最適化されることになる。
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