2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730079
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小野寺 倫子 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 博士研究員 (10601320)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 民事法学 / 不法行為法 / 環境損害 / 団体訴訟 / 集団的利益 |
Research Abstract |
本研究は、フランスにおいて実践されている団体訴訟による環境損害の救済を参照し、特定の人に帰属する利益の侵害を伴わない環境への侵害から環境それ自体に生じる損害=純粋環境損害について民事責任法による救済の可能性を探ることを目的とする。 伝統的に民事責任法の保護の対象は法主体に帰属する利益とされてきたため、純粋環境損害が民事責任法上保護の対象となるかどうかについては疑義が生じる。しかしフランスの学説は、純粋環境損害を社会全体あるいは国民に集団的に帰属する集団的利益の侵害、すなわち「集団的損害」と性質決定することによって純粋環境損害も民事責任法の保護の対象となりうると主張してきた。もっとも、近時の学説は、集団的利益とは本来社会全体ないし国民に集団的に帰属する利益ではなく、団体訴訟制度おいて保護される利益それも実体法上の利益というよりも訴訟法上の訴えの利益を意味するという批判を行っている。 上記フランス法の状況にかんがみ、本年度は、本研究の第一の到達目標であるN.Neyretのテーズ『生きているものへの侵害と民事責任』の分析を中心に純粋環境損害の法的性質と団体訴訟制度の関係について理論的検討を行った。成果公表として、この分析について7月1日に北海道大学民事法研究会において「人に帰属しない利益の侵害と民事責任―純粋環境損害と損害の<<personnalite>>をめぐるフランス法の議論について」というテーマで報告を行い、また北大法学論集62巻6号に「人に帰属しない利益の侵害と民事責任―純粋環境損害と損害の属人性をめぐるフランス法の議論からの示唆(1)」論文を公表した(北大法学論集63巻1号に続稿を投稿、現在印刷中である)。 3月には海外調査を行いマルタン氏(ニース大学名誉教授)、ブトネ氏(エクス・マルセイユ大講師)より最新の研究状況について情報を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度においては、当初の予定通りN.Neyretのテーズ『生きているものへの侵害と民事責任』の分析を中心に純粋環境損害の民事責任法上の法的性質についての理論的分析を行うことができた。この領域については本課題の申請から現在まで(2010年から2012年にかけて)もフランスにおいて議論が活発に行われたが、それらについても研究費によって逐次文献の収集を行うことができたため、フランスでの公表からほとんどタイムラグなく参照することができた。 この分析については、当初の予定どおり北海道大学民事法研究会において研究報告を行い、成果の公表を行うとともに参加研究者から有益な助言を得ることができた。さらに、これらの分析と研究会報告をもとに論文を執筆し、北大法学論集に投稿、連載を開始し成果の一部の公表を行うことができた。連載中の論文の続稿についても一部については既に査読を通過し現在印刷中であり、残りの部分も執筆中であって、24年度中に公表の予定である。 また、海外調査においては、計画段階で予定していた上記研究実績の概要に記したマルタン名誉教授、ブトネ講師に情報提供等協力を受けることができた他、パスカル・ステシャン教授(ニース大学、環境法・私法)、マルタン名誉教授の所属弁護事務所の同僚弁護士からも、環境法、民法、民事訴訟法の各側面から純粋環境損害に関する文献の紹介をうけまたフランス学説の状況に関する最新の情報をえることができた。それらの文献及び情報には、現在執筆中の中間成果報告としてのに対してはもちろんであるが、今後の本課題の研究に大きな意義のあるものが多く含まれている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進に関しては、現在執筆中の本課題の中間成果報告としての意義を持つ論文を完成させ、公表すると共に残された課題について文献及び海外研究者へのインタビュー等を通じて研究をさらに発展させる。 具体的な研究計画の概略は、以下の通りである。まず、これまで本研究前半においては、人に影響のない環境損害(純粋環境損害)について法主体への帰属と利益の担い手という観点に着目し、特にフランスの団体訴訟制度と環境利益の民事救済との関係について研究した。その際、保護の客体(対象)としての「環境」を民法の枠組みのなかでどう位置付けるか、という問題が浮上し課題として浮上してきた。前年度までの研究においてこの問題についてもフランス法には一定の理論的蓄積があることが分かってきたため、まずは文献の検討を中心に分析を進め、必要に応じてフランスの研究者の協力えてこの問題について研究をおこなう。 また、本課題申請の段階においては、団体訴訟制度を通じ不法行為法の問題として純粋環境損害の救済を目指すのがフランス民事責任法の学説の主流であったが、23年度の海外調査において、現在は民事責任法の枠組みの中でも契約に基づく純粋環境損害の救済が新たな研究対照とされているという情報を得た。同調査時に紹介された文献を参照しつつ、フランス法の分析を進め、日本法への示唆の可能性を探る。 なお、本研究については、本年度中に所属大学及び外部の研究会等で中間報告を行うことを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
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