2011 Fiscal Year Research-status Report
子の利益を中心とした共同親権制度に関する解釈論・立法論-フランス法を視座として-
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23730100
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
栗林 佳代 佐賀大学, 経済学部, 准教授 (90437806)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 共同親権 / 共同監護 / 交替居所 / フランス法 / 訪問権 / 面会交流(面接交渉) |
Research Abstract |
本研究の「研究目的」は、フランス法の共同親権および交替監護について判例・学説、立法過程を調査・研究し、明らかにし、わが国のハーグ条約批准を見据えての共同親権制度の導入の可否を検討することである。そのために、平成23年年度の「研究実施計画」は、1987年および1993年の法改正を通じて、すでに共同親権制度を導入しているフランス法について、その共同親権制度に関する判例・学説の状況および立法過程について、調査・研究することであった。この調査・研究のために、とりわけ、平成23年8月20日から9月20日にかけて、フランス・パリで調査・研究を行った。主な訪問先は、パリ大学、国立図書館、元老院、国民議会である。これらの場所において、調査・研究を行い、その結果、かなりの量の共同親権に関する文献および立法資料が得られ、一定の成果があげられた。実務家へのインタビューも予定していたが、現地で急な予定の変更があり、これは実現できなかったものの、とりわけ立法資料に関しては、元老院事務局の厚意により、フランス滞在中は、現地の事務局に立ち入り、資料にアクセスする許可をもらい、マイクロフィッシュ化された共同親権の立法過程に関する資料の全コピーを無料で提供してもらうことができた。具体的には、1970年、1972年、1987年、1993年の親子法領域における法改正に関する、元老院および国民議会での議論過程に関する資料である。これらの資料は、データ化されていない資料であり、インターネットなどを通じて入手することが困難であり、現地で現物を調査したうえでコピーする必要があり、また、本研究にとっては、重要な資料となる。現在は、フランスで入手した上記の資料を分析し、フランス法の共同親権制度について、研究を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの到達度として、おおむね順調に進んでいると考える理由は、以下のとおりである。 当初の平成23年度の「研究実施計画」は、先に述べたように、すでに共同親権制度を導入しているフランス法について、その共同親権制度に関する判例・学説の状況および立法過程について、調査・研究することであった。この領域における研究は、文献調査がとくに重要であり、これについては、平成23年のフランスでの調査・研究において、予定していたとおりの成果があげられた。 そして、本研究の最終的な「研究目的」は、ハーグ条約批准が現実化しつつある、わが国での近年の状況を見据え、条約批准のための国内法の整備として最も問題とされる共同親権制度の導入の可否について検討し、そして、それだけでなく条約自体の批准の可否についても一定の方向性を示すことである。この研究目的を達成するには、共同親権制度についての経験者であり、先進国であるフランス法の状況を、この制度の導入当時から現在に至るまで検討することで、有益な示唆が得られるものと考える。 以上から、現在までのところ、本研究は、おおむね順調に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方法として、主な方法は、平成23年度に収集したフランス法上の共同親権制度に関する文献を分析し、研究することである。そして、近年の学説の状況を知るためには、これらの収集した文献に加えて、最新のフランス家族法に関する書物およびコンメンタールを入手し、検討したい。さらに、共同親権制度が導入された後のフランス法上の状況、すなわち、1987年および1993年の法改正以降の実務の状況を知るために、判例を検討することも考えている。 そして、インプットと同時に、アウトプットを行っていきたい。すなわち、上記のフランス法上の共同親権制度の分析および研究の成果を随時、研究会や学会等で報告したいと考える。他の研究者からの客観的な目を通し、批判的に検討されることで、本研究がさらに客観性および一般性を持つものへと成長することを期待するからである。具体的には、平成25年の学会のシンポジウムにおいて、フランス法の共同親権制度について報告したいと考えている。また、国内の他の研究者により構成される研究会において、報告することも考えている。こうした報告の機会は、前回の科研費(若手B、21730086)の成果として出版した拙著(『子の利益のための面会交流―フランス訪問権論の視点から』)が、尾中郁夫・新人家族奨励賞を受賞したことを切っ掛けとし、与えられる。このような機会を有効に活かし、これまでの研究成果と有機的に結びつけられるような共同親権制度の研究にしたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年の「研究実施計画」は、日本法における親権制度および監護制度に関する調査および研究と、本研究の最終年度として、フランス法との比較研究における、まとめ作業を行うことである。 まず、日本法の検討としては、親権制度および監護制度について、明治民法の立法過程の資料や論文などから、これらの制度の起源を明らかにする。そのうえで、第二次世界大戦後の法改正を経て存在する現行民法上の親権制度および監護制度について、文献や判例を検討し、明らかにする。 そして、現在では、ハーグ条約の批准が現実化しつつあるが、この条約批准との関係で語られることが多い、共同親権制度の導入について、この制度の先進国であるフランス法の状況から示唆を得て、検討したい。共同親権の導入の可否については、これより先に面会交流(面接交渉)の拡充が急務である可能性もある。この点についても検討し、明らかにしたい。なお、ハーグ条約の批准は避けられないことになりつつあるが、それでも条約の批准の可否についても一定の方向性を示すつもりである。
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