2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730109
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
幡野 弘樹 立教大学, 法学部, 准教授 (40397732)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | フランス / 代理母 / 代理懐胎 / 公序 / 人間の尊厳 / ヨーロッパ人権条約 |
Research Abstract |
平成23年度は、「同意に基づく身体の処分に関する序論的考察」(13.研究成果の「図書」の欄に記載した論文が本論文である)という論文を発表することができた。この論文は、それ以前に脱稿した「代理懐胎と完全養子縁組」(松川正毅他編『判例に見るフランス民法の軌跡』(法律文化社)20―27頁)という論文(2012年4月に発表)の延長という意味があるため、まず「代理懐胎と完全養子縁組」について、若干の紹介を行う。同論文は、研究実施計画で言及したフランス破毀院全部会1991年判決の分析である。この判決により、フランスでは代理懐胎という技術を用いたとしても、依頼者夫婦は代理懐胎により生まれた子と(完全)養子縁組をすることができないこととなった。同判決は、代理懐胎行為は「身体の不可処分性」に反すると結論付けているが、そのような公序原則の存立基盤はそれほど確固なものではないのではないかという疑問を提起した。 その後に脱稿し、平成23年度に発表された「序論的考察」においては、1991年判決に対する上記の問題意識を前提として、ヨーロッパ人権裁判所判例の立場と、それに対するフランス民法学界のリアクションについて、分析を行った。ヨーロッパ人権裁判所では、サド・マゾ行為を処罰したというベルギーの事件に関する判決(2005年2月17日K.A. et A.D.対ベルギー判決)において、同意により身体を処分する自由を認めるかのように見える判断を下したが、フランス国内の民法学界では、そのような人権裁判所判例に対して、強い批判がある。そこで同論文では、批判的立場に立つパリ第1大学のファーブル=マニアン教授の論文を紹介した。ファーブル=マニアン教授は、代理懐胎を「公序原則」という見地ではなく、「人間の尊厳」という見地からコントロールすべきであると述べており、その点が興味深いと感じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」には、2点の目的を掲げた。1つは、申請時にはまだ実現していなかったフランスの生命倫理法の改正において、代理懐胎に関するルールが変更された場合、その変更へのプロセスを紹介することであり、もう1つは、フランスにおける身体の法的地位の問題を、代理懐胎の問題に則して検討することであった。 第1の課題については、2011年7月8日に生命倫理法の改正がなされたものの、代理懐胎に関する改正は、最終的に元老院の反対により見送られた。そのため、この課題については、現時点を基準にするとそれほど重要な意味を持たないことになってしまった。 第2の課題については、十分な進展があり、かつ、平成24年度においてもより深い考察を行う余地があることが明らかになった。この点については、「研究実績の概要」で詳述した通り、破毀院全部会1991年判決及び、ファーブル=マニアン論文が興味深い視点を提供してくれた。1991年判決に対する解説では、「人は同意により自らの身体を処分することができない」というルールは、実は「公序」というほど全面的に禁ずべきルールではないという批判がなされている。それを前提として、ファーブル=マニアン教授は、身体の完全性の処分は、部分的に「人間の尊厳」という権利から否定されるに過ぎないと述べている。興味深い指摘であり、第2の課題について十分な進展があったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」で述べた通り、第1の生命倫理法改正の紹介については、2011年法律が小規模な改正にとどまったこともあり、代理懐胎に対する規制という見地からは、それほど重要な意味を持たないものとなった。そこで、平成24年度は、第2の課題である「身体の完全性を処分する自由」があるか否かという問題をさらに深化させたいと考えている。 より具体的には、2つの課題を解き明かす必要があると考えている。第1は、フランス破毀院1991年判決では「身体の不可処分性の公序原則」があると確認したのに対して、そのような公序原則はないという学説上の批判が有力となっている。その批判は、より具体的にどのような論拠になっているのかを深く考えるという点が最初の課題である。 第2は、公序とは異なる「人間の尊厳」とは何かという問題である。フランスの実定法上、近時「良俗」という文言が用いられなくなり、その代わり「人間の尊厳」という文言が用いられるようになったという指摘がある。この指摘を分析しながら、「人間の尊厳」とは何か、ということを考えてみたい。 日本では、代理懐胎の可否について、十分な議論の深化があるとは言い難い。例えば、最高裁(最判平成19年3月23日民集61巻2号619頁)も、外国で代理懐胎をした場合の親子関係については判断を下しているが、代理懐胎の可否については、意図的に論じることを避けている。これに対して、フランスでは代理懐胎の可否につき正面から議論がなされている。そのような意味で、上記2点の分析は、日本における議論に対しても示唆的な視座をもたらすものと思われる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
フランスの近時の文献、あるいは日本のフランス法研究に関する文献についても、継続的に購入する必要がある。Droit de la familleという、フランス家族法に関する月刊誌は、とりわけ重要な文献であり、購入が必要であると考えている。 また、フランスにおける調査旅行も予定している。昨年度の研究も、調査旅行のおかげで日本にいては気づくことのできなかった、多くのことに気づくことができた。たとえば、判決文に、辞書を見ると類似の意味内容を持つ2つの動詞が並べられていたのだが、調査旅行を行うまで、その2つの動詞は法律上は全く異なる意味を有しているということに気づくことができなかった。そのような意味で、調査旅行は、単に知識を得るだけではなく、日本で1人で勉強していては気付かないことを発見しに行くという意味もある。本年度も、アンジェ大学のカロリン・デュパルク准教授、ソフィー・デュマ助教をはじめ、多くの学者にインタビューを行う予定である。
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