2011 Fiscal Year Research-status Report
契約成立段階の法的規律とその司法的性格に関する研究――契約形成論の深化のために
Project/Area Number |
23730110
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山城 一真 早稲田大学, 法学学術院, 助教 (00453986)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 契約法 / フランス法 / 国際情報交流 / 裁判官 / 法律行為 / 意思表示 / 契約の解釈 |
Research Abstract |
本研究は、両当事者の共通の意思を中核とする「契約」において、各個の当事者の意思からなる「意思表示」が問題とされることの意義を、わが国の問題状況に即して解明することを目的として進められた。この構想をより具体化すべく、本年度においては次の研究を遂行した。 (1) 本研究代表者の博士論文の未公表部分(日本法考察部分)を、本研究の成果を取り込んで叙述を大幅に改訂・補充したうえで公表した。この論文においては、上記構想に基づいて契約の成立・解釈に関するわが国の学説状況を整理し直し、契約法の規律を考察するにあたっては法の適用過程を看過し得ないこと等、本研究が「契約形成論」として定礎しようとする問題の所在を提示した。これにより(また、本研究の遂行過程において接触した海外研究者からの教示をも得て)、裁判官による関与、とりわけ採証法則との関係をも視野に入れたうえで契約の内容確定の問題を考察することが不可欠であり、そのためには「契約条項」に焦点を当てた考察が有益となるではないかという問題意識を新たに得ることとなった。 (2) 本研究から得られた知見の一応用として、貸金業者の営業資産譲渡契約中の条項の効力を問題とする最判平成23年3月22日(集民236号225頁)につき、契約解釈論の観点からの分析を行った。その成果は、『現代消費者法』12号にて公表した。 (3) 契約法に対する基本権論の影響につき、本研究費による助成によって得られた研究成果を踏まえて、仏文論稿の翻訳を行った(フィリップ・ストフェル=マンク「フランス契約法の基本権化」)。この翻訳は、平成24年度中に『早稲田法学』86巻4号にて公表される予定である。 (4) 以上のほか、「法認識論」を中心とする基礎理論文献の調査を進めるとともに、本研究の成果に属する複数のテーマにつき、三つの研究会報告を行い、貴重な教示を受けることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1 計画達成状況 「概要」欄(1)記載のとおり、当初計画していた調査を行ったうえで論稿を公表した。これは、「推進方策」欄記載の研究への前提作業としての意味をもつものである。また、本年度には「法認識論」の研究動向を追跡することも予定していたが、これも文献調査によって進めることができた。ここから得られた知見は、次年度以降の研究における方法的手順の設定(判例の分析方法等)の際に反映させたいと考えている。さらに、「概要」欄(3)記載の翻訳は、次々年度に遂行することを計画していた研究課題に深く関わっている。翻訳作業を進める過程で、フランスの2008年憲法改正が契約法にいかなる影響を与えるかといった問題を中心として、今後の研究に向けての展望を得ることができた。2 計画変更点 交付額減額の可能性が告知されていたため、本年度は資料収集を優先させることとし、初回交付額をこれに充当した。その後、残額交付を受けたものの、その時点で出張日程を組み直すことが難しくなったため、当初計画していた海外出張を行うことができなかった。その結果、今年度は資料収集が進捗した反面、海外調査は不十分となった。しかし、この点は次年度以降に調整することが可能であり、計画全体の進捗には大きな影響を与えない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降は、(1)「実績の概要」欄に記載した私見を発表し、批判を仰ぐ機会を求めるとともに、(2)その成果を発展させた論稿の執筆を進めることとしたい。 (1)については、パリ第2大学(共催:パリ第13大学、アンリ・カピタン協会。同年9月4~5日にパリにて開催予定)および大阪地方裁判所有志の研究会(高橋文清判事を中心とする)から招待を受け、それぞれフランス人研究者および裁判官を対象として、いずれも平成24年度中に研究報告をする機会を得ている。これらによって、フランス法の学説状況、および、わが国における法適用の現状に関する私見の当否をそれぞれ再検証したい。 (2)については、(1)から得られるであろう知見、および、フランス法における契約内容確定法理に関する研究(文献調査)を踏まえたうえで、平成24年度・25年度にわたって論文の執筆作業を進めたい。特に、契約条項が果たす理論的・実務的役割を念頭に置きながら、20世紀初頭の学説によって提唱され、合意の対象を画する役割を担ってきた「契約の領域(champ contractuel)」という観念に着目しつつ考察を進めることが有益であるとの見通しをもっている。その成果は、日本法において給付請求の可否・事実錯誤主張の可否等、契約法各領域における規律のあり方を左右する「法律行為の内容(への取込み)」という観念の具体的意義を解明することに大いに資することとなろう。その帰趨を見定めたうえで、平成25年には、契約の規制手法としての「立法」的規制と「司法」的規制の関係の解明に向けた本計画の最終テーマに着手することとしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今後ともおおむね当初計画どおりに研究費を使用することができる見通しであり、大きな計画変更の必要を認めない。ただし、「達成度」欄記載の事情から、平成24年度の研究費は、平成23年度に行うことができなかった海外での調査・研究報告に優先的に充当することとしたい(平成24年度に予定していた資料収集については、平成23年度の活動によって相当程度の実を上げることができたため、以上の調整によっても研究活動全体に対する障害はない)。具体的には、「推進方策」欄記載のパリでの研究報告に付随する日程で、2週間程度、現地研究者との面会・情報収集を行いたいと考えている。その際には、フィリップ・ストフェル=マンク教授(パリ第1大学)、オリヴィエ・ビュスタン講師(パリ第2大学)を初めとする諸研究者の協力が得られることとなっている。 以上のほか、「推進方策」欄記載のもの等の国内出張(大阪1回、京都2回を予定している)、国内・海外における文献資料収集、ならびに、研究遂行に必要な消耗品購入等に費用を充てることとしたい。
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Research Products
(6 results)