2011 Fiscal Year Research-status Report
ライフログの利用とプライバシー・個人情報保護に関する比較法的研究
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23730116
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石井 夏生利 筑波大学, 図書館情報メディア系, 准教授 (00398976)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 |
Research Abstract |
昨年度は、(1)プライバシー・個人情報の財産権論、及び、(2)個人情報保護法制と消費者保護法制の交錯について検討を行うことを予定していた。(1)については、予定に沿って研究を行い、年度末に「プライバシー・個人情報の「財産権論」-ライフログをめぐる問題状況を踏まえて-」(査読論文)を発表することができた。その結果、これまで議論されてきたいわゆる「財産権論」は看過できない曖昧さや自己矛盾を内在させており、個人情報の「財産権」を認めることはできないという結論に至った。一方、商品価値を伴って流通する個人情報について、これまでの「人格権か財産権か」という日本的議論に囚われなければ、純粋な契約法上の債権債務関係に解決を求めうることが明らかとなった。研究計画の冒頭で述べた"property"と「財産権」の違いに関しては、排他的支配性と自由譲渡性を有するという点において、両者に共通性は見られるものの、"property"を「取引財」として用いる例も多く、文脈に沿って慎重に判断し、理解する必要があることも改めて認識した。(2)についても調査を行っているが、プライバシー保護を消費者保護の一環として取り扱うアメリカにおいて、いくつかの新たな動きが見られる。例えば、2012年2月23日、消費者プライバシー権利章典を提案する「消費者データプライバシー」にオバマ大統領が署名し、権利章典に基づく立法化を進めている。FTCもこれに呼応する形で、同年3月26日に「急変する時代における消費者プライバシー保護」を公表している。現在は、こうした新たな動きを踏まえつつ、ライフログをめぐる問題全般をめぐり、共同執筆による書籍化を進めている。なお、2011年12月26日には、総務省情報通信政策研究所の「情報通信法学研究会」において、「ライフログに関する最近の問題状況」を報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね予定通りに研究を進めており、「個人情報の財産権論」に関しては、一定の到達点を示すことができたと考えている。他方、もう1つの論点である「個人情報保護法制と消費者保護法制の交錯」については、最近、新たな動向が見られる。個人情報保護を消費者保護の一環として捉えるアメリカでは、前記「消費者データプライバシー」や「急変する時代における消費者プライバシー保護」が公表され、「消費者プライバシー権利章典」の立法化や、インターネット上の活動を追跡拒否(Do Not Track)する仕組みの実現等が注目を集めている。また、日本では、スマートフォンのアプリを通じた個人情報の無断収集等が問題となっており、総務省の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」において、「スマートフォンを経由した利用者情報の取り扱いに関するWG」を設置し、同年1月20日より検討を始めている。また、こうした動きは、アメリカや日本だけではない。欧州連合では、2012年1月25日に「EUデータ保護規則提案」が公表され、「忘れてもらう権利」(個人情報の削除権及び拡散防止権)をはじめとする新たな制度的提案が行われている。日本では、アメリカのような「追跡拒否」の仕組みを導入するのか、欧州のような「忘れてもらう」ことまでを求めるのか、又は第三の道を探るのか、インターネット上に拡散した個人に関する情報をどのように取り扱うべきかに関し、その舵取りを検討しなければならない。以上のような次第であるため、本研究の最終目的である、日本における「デジタル化した個人情報の集積」に対するプライバシー権・個人情報保護のあり方に関する結論を達成するためには、EUをはじめとする国際的動向を踏まえつつ、より幅広い論点を検討する必要が出てきている。
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Strategy for Future Research Activity |
最近の新たな動向は、ライフログに関する論点を検証し直すべきことを示唆している。そこで、改めて次の整理を行うこととした。第1は、個人情報が追跡されることへの対応である。既に述べたとおり、欧州連合は、削除権を明確化するための「忘れてもらう権利」を提案し、アメリカは、「追跡拒否」に基づくオプト・アウトの仕組みを推進している。第2は、「準個人情報(個人情報未満の情報)」の取扱いである。「個人情報」は、従来から、「特定個人を識別できる情報」を意味してきた。しかし、オンライン上の行動履歴と結びつくのは、IPアドレス、クッキー技術を用いて生成された識別情報、携帯端末の個体識別番号などであり、それだけでは個人識別性を有さない。しかし、情報が長期間蓄積されると、徐々に個人の推定が及ぶようになり、プライバシー侵害の危険性が生じてくる。「EUデータ保護規則提案」では、「個人データは、データ主体に関連するあらゆる情報を意味する」という定めに変更されており、アメリカの「消費者データプライバシー」においても、個人データは「集積されたデータを含むあらゆるデータであって、特定個人と結びつくもの」であれば良く、「特定のコンピュータ又は他の装置と連結されるデータを含む」と定義づけられている。第3は、第1とも関係するが、行動ターゲティング目的で取り扱われる個人情報に関する規制のあり方である。最近では、民間の自主規制に政府がエンフォースメント等で補強措置を伴う「共同規制」という手法に注目が集まっている。今後は、従来から予定している「捜査機関によるライフログの利用」に加え、これらの論点の考察にも注力していきたい。なお、上記第1から第3の論点は、「個人情報保護法制と消費者保護法制の交錯」をより精緻化し、敷衍したものである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度の繰越額が生じた理由は次の通りである。(1)購入予定であった書籍や論文集等(とりわけ外国文献)について、図書館での貸出やデータベースを利用することにより、研究を進めることができた。(2)専門家へのインタビューを行ったが、謝金は辞退された。(3)学会で報告予定であったテーマに変更が生じ、本研究とは異なる内容で参加することとなった。他方、今年度以降は、前記のとおり、アメリカのみならず、国際機関等を含めた形で、幅広く個人情報保護や消費者保護に関する外国文献を入手する必要が生じている。例えば、「データ保護とプライバシー 各国ガイド」(UK, Sweet & Maxwell)2012年3月刊(44,541円)、「世界各国の個人情報保護法制度」(US, Aspen Publishers)追録年3回(107,950)円等、網羅的に整理された文献を購入し、最終年度に備える。ところで、最近注目を集めている共同規制の手法は、経済学の分野でも議論されている。そこで、平成24年度は、情報に関する法制度や自主規制を研究する専門家のみならず、経済学の研究者の中で、この問題に関心を持つ人物にもインタビュー調査を行う予定であり、実際に、数名の候補者をリストアップしている。また、本年度は、本テーマについて、学会等での研究発表を行う予定である。その他、前年度と同様、論文執筆に伴うトナーカートリッジや資料複写代金等に本研究費を用いる。
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Research Products
(2 results)