2012 Fiscal Year Research-status Report
文化政策における知的財産法の役割:その意義と限界について
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23730119
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小島 立 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (00323626)
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Keywords | 文化政策 / 文化多様性 / 知的財産法 / クリエイティブ産業 / 電子出版 / 現代アート / 伝統工芸 / 実演家 |
Research Abstract |
平成24年度は、前年度の研究を踏まえ、クリエイティブ産業において知的財産法が果たすべき役割について、より具体的な検討を行った。ここで検討対象として取り上げたのは、電子出版とファッションである。 電子出版については、前年度までの研究会報告や学会報告を踏まえ、公共図書館との関係についての検討を深めた上で、拙稿を公表した。ここでは、紙媒体の書籍との比較から、出版者の果たす役割がいかに変容しうるのかという点と、公共図書館が配信事業を始めた場合に、それはいかなる形で出版業界と競合関係に立つ可能性があるのかという点について、検討を行った。ここで明らかになったことは、電子情報取引の法規整の議論においてなされてきた様々な基本的論点(「公正利用」から「対価を通じた利用」へ、代替的補償制度の導入の可否、集中管理制度に伴う費用の社会における分担のあり方、など)を深めることこそが、電子出版についての議論を行う上で建設的な理論的基盤を形作るということである。 ファッションについては、社会学や経済学におけるファッション研究の知見を踏まえ、いわゆる「ブランド」が消費行動に重要な影響を与えると考えられる状況と、消費者自らが「流行に乗っている」と感じることが、消費行動において重要な意味を持つと考えられる状況の2つに分節した上で、それらの状況において知的財産法が果たしうる機能について考察した。ファッションについての理論的考察から明らかになったことは、現代社会における人間の消費行動のあり方(いわゆる「消費社会論」)について、知的財産法が貢献できる余地は極めて大きいという事実である。今後、その理論化に向けた議論を重ねて行きたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度には、クリエイティブ産業において知的財産法が果たすべき役割の具体的な検討として、電子出版とファッションについての検討を行い、業績として発表することができた。 また、平成25年度には、各論的検討として、実演家の活動の基盤を経済的に支える方策について、知的財産権のみならず、広く文化政策全体の観点から広く考察する予定である。また、その検討とともに、研究課題全体についてのまとめを行う見通しも立っている。上述の理由から、研究は概ね順調に進展していると評価するに至った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、実演家の活動の基盤を経済的に支える方策について、著作権のみならず、広く文化政策全体の観点から広く考察する。これにより、クリエイティブ産業において重要な位置を占める再現芸術において、知的財産法がいかなる役割を果たしうるのかということについて、見通しを得ることができると思われる。 また、今年度は、本研究の最終年度に当たるため、研究課題全体についてのまとめを行う。ここでは、文化多様性を達成するために、知的財産法が果たしうる役割とその限界について、クリエイティブ産業の具体的な検討に基づいて、一定の見通しを得ることを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費については、昨年度までと同様、国際会議や研究会等への出席や資料収集のための出張旅費、書籍購入費、必要な物品購入費、通信費に充当する予定である。
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Research Products
(11 results)