2012 Fiscal Year Research-status Report
転換期における政党の政策革新能力・戦略的柔軟性と政党組織の関係についての比較研究
Project/Area Number |
23730130
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
近藤 康史 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00323238)
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Keywords | 政党 / 社会民主主義 / イギリス労働党 / 日本社会党 / 新制度論 / 政党組織 |
Research Abstract |
日本社会党において、一方では総評の、他方では地方支部・活動家の発言権が保証され、指導部の戦略的自立性が「二重」に制約される政党組織が形成されたという前年度の成果を踏まえ、本年度においては、このような強い制度的制約下における、1970年代から80年代に至る日本社会党の路線転換について、主にイギリス労働党の路線転換過程との比較に基づき分析した。主要な論点は、これらの制度的制約下においても、なぜ日本社会党は一定の路線転換を達成しえたのか、しかしそれにもかかわらず、イギリス労働党の路線転換と比較した場合には、なぜその路線転換は不十分なものにとどまったのか、の二つであった。 本研究では、これらの論点に対し、新制度論および、「バーゲニング理論」やハーシュマンの「忠誠・離脱・発言」に注目して理論化を試み、党内アクター間における優越連合の組み換えによる党内制度改革の観点と、党指導部と労働組合との間での「政治的交換」の観点から分析を行った。その結果、日本社会党においては、イギリス労働党においてよりも、党指導部に対する労働組合の権力がより強くなることを示し、これらの枠組みに基づいて1970年代以降の日本社会党の路線転換について過程追跡を行い、上記の論点について解明した。以上の成果については、「社会民主主義政党の路線転換についての比較研究-イギリス労働党と日本社会党はなぜ分岐したのか-」として、『国際公共政策論集』第31号に発表した。 本研究の意義は、これまでも多くの論者によって議論されてきた「日本社会党の路線転換」の成功と失敗の理由について、主に新制度論などの理論的枠組みをもって、イギリス労働党との比較の観点から解明し、新たな解釈を提起した点にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、1980~90年代の社会民主主義政党について、特にイギリス労働党を中心としながら、日本社会党やドイツ社会民主党を事例に取り、①政党の政策革新能力・戦略的柔軟性と政党組織との関連性、及び②その能力や柔軟性を高める組織への改革が可能となった要因を、比較事例分析を通じて解明することを目的としている。 これまでの研究により、①と②の両方の論点について、イギリス労働党および日本社会党の両者に関して検討が進みつつあり、その比較の観点からの研究成果の発表も順調に行われている。またドイツ社会民主党に関しても、資料収集が順調に進んでおり、さらなる比較研究のための準備作業に入りつつある段階にある。その結果、これまで行ったイギリス労働党と日本社会党との比較から生み出された新たな論点も視野に入れながら、ドイツ社会民主党も含めたうえで分析を進められる状況にある。 さらに、今後の比較研究の土台・基礎となる理論枠組の構築に関しても、これまで行ってきた政党組織論・新制度論の観点に加え、合理的選択論などに基づく分析的叙述の観点も新たに包摂する形で一層の進捗を見ている。また、イギリス労働党と日本社会党との比較に関しては、実際にその枠組を利用して分析することで、その応用可能性を確認しつつある。 したがって、本研究の課題となる各論点の解明の状況も、三政党に関する分析の進行状況も、さらに、理論枠組の構築の観点からも、当初の研究の目的に照らして、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、政党の政策革新能力・戦略的柔軟性と政党組織との関係について、主に社会民主主義政党の路線転換過程に焦点を当てる形で、日本社会党を中心に分析を進めてきた。その結果、日本社会党についての検討をいったん終えた状況にある。 これまで本研究は、イギリス労働党から日本社会党へと続く形で、順を追って進んできたが、その結果、新たな論点が発生するとともに、理論的構築も進みつつある。今後は、これらの新たな論点を踏まえながら、新たな理論枠組をもって、もう一度イギリス労働党分析へと立ち戻り、日本社会党との比較を視野に収めたうえで、イギリス労働党の政党組織と路線転換との関係について、再検討する作業を行う。そのプロセスにおいて、イギリス労働党に関して更なる資料収集と調査を行う予定であり、資料の整理のために、大学院生を雇用する。 それに加え、三番目の事例・比較対象となるドイツ社会民主党についての分析および、イギリス労働党・日本社会党との比較に関しても、並行する形で進めていく。ドイツ社会民主党についての資料収集を引き続き進めるとともに、収集された資料をもとに分析を進め、三政党比較分析へと向けた構図を形成する。 また、理論枠組の構築についても、新制度論に合理的選択論を加える形で進んでいるが、今後、ドイツ社会民主党へと研究対象を広げていく中で修正を迫られる可能性もあり、引き続き比較政治理論の状況を幅広く検討しつつ、理論的な検討を続けていく。特に今年度は、本研究終了後を視野に入れた、より大きな視点からの分析につなげることも目的としながら、政党形成の根本的原理についての理論に重点を置いて、収集・検討を進めていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度においては、イギリス労働党・日本社会党・ドイツ社会民主党分析のうち、まず日本社会党分析および政党理論に関する資料収集を集中的に進めたこともあり、日本国内の機関での資料収集・調査が中心となった。そのため、イギリス労働党やドイツ社会民主党に関する資料収集・調査のための、外国機関への旅費を中心として、25年度に使用する予定の研究費が生じることとなった。 平成25年度においては、新たに請求する研究費を合わせ、第一には、イギリス労働党に関して、分析の進捗によって新たに必要となった資料を中心として資料収集を行う。第二には、ドイツ社会民主党についての資料収集を引き続き継続する。これらの資料収集のために、文献など様々な研究資料の収集を行うとともに、国内および国外の機関に赴いての調査が必要となる。また、これらの収集された資料の整理のために、ヨーロッパ研究を中心に行っている大学院生を雇用するとともに、それらの資料の保存とデータベース化のために、コンピューターおよびソフトを活用する。加えて、比較研究のための理論構築をさらに展開するために、比較政治理論・政党理論を中心とした政治学関連文献の収集を進め、検討を続ける。 また、研究の最終年度ということで、各政党に関する分析および最終的な比較研究について研究発表を行うとともに、それらの研究会や学会の場において、関連テーマに関する情報収集を行う。
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Research Products
(2 results)