2012 Fiscal Year Research-status Report
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23730134
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
西岡 晋 金沢大学, 法学系, 准教授 (20506919)
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Keywords | 福祉国家 / 制度変化 / 言説政治 |
Research Abstract |
平成24年度は福祉国家制度の制度変化の政治的メカニズムの解明という研究目的の達成に向け、前年度の研究成果を踏まえつつ、具体的な事例として日本の生活保護制度改革の政策過程の分析を進めた。 1980年代、生活保護制度では国庫補助負担率の引き下げなどを通じて、脱商品化抑制を企図した制度縮減が実施された。この際、中央政府は集権・融合型という中央地方関係のもとでの地方自治体への責任転嫁といった形で縮減を進めた。これに対して、2000年代にも同様に国庫負担削減による責任転嫁策が試みられたが、地方団体の抵抗に対して中央政府側が資源不足によって補償戦略を行使できず失敗に終わった。だが一方で、同時期には生活保護受給者の再商品化を主眼とする自立支援プログラムが導入されており、これは別ルートによる地方自治体への責任転嫁としてとらえることができる。そして、その過程では言説戦略が奏功したことを明らかにした。 生活保護受給者の過半数が高齢者や傷病者であり、稼働能力を有する者は限られていること、すなわち「自立」可能な受給者は全体の割合からすると少数であることを考え合わせるならば、近年の再商品化施策の導入や老齢加算制度の廃止などは、現実の社会的リスクに生活保護制度が的確に対応していないことを示している。したがって、その意味で、近年の生活保護政策においては「制度漂流」が生じていると考えられる。 最近の生活保護制度をめぐっては、メディアを中心に、不正受給や働ける世代の受給者が増加していることなどに焦点が当てられ、世論の批判を受ける形で保護費抑制に向けた動きが加速している。しかしながら、実際の生活保護の内実とメディアや世論における認識とのあいだには乖離が生じている。本研究はそのような乖離を埋めるためにも、学術的のみならず社会的にも有意義なものといえるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
福祉国家制度の制度変化の政治的メカニズムの解明という研究目的の達成のため、順次研究を進めている。平成24年度は、制度変化論や言説政治論に関連する先行研究を整理・検討した論考をまとめるとともに、日本比較政治学会において、本研究に関連する生活保護制度改革の事例分析の成果の一部について学会報告を行うことができた。したがって、おおむね順調に進展していると判断しうる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は24年度から進めてきた生活保護制度改革の政策過程分析を引きつづき行うとともに、もう一つの事例研究対象である医師数政策の政策過程分析を行う方針である。医師数政策については、2000年代に入って、政府は医師数抑制を基調とした従来の方針を変え、医師数の増加策へと舵を切った。医療政策分野では日本医師会という強力な拒否権プレイヤーが存在するにもかかわらず、制度転換が起きたのである。この制度転換の政策過程と政治的要因を探ることが25年度の主要な研究内容である。 そして、生活保護制度政策と医師数政策の二つの事例を比較検討し、本研究の最終的な目的である、なぜある制度は変化し、別の制度は変化しない(あるいは漂流する)のか、その要因と過程に関する政治的メカニズムを解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度においては、予定していた図書の購入等が年度内に間に合わず、次年度に繰り越しとなった研究費がある。これらの研究費は、平成25年度にあらためて、予定していた図書の購入等に充てる予定である。 平成25年度では引きつづき、先行研究を検討しつつ、事例研究を実施していく予定である。したがって、研究費は制度変化論や言説政治論、福祉国家研究等に関連する学術図書、生活保護政策や医療政策・医師数政策に関係する図書・資料等の購入費、資料収集や研究成果発表のための出張費、資料の分析や整理のための事務用品等に使用する予定である。
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