2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23730134
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
西岡 晋 金沢大学, 法学系, 教授 (20506919)
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Keywords | 福祉国家 / 制度変化 / 言説政治 |
Research Abstract |
平成25年度は福祉国家制度の制度変化の政治学的メカニズムの解明という研究目的の達成に向け、前年度に引き続き生活保護制度改革の政策過程分析を精緻化させるとともに、医師数政策の政策転換に関する政策過程の分析も進めた。 2000年代後半に入り、医療過誤や医療事故等を契機とする医療界への社会的圧力の高まりに対抗して、現役の医師などから反論がなされるようになり、「医療崩壊」言説が形成・構造化され、医療界が置かれている深刻な現状が徐々に政策アクターに認識されるようになっていく。またこの時期には、いわゆる「医師の名義貸し」問題が全国の大学病院等で発覚し、その根本的原因として医師不足の問題も認識されるにいたる。医療崩壊言説と医師不足言説が接合される中で、医師数問題が政治的アジェンダへと転化し、2008年6月、当時の舛添厚生労働大臣が、医師養成数の政策方針を抑制から増加へと転換させる考えを明らかにし、医学部入学定員の増員が図られた。 医師数政策の転換が起きたのは、現役医師の告発やそれを受けたマスメディアなどによる言説資源動員が成功したためである。これに対して、生活保護制度改革の場合には、支援団体やマスメディア等による言説動員はあるものの、受給者自身による言説動員が皆無に等しいこともあり、現実の社会的リスクに的確に対応できずに制度漂流が生じていると考えられる。すなわち、両者の差異は制度変化を導くための言説動員能力の差異によって説明できるだろう。 本研究は、福祉国家の制度変化に関する政治的メカニズムの解明という目的を達成し、学術的に理論的な貢献を成し得たものと考えられる。それに加え、社会保障制度改革は社会的にも非常に関心が高いことから、それらを対象とした本研究は社会的にも一定の意義をもつものといえるだろう。
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