2012 Fiscal Year Research-status Report
社会的ジレンマを克服する政治制度の構築:民主主義が機能する政治心理学的基盤の探求
Project/Area Number |
23730147
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
荒井 紀一郎 早稲田大学, 政治経済学術院, 助教 (80548157)
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Keywords | 政治心理学 / 社会的ジレンマ / 日本政治研究 / 世論調査 / 実験 |
Research Abstract |
平成24年度は、まず、前年度までに実施した多数派の形成と公共財供給に関する実験で得られた結果をまとめ、4月に米国中西部政治学会(MPSA)で報告を行った。この実験では、自分の選好どおりの行動をとった被験者と、自分の選好とは異なる行動をとった戦略的な被験者の両方が観察されたが、実験後の尋ねた調査では、選好どおりの行動をとったが結果的に失敗した被験者と、戦略的に行動して失敗した被験者とでは、前者の方が実験のルールや、多数決という制度、あるいは民主主義システムに対する満足度が下がることが明らかになっている。報告では、この結果に対して様々なコメントがあり、今年度はこれらのコメントも参考に実験デザインを修正して再度実験を実施する予定である。なお、現地で得られたコメントをもとにして、現在、海外の学術誌に投稿するための準備を行っている。 次に、本年9月から11月にかけて、全国118市町村、約12300人を対象として「地方自治と行政サービスに関する世論調査」を郵送にて実施した。この調査は、市町村合併が市民の行政・政治制度に対する信頼感、満足度、あるいは居住地域に対する帰属意識や人的なネットワークに与える効果を測定することを目的に実施された。調査は、人口動態や産業構成などをもとにした傾向スコアによって都市部、合併を実施した地方、合併を実施しなかった地方に分類した上で対象地区を抽出し、地区ごとの有権者名簿から無作為に対象者を抽出した。有効回答数は約4500人であった。 調査の結果、合併をおこなった地域に住んでいる市民と合併をおこなわなかった地域に住んでいる市民では、前者の方が有意に1)政治制度に対する不満が高い、2)居住地域に対する帰属意識(社会的アイデンティティ)が低い、3)祭りなどの町の行事への参加頻度が低い、ということが明らかになった。調査結果は、現在、学会等での発表準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
有権者が社会的ジレンマを回避し、協力行動を選択できるための条件や制度を明らかにするという研究目的の達成に向けて、本研究はこれまでのところ概ね順調に進展しているといえる。その根拠は、実験室での実験とインターネット上での調査実験、さらには全国郵送調査実験といった、本研究で実施してきた様々な実験によって、多くの知見が得られたことにある。 これらの実験の結果、有権者が協調するかどうかという選択を迫られた際に意識するアイデンティティ(帰属意識)が、強い場合には協調を選択しやすいということがわかっている。そして、自分が帰属していると思う集団の規模が大きくなるにつれ、強いアイデンティティを維持するのが難しくなっていくという結果も示された。一方で、有権者自身の過去の選択とその帰結が、その後の有権者のアイデンティティの強度や、制度に対する態度にも影響を与えているということも明らかになっており、今後は、有権者と制度とをより動態的に分析する必要があると考えられる。また、それぞれの実験結果から示される知見に相違が見られるものがあり、この違いが実験室、インターネット、そして郵送というモードの違いなのか、あるいは別の理由があるのかは今後検討していかなくてはならないと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、本研究計画の最終年度であり、基本的にはこれまで2年間の研究で得られた知見を整理しつつ、学会等での発表や学術誌への投稿によって成果を公開していくための準備を進める予定である。ただし、前述のとおり、これまでの実験で得られた知見に相違が見られるものについては、再度、実験を行ってその原因を究明し、実験結果の妥当性と信頼性を高めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費は、主に海外での学会報告のための費用で、現段階では、9月にシカゴで実施されるアメリカ政治学会(APSA)での発表を予定している。また、これまでの実験結果の妥当性と信頼性を高めるための小規模な追加実験も予定している。
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