2011 Fiscal Year Research-status Report
地域機構の国際規範ローカリゼーションに関する比較分析―反人身売買規範を事例として
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23730156
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中村 文子 東北大学, 国際高等研究教育機構, 助教 (80555243)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 国際情報交流 |
Research Abstract |
本研究はEUやASEANといった地域機構が、グローバル規範を地域に普及・内面化するプロセスの中でどのような役割を果たすのかを明らかにするものであり、とくに人権問題の一つである人身売買を例に議論するものである。まず、当初の研究計画通り、地域機構に関する先行研究をフォローした。EUにおける地域ガヴァナンスの理論モデルを研究し、それに人身売買の事例を当てはめ、同時にASEANにおける地域ガヴァナンスの現状を先行研究から概観し、ASEANにおける人身売買対策の限界をめぐって議論を展開した。それらの研究成果は、23年度末刊行の共編著、学会誌『公益学研究』、比較政治学会、国際政治学会、ジェンダー法学会、政治社会学会研究会において発表し、仙台市男女共同参加推進センターの市民講座でも報告した。また、当初の研究計画では、23年度はEUでのインタビューを行い、24年度にASEAN地域のインタビューを予定していたが、2011年3月の東日本大震災により研究環境の復旧に時間を要した事や、タイ関係者との人脈形成とそれに伴う訪問のタイミングを考慮し、ASEAN加盟国タイへのインタビューから敢行した。タイは人身売買のハブであり中心的な当事国であるため、反人身売買を掲げる国際機関やNGO等が数多く存在している。その中で、国連とNGOをつないで活動をしている国連機関、反人身売買活動をグローバルに展開しているNGOやタイ地域の人身売買に特化して活動しているNGO、在バンコク日本領事館(ビザ発給担当)とビザ発給センターのスタッフにそれぞれインタビューを行い、反人身売買ネットワーク形成の現状や国際・地域機構とNGOとの連携、また人身売買の主要な受入国である日本国の渡航許可における人身売買を未然に防ぐ政策等、大変興味深いインタビュー結果を得ることができた。これらの結果は24年度の研究に大いに反映されるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011年3月の東日本大震災の影響により、研究環境等が復旧するのに時間を要したこともあり、規範普及のプロセスにおけるEUとASEANの地域機構の役割を研究するなかで、「研究実績の概要」でも述べたように、23年度はEU地域ではなく、ASEANの加盟国の一つであり人身売買問題の中心的なアクターであるタイ(バンコク)でインタビューを刊行するという変更はあったが、懸念していたほど研究プロセスが遅れていることはなく、現在は順調に取り戻している。また、計画していた先行研究に関しては大変順調に進行し、その結果として、「研究実績の概要」で述べたように、共編著、学会誌、学会、市民講座等において十分な研究発表を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ASEAN諸国の他の国にもインタビュー調査を行う予定である。とくに、ASEAN本部があるインドネシア・ジャカルタを訪問し、ASEANの政策を立案している官僚により具体的にインタビューを行う予定である。とくに、NGOといった市民社会との連携や、ASEAN加盟国同士の連携、さらには近隣の人身売買の主要な当事国である中国、韓国、日本との連携や、今後の政策方針についても積極的にインタビューを展開する予定である。さらに、EU地域のインタビュー、とくにEU本部のあるブリュッセルにおいて官僚にインタビューを行う。また、在EU地域のNGOにもインタビューを行い、現状をさらに詳しく把握する。また、今年度は当プロジェクトの最終年度なので、23年度、24年度のインタビュー調査等をまとめ、理論を精緻化する。その研究成果は学会、研究会で発表し、学会誌においても論文発表する。さらにそれらをまとめたものを著書として刊行したい。それにより、国際政治学のコンストラクティヴィズムをめぐる議論や、地域機構をめぐるガヴァナンスの理論にも貢献したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、2011年3月の東日本大震災によって研究環境の復旧に時間を要したこと等により、機材等の購入が遅れたことや、インタビューの地域を変更して、当初計画していたヨーロッパ(EU地域)へのインタビューを次年度に延期することによって生じたものであり、延期した渡航に必要な経費として平成24年度請求額とあわせて使用する予定である。24年度は、EU地域(ベルギー等)へのインタビューのほか、今後の計画として前述したように、インドネシア(ジャカルタ)、カンボジアへもインタビューをさらに展開していく予定であるため、その渡航費用、および学会報告のための旅費、著書の刊行経費等に研究費を使用する予定である。
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