2011 Fiscal Year Research-status Report
中華人民共和国の対日「民間」外交と日中人的交流に関する実証的研究
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23730158
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
王 雪萍 東京大学, 教養学部, 講師 (10439234)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 中国 / 日本 / 外交 / 人材育成 / 日中国交正常化 / 華僑 / 日中関係 / 留学生 |
Research Abstract |
本研究の目的は中華人民共和国(以下:中国)の日中両国の人的交流をめぐる動きについて分析し、中国の対日外交における民間アクターと政府の関係を解明することである。特に、1972年の日中国交正常化までの間、両国には国交がなかったため、多くの中国政府関係者は民間の身分を使って、日本の民間団体と交流し、日本を訪れ、中国政府のために対日活動を行っていた。本研究は、中国政府が「民間」人的交流を活用して行った対日外交メカニズムを解明したい。 研究方法は、中国外交部档案館、上海市档案館などの史料館で公開している一次史料を重点的に収集し、分析する。また、中国日本友好協会や、中国青年団、中国婦女聯合会、中国国際広播電台、中国国家体育総局、中国総工会などの政府主導でありながら、対日「民間」活動を盛んに行っていた団体に保存されている資料を収集する。同時に、『中国留日学生報』や『大地報』などの中国政府の影響を強く受けながら、日本で発行された新聞資料を収集し、中国の対日「工作」活動のアプローチを解明するために利用する。同時に、当時中国政府の対日「工作」に参加していた対日「工作」者に対するインタビュー調査を行い、中国の対日「工作」システムを体系的に分析する。 2011年度の調査は、史料収集を重点的に行い、北京、天津、上海、広州在住の対日「工作」者への調査を行った。現段階調査の結果は以下の通りである。 廖承志は日本との経済、文化、「民間」交流を展開するために、父親である廖仲凱と母親である何香凝の人脈を広く使い、日本の華僑の支持を集めていた。周恩来との信頼関係を背景に、中共中央と政府機関の各部門が連携したタスクフォース的な性質を有する対日「工作」グループは形成された。それは日中国交正常化の早期実現に貢献したと言える。中国建国初期の対日外交は、廖承志を言及せずに語れないと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
档案史料調査:2011年5月~2012年3月まで5回に分けて外交部档案館、上海市档案館への調査を実施、外交部档案(432巻)、上海市档案(97巻)を入手し、分析中である。団体史料調査:中国において、中国総工会、中国青年団、上海市体育委員会の日本関連活動の資料収集を行った。『中国青年報』などの新聞資料、公刊書籍を入手できた。日本において、東京華僑総会、中国留日同学総会と中国政府の関係を解明するために、『華僑報』、『中国留日学生報』などの団体機関紙を入手し、現在資料リストを作成している。また、留日華僑、『華僑報』の編集委員を長期に務めた陳立清様が個人的に保存していた留日華僑・学生の活動関連資料をご遺族から寄付してもらい、東大駒場キャンパスの王研究室にて陳立清文庫を創設した。現在文献リストを作成中で、今後研究活動の使用だけではなく、ウェブサイトを通じて、対外的にも公開する予定である。また史料調査も予定より多くの史料収集ができた。 インタビュー調査:2011年度の申請書に書いた72名のインタビュー調査について、上海市档案館で大量の一次史料を発見し、収集に時間がかかったため、2012年3月まで北京、天津、上海、広州の33名の調査完了。インタビュー調査は、予定より実施人数が少なかったが、重点調査の調査対象に対して、2~4回の調査を実施し、より内容的に深い調査が実現できた。 学会・国際シンポジウムでの研究報告:2011年度に、アジア政経学会東日本大会(獨協大学)、国際シンポジウム「廖承志と戦後日中関係」(中国杭州市浙江旅遊職業学院)などの研究集会で、6回の研究報告を行い、研究成果を公表してきた。 以上の状況から、2011年度の研究実施状況はおおむね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度は2011年度には収集した資料の分析、聞き取り調査とシンポジウムにも重点がおかれることから、研究補佐(档案、資料リスト作成、聞き取り調査記録作成業務担当の大学院生2名)と研究代表者(王)が、初年度の活動を踏まえた上で、主に初年度に収集した調査資料の分析をおこなう。特に年度の前半では、初年度に取得した外交部档案、上海市档案館档案、『華僑報』、『中国留日学生報』と陳立清文庫の関連資料のリスト作り、新聞記事リスト作りを中心に収集史料の整理、インタビュー調査のテープ起こしなどの作業を行い、分析する。 同時に、8月~9月の夏休みを利用し、継続して聞き取り調査と史料調査を実施する。今年度の史料調査の重点は、中日友好協会、中国国務院華僑事務弁公室、中国婦女連合会、中国体育委員会などの団体の資料を中心に収集する。 他方、年度の後半(2013年2月を予定)に東京大学駒場キャンパスにてシンポジウムを開催し、本研究の資料調査、聞き取り調査の分析結果について報告し、討議をおこなう。またここに現れる問題点を整理し、その後の研究活動の必要性、可能性についてもあわせて話し合うこととする。シンポジウムでは、本研究の構成員だけではなく、中国の対日外交や日中関係についての学識がある先輩研究者にも参加していただき、本研究の研究成果に対する意見も広く求める予定である。その結果を踏まえて、研究報告書を作成し、HPなどを通じて、研究成果を公開する。 また、2013年3月に中国の上海復旦大学で開催する予定の国際シンポジウム「アジア未来会議・アジアにおける地域交流」のセッション「廖承志と日中国交正常化」で研究報告を行う予定である。このほか研究成果の公刊の準備を開始する(2013年度に刊行予定)。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年度は、初年度に収集した史料の整理、データベース化、インタビュー調査のテープ起こしを行った上で、追加調査を実施し、国際シンポジウムを開催し、中国で開催する国際会議で研究報告を行い、研究成果の整理と公表をより重点的に行う予定である。そのため、研究費の使用は、以下の通り、旅費と謝金を中心に使用する予定である。 資料整理、データベース化、聞き取り調査のテープ起こし、研究成果のHP掲載などの作業は、かなり時間と労力をかかる作業であるため、大学院生2名を研究補助者として雇用する予定である。そのための謝金は、今年度42万円を支出する予定である。 2012年8月~9月の中国北京市、上海市、武漢市での追加調査を行うため、関連出張旅費は29万円を支出する予定である。2013年2月に東京大学駒場キャンパスで開催する国際シンポジウムのために、2名海外研究協力者の日本への旅費、30万円を支出する予定である。また、2013年3月に中国上海市で開催する予定の「アジア未来会議」へ参加するための出張旅費、10万円を支出する予定である。以上の通り、2012年度に69万円の出張旅費を使用する予定である。 そのほか、本研究関連の研究書籍、文具などの消耗品の購入費用として4万円を使用し、研究資料のデータベース化のためのスキャンナーの購入費用として5万円を使用する予定である。 以上の使用予定を合わせて、直接経費として2012年度は120万円を使用する予定である。
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