2012 Fiscal Year Research-status Report
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23730166
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
鈴木 一敏 広島大学, 社会(科)学研究科, 准教授 (90550963)
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Keywords | 相対利得 / シミュレーション |
Research Abstract |
国際政治学におけるネオリアリストは、国家は相対利得を考慮するとして、ネオリベラリストを批判し、両者の間で論争が行われた。ところが、この論争は主に利得構造を一定とした静態的な2×2ゲームの繰り返しの枠内で行われていたため、本来リアリズムが想定していた相対利得を完全に捉えきれていない。なぜなら、相対利得は、現時点のゲームの結果が将来の国力・利得構造に影響を与えるという動態的な環境と切り離して考えることができないからである。 そこで本課題では①こうした動態的要素を組み込んだ一般性のあるモデルを作成し、②どのような条件下において相対利得が合理性を持つのかを包括的に検証することを目的とした。最終的には、社会科学一般におけるモデル化の際に相対利得を考慮する必要のある場合を理論面から特定することを目指している。 本年度は、23年度に作成した動態的な2×2ゲームとして表現した「繰り返し囚人のジレンマ」のシミュレーションモデルをもとに、どのような条件下で、相対利得を考慮する戦略が、そうでない戦略よりも優位に立ち生き残るのかを分析した。特に、(1)現在の利得構造が過去の累積スコアに受ける影響のあり方、(2)世界全体のプレーヤーの数、(3)各プレーヤーが交流を持つ相手の数、などの組み合わせによって、相対利得を持つことの合理性(つまりホモエコノミクス的な絶対利得に基づいて行動するプレーヤーに対する相対的な有利さ)がどのように変化するのかを検証した。その結果、全体的に見ると、システム内のプレーヤー数や交流相手数が少ない場合には、相対利得を持つことが自身の有利に働きやすい傾向が見られた。ただし、過去の累積スコアが相互協力や相互非協力の利得に与える影響の組み合わせ次第では、プレーヤー数が増加しても相対利得が有利となる状況も見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は2つある。第1は、AxelrodのEvolution of Cooperation(Basic Books, 1985)に見られるような2×2ゲームのシミュレーションモデルに改良を加え、ネオリアリストの主張するようにゲームの利得が過去の累積的なスコアに応じて動態的に変動する環境において、相対利得を検証する環境を整えることである。 この点に関しては、過去のスコアが利得構造に与える影響の組み合わせのあり方を分類したうえで、様々な変数の組み合わせを網羅的に検証出来るモデルを作成した。モデルは汎用シミュレータ上で利用可能な形式であり、拡張も容易である。目的は十分に達せられている。 第2の目的は、上記モデルを用いて、どのような条件下で相対利得が合理性を持ちうるのかを検証することである。申請書においては、プレイヤーの数、ゲームの性質(「囚人のジレンマ」における誘惑の強さ、相互協力や相互非協力の際の利得の大きさ等)、プレイヤーの非対称性、相対利得の性質(力の差の小さな相手に強く効きやすいか否か)等の条件について、順次、検証するとした。 この点についても主要な検証の大部分を終え、成果を共著論文集の1章として刊行予定(脱稿済み。出版助成申請中)である。申請書に記した目的は既におおむね達成されており、研究自体も予定通りのペースで進んできた。ただし、平成23年度予算成立の遅れによる内定時期の遅れに加え、予算があとから削減される恐れがあるとの通知があったことから、特にRA関連経費(RA雇用費用、RA用シミュレータ購入費)の執行を一時見合わせるなどしたため、研究期間全体が数ヶ月押している。開始時期が遅れた分、研究期間を平成25年度に繰り延べて対処する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
相対利得の性質についてのルールを追加し、より幅広い検証を行うとともに、新たな検証結果をまとめて発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
一部ではあるが検証が残っているので、シミュレーション実行・分析に必要な費用(ルールおよび結果の検証作業のためのRA雇用費、実験データ保存用の記憶装置など消耗品費)および、発表に必要となる費用(最新の研究動向を反映するための書籍費、原稿校閲費、旅費等)を次年度に繰り延べて執行する計画である。
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