2012 Fiscal Year Research-status Report
大メコン圏における生活者の政治的行為と国家管理の研究
Project/Area Number |
23730172
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
峯田 史郎 早稲田大学, アジア研究機構, 招聘研究員 (70546316)
|
Keywords | 拡大メコン圏 / メコン川 / 国境 / 政治地理学 / スケールの政治 |
Research Abstract |
本研究は、国家スケール主導の拡大メコン圏開発プログラムがもたらす社会変化に注目し、生活者自身が生活領域を確保するため、積極的に生活領域の確保に携わる実態の分析を、非国家行為体の活動を通じて検証することを目的としている。2012年度には、拡大メコン圏において人の移動へ多大な影響をもたらす、アジア開発銀行主体の運輸網整備の観察、および2010年選挙を機に劇的に変化しつつあるミャンマー国内の中央政府少数民族関係、そして中国雲南省の国境付近少数民族を観察するため、下記の複数の調査を実施した。総じて理解できたことは、国家主導型開発と生活者の領域とがハードな空間とソフトな空間とを形成することによって、拡大メコン圏が錯乱的空間となっていることである。 1、インドシナ半島北部(タイ・チェンマイ―ラオス・ウドムサイ―ベトナム・ラオカイ)を、公共交通機関を利用し、生活者が形成する越境空間の観察のために国家による国境管理、生活者による国家管理の需要および回避、商業状況について観察した。 2、タイ北部メーホンソン県とミャンマー東北部シャン族自治州との国境に位置する村(Loi Tai Leng)にて、メコン流域開発と2010年選挙後の社会変化についての調査を実施した。ミャンマー政府が民主化を進めつつある現在の状況においても、実質的に内戦状態にある地域である。通常、外国人の入村は困難であるが、年に数回、SSAに関連する行事が開催される期間のみ、入村の許可が下りる。今回の期間は、軍の日(Army‘s day)にあたり、式典への参加、外政部担当者への聞き取り調査を行った。 3、打洛(中国)とメンラー(ミャンマー)国境周辺にてゴムとバナナ栽培農園、景洪周辺にてタイ族および 基諾族村をそれぞれ訪れ、近年の生活環境の変化と問題点について聞き取りを実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の現地調査を通じて、申請書内で予定していた「生活者が国家と異なる次元で地域を形成していく過程」の観察、専門知識収集は順調に進展している。拡大メコン圏でハード空間を形成している国境での越境はのべ30回を数えることができ、その周辺で展開されている生活者が形成するソフト空間の状況をつぶさに記録している。 その調査結果の経過報告として、2012年7月に開催された北海道大学グローバルCOEプログラム「境界研究の拠点形成」GCOE-SRC研究員セミナー・ミニカンファレンスにて研究報告を実施した。この報告では、アムール川、イリ川といった国際河川とメコン川とを比較しながら知見を交換した。また、2013年4月には、米国境界研究関連学会(55th Annual Conference held by Association for Borderlands Studies)でも研究報告を実施し、国際政治学および政治地理学における境界研究の方法論について議論した。 ウェストファリア的空間認識に終始する傾向にある河川流域研究において、他の具体事例研究に対して重層的、錯乱的空間認識を提供できていることが、本研究進展度合いを順調と考える理由である。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度には、拡大メコン圏の国家スケールが形成する空間において、ローカルの環境に変化を強いられる生活者そのものに対する観察はもちろんのこと、その生活者をサポートする市民社会にも注目して、この地域の空間編成を描写することを最大の目標とする。拡大メコン圏では、各アクターが有機的に連結し空間を形成する過程、および生活者の政治的行為を考察し、ロバート・D・サックの提唱する「人間の領域性」を明らかにしたい。 今年度実施した研究報告、とくに中国周辺部の環境イシューを複数の事例を通じて議論する場では、中国の関連する空間は1つのアクターによって形成されるのか、それとも複数のアクターが空間を形成しているか、という前提の乖離が見られた。環境イシューは、国際的・国境横断的、マルチスケール、マルチディシプリンなど、多様性や多層性が強調されるため、短い時間で議論をかみ合わせることが困難である。この議論の乖離に対応するため、上記「人間の領域性」を主要概念とし、国家スケールでの諸制度整理とこれまでの現地調査において得られた知見を積み重ね、証明を試み、これをまとめることで成果物としたい。 今年度の文献の読み込み、現地調査による知見をもとにして、次年度は、さらに中国国内で活動するNGOを通じて、今年度実施できなかった市民社会を形成するアクターへの調査を追加する。特に、メコン川委員会が活動理念として掲げる統合水資源管理は各スケール間での概念の相違を明らかにするには的確な事例である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度も調査を中心に研究費を使用する。下記の日程で調査を実施する予定である。 1、4月初旬:メコン川流域との比較研究のため、珠江デルタ・サブリージョンにおける中国特別行政区と中国本土との境界周辺における人の移動と社会変化について現地調査を実施する。中華系、日系企業への聞き取りのほか、国際NGO・Oxfamおよび香港大学にて専門家へのインタビューを実施する。 2、8月下旬:ラオス・ビエンチャンにて、流域全体にわたった生活者の連携を促す目的で活動する「セーブ・ザ・メコン」、ローカルでのネットワークを促す「3S保全ネットワーク」、グローバル規模で活動するNGO「インターナショナル・リバー」での聞き取り調査を実施する。 3、12月上旬:タイ・チェンマイ大学での国際会議にて報告する。 次年度使用額(224,679円)について、当初予定していた各NGOへの調査が予定が一致せず実施できなかったことが第一に挙げられる。また他機関からの研究助成による現地調査のため、本研究費への調査日程に時間を割くことができなかったことが理由で、未使用研究費が生じた。次年度は、最終年度に当たるため、上記調査費用として使用する以外に、英文ジャーナル寄稿のための校閲費用、現地語から英語への翻訳費用、および不足資料の購入費用に充てる。
|
Research Products
(3 results)