2012 Fiscal Year Research-status Report
冷戦史のなかの日本=ビルマ「特殊」関係―戦後日本と東南アジア 1951‐74
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23730180
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Research Institution | Okinawa International University |
Principal Investigator |
吉次 公介 沖縄国際大学, 法学部, 教授 (40331178)
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Keywords | 戦後日本外交史 / ビルマ / 賠償 / ODA |
Research Abstract |
平成24年度においては、昨年度に引き続き、新聞の調査を行った。主に『朝日新聞』を対象としたが、『毎日新聞』『読売新聞』も対象とした。これによって、新聞報道レベルでの事実関係の確認はほぼ完了したといえよう。 また、外務省外交史料館所蔵の外交記録の調査および外務省への情報公開請求を行った。その結果、以下の出来事に関する貴重な外交文書を入手することができた。①平和条約および賠償交渉全般、②1953年の岡崎勝男外務大臣のビルマ訪問、③1953年の稲垣調査団のビルマ訪問、④1954年のウ・チョウ・ニエン来日、⑤1957年の岸信介首相のビルマ訪問、⑥1966年の東南アジア開発閣僚会議へのビルマ参加問題、など。 その他、京都大学東南アジア研究所に所蔵されている、ビルマ関連資料の調査も実施した。主に閲覧したのは『ビルマ情報』である。薄手の雑誌であり、さほど情報量が多いわけではないが、新聞各紙や『わが外交の近況』には掲載されていない、ビルマの政治経済状況、日本とビルマの関係など、貴重な情報が掲載されていた。 これらの調査よって、第一に、平和条約の締結および賠償問題の妥結過程が、かなりの程度明らかになった。平和条約締結後における、バルーチャン水力発電所建設を中心とする賠償の実施状況も、ある程度解明することができた。第二に、1950年代後半において日本とビルマの間で大きな争点となっていたビルマ米輸入をめぐる日本=ビルマ関係の概要、および賠償再検討問題がビルマ側から提起された経緯や、日本側の初期の対応も把握することができた。そして第三に、1960年代半ば、日本政府が東南アジア閣僚会議へのビルマの参加を模索したものの、中立主義の原則を貫くビルマ政府がそれに応じなかった経緯もかなりわかるようになった。これらの事実は、先行研究では実証的に明らかにされていない点がほとんどであり、重要な成果だといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度までに、先行研究はほぼ完全に把握できたものと思われる。先行研究整理も終了し、本研究のオリジナリティを明確に打ち出すことができている。 資料調査という点では、外務省刊『わが外交の近況』(外交青書)、『朝日新聞』などの全国紙の調査はほぼ終了した。これによって、戦後日本=ビルマ関係に関する主要な出来事は把握することができ、基礎的な年表を作成することが可能となった。 また、外務省の外交文書についても、①外務省外交史料館で公開されている外務省の文書、②外務省への情報公開請求によって、新たに開示された文書、の両面で、一定数の資料を入手することができた。 アメリカ政府の外交文書についても、米国務省が刊行しているForeign Relations of the United Statesシリーズのうち、アメリカの対ビルマ政策にかかわる巻は、ほぼすべて入手した。Foreign Relations of the Untedd Statesに収録されているアメリカの外交文書が、日本とビルマの関係にどれほど言及しているかはまだ不明だが、日本=ビルマ関係を、多国間関係しとして描くうえで、アメリカの外交文書の調査は欠かせないものといえる。 以上のように、先行研究の把握、日本の外交文書の収集、アメリカの外交文書の収集のいずれの観点からも、本研究事業はおおむね順調に推移しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までと同様に、一次史料および二次史料の収集を継続的に行う。とくに、外務省外交史料館での調査および、外務省への情報公開請求、ビルマ関係の雑誌、あるいは政治家や外交官の回顧録の調査などが中心的な作業となる。また、外交官や政治家へのインタビューも実施したいと考えている。 資料調査と並行して、本格的な資料の読解・分析を進める。当面は、最もまとまった資料群が存在する、平和条約の調印過程の解明に重点を置きたい。なぜ、いかに、非常に困難であった賠償をめぐるビルマと日本の交渉が早期に妥結したのかの解明が、中心的な論点となる。現在のところ、戦後日本=ビルマ関係に関する実証研究は皆無といえる状況だが、外務省の公文書が公開されたことで、かなりの精度で平和条約および賠償に関する日本とビルマの交渉過程を明らかにすることができる見通しである。無論、外交文書だけでは解明できない点もあるが、1950年代初頭に行われた日本とビルマの交渉を証言することができる政治家や外交官へのインタビューは極めて困難であるため、外交文書や報道、政治家や外交官の回顧録に依拠することになる。 平和条約調印および賠償問題の妥結過程を解明した後は、1950年代後半の分析に移る。1950年代後半は、ビルマ米の輸入および賠償の再検討をめぐって、日本とビルマの関係がぎくしゃくした時期である。ビルマ米の輸入問題が、日本=ビルマ関係史のなかでいかなる意義をもっていたのか、またビルマが賠償の再検討を日本に求めてきた背景および日本とビルマの駆け引きの実相を浮かび上がらせたい。 1960年代は、賠償再検討問題が妥結し、日本とビルマの「特殊関係」が大きく発展した時期である。そして1970年代には、日本の対ビルマODAが飛躍的に増大する。60年代から70年代にかけての日本=ビルマ関係の解明まで踏み込む予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.史料調査のための国内出張旅費として、20万円程度を想定している。外務省外交史料館および国立国会図書館などでの調査のために、3回程度の東京への出張を度実施したいと考えている。主な調査対象は、外務省外交史料館では、ビルマ関連のファイル、国立国会図書館では、ビルマ関連の図書・雑誌、憲政資料室に所蔵されている政治家や外交官の文書、あるいはアメリカの外交文書(マイクロフィルム)などの閲覧を行いたい。 2.戦後日本政治外交史、冷戦史、政治学、国際政治学関連、あるいは政治家や外交官の回顧録等の文献収集(図書の購入)に、20万円程度を支出する予定である。また、国立国会図書館や外務省外交史料館などにおける史料の複写費、外務省などへの情報公開請求などの経費として、10万程度を予定している。外交史料館や国会図書館における複写費はかなり高額になることがあるため、価値のある資料が大量に発見された場合は、他の費目との調整を行い、柔軟に対応したいと考えている。 3.調査出張時における作業効率を上げるために、小型のノートパソコンを購入したい。それによって、史料調査の状況を随時記録し、作業の効率を上げることができると思われる。 その他の主な経費としては、史料の整理・保存用の文具、パソコンで論文の構想や研究成果を印刷するためのプリンタ用インク、パソコンによる作業効率を上げるためのパソコン周辺機器および消耗品などがある。さらに、必要に応じて、資料収集および資料整理のためのアルバイトを雇用し、作業の効率化をはかりたい。
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Research Products
(1 results)