2013 Fiscal Year Research-status Report
冷戦史のなかの日本=ビルマ「特殊」関係―戦後日本と東南アジア 1951‐74
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23730180
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
吉次 公介 立命館大学, 法学部, 准教授 (40331178)
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Keywords | 日本外交 / ビルマ(ミャンマー) / 冷戦 / 賠償 / 平和条約 / ODA |
Research Abstract |
2013年度においては、昨年度に引き続き、史料収集を行った。主な調査対象は、外務省外交史料館(東京)における、外務省の外交文書である。今年度の調査で入手できたものとしては、主に、①日本の対ビルマ政府開発援助(円借款、無償資金協力)に関するもの、②アジア太平洋地域公館長会議に関するもの、③日米貿易経済合同委員会に関するもの、④ネ・ウィン大統領の訪日に関するもの、である。なお、日米貿易経済合同委員会の史料を調査したのは、日米間でビルマや東南アジアに対する政府開発援助や、アジア情勢などについてどのような協議が行われているかを確認するためであった。 今年度は、立命館大学所蔵の連合国最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)の史料の調査も行った。主に、高級副官部(AG)と経済科学局(ESS)のものを調査したが、それは、占領期に、日本とビルマがビルマ米輸入についての貿易協定を締結したプロセスを調べるためであった。新聞でもほとんど報じられておらず、外務省の外交文書でも現時点では確認できていない論点であるため、GHQ史料で解明しようと試みたわけだが、調査結果は、芳しいものではなかった。 今年度の新たな取り組みとして、現在の日ミャンマー関係に関する調査も実施した。歴史が「過去と現在の絶え間のない対話」であるとするならば、戦後の日本=ビルマ関係を分析するうえで、現在の日ミャンマー関係についても十分な理解を持っておかねばならない。そこで、まず外交青書や外務省のホームページで事実関係を把握し、その「空白」を『朝日新聞』やインターネットで埋めることとした。これによって、野田佳彦政権期に日本の対ミャンマー外交が急展開を見せたことが明らかになった。特筆すべきは、玄葉光一郎元外相にインタビューを実施したことである。これは、極めて有意義なインタビューであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに、外交青書や新聞報道によって、事実関係の把握はほぼ終わっていた。今年度は、日本政府の対ビルマ外交の政策決定過程や実施過程に関する史料を収集するよう努力し、一定数の史料を入手することができた。それにより、平和条約・賠償協定の妥結から、1960年代前半までの日緬関係史については、論文の骨格がほぼ固まった。2013年12月には、占領・戦後史研究会のシンポジウムにて、「戦後日緬『特殊関係』の軌跡」と題する研究報告を行い、多くの研究者から貴重なコメントをいただくことができた。 また、今年度は、本研究が主な対象としている1950年代~70年代前半の日本・ビルマ関係がの歴史的位置を検討するために、現代の日ミャンマー関係についての理解を深めることを試みた。この点については、外交青書や新聞報道に加えて、玄葉光一郎前外相へのインタビューなどによって、かなりの程度進んだといえる。テイン・セイン政権が発足し、ミャンマーの民主化と国民和解が急速に進んだ民主党政権期以降の日本の対ミャンマー外交については、論文を一本執筆できるほどの材料が集まった。 もちろん、課題がないわけではない。戦後日本=ビルマ関係の出発点というべき、占領期に開始されたビルマ米の輸入についての調査が、予想以上に、難航している。新聞報道がほとんどなく、外務省外交史料館でも占領期のビルマ米輸入に関する文書はまだ発見されていない。連合国最高司令官総司令部の史料群、とりわけ経済・貿易問題を担当していた経済科学局のファイルに、ビルマ米輸入に関する史料が含まれているのではないかと考え、調査を実施したが、現在のところ、十分な成果は挙がっていない。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策は、以下の通りである。 まず、2014年度は、本研究事業の最終年度にあたるため、研究成果のとりまとめを行う。すでに、本研究課題の成果については学会でも報告しており、論文の骨子はほぼ固まっているため、論文の執筆を進める。1950年代から70年代初頭までの対ビルマ外交の展開を跡付けることになる。現時点では、①平和条約・賠償協定、②ビルマ米輸入問題、③賠償再検討問題、④対ビルマ経済援助の拡大、のプロセスが主な内容となる予定である。 また、歴史研究を深めるための手段として、2013年度には現状分析にも着手したが、追加的なインタビューを実施する。引き続き、玄葉光一郎前外相へのインタビューを実施すると同時に、菊田真紀子元外務大臣政務官、前原誠司元外相へのインタビューを行いたい。実現可能性は不透明だが、野田佳彦前首相へのインタビューも試みたいと考えている。現状分析についても、論文が執筆できるのではないかと考えている。 歴史研究を進めるにあたっては、補足的な資料調査を行う必要があるだろう。外務省外交史料館における外交文書公開の進展度にも大きく左右されるが、戦後日本の対ビルマ外交に関する史料はもとより、日米関係に関する資料、日本と東南アジアの関係に関する資料、さらには日英関係に関する資料など、調査対象史料は枚挙にいとまがない。多くの資料を集めれば集めるほど、研究成果に厚みが出るであろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
アルバイトとして雇用した方の都合により、予定よりも少ない労働時間となったため、人件費の支出が少なくなった。また、外務省外交史料館において、できるだけ高額なコピーサービスを利用せず、デジタルカメラを利用して史料を撮影したため、複写費が少なくなった。 まず、参考文献の収集を、継続して行う。また、史料調査(外務省外交史料館や国立国会図書館、各大学図書館)や政治家等へのインタビュー実施のための出張を当初の予定よりも増やすことで、研究の完成度を一層高めることとする。史料調査や史料整理業務を適切に遂行することができる人材が見つかれば、アルバイトとして雇用し、作業を効率的に進めることとしたい。なお、当初の予定には入っていなかったが、近年、民主化・国民和解が急速に進んでいるミャンマーの視察が可能かどうかを検討してみたい。
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Research Products
(1 results)