2014 Fiscal Year Research-status Report
冷戦史のなかの日本=ビルマ「特殊」関係―戦後日本と東南アジア 1951‐74
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23730180
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
吉次 公介 立命館大学, 法学部, 教授 (40331178)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 日本外交 / ミャンマー / ビルマ / 東南アジア / 賠償 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度においては、主に二つの課題に取り組んだ。第一は、本来の研究事業である歴史研究である。まず、歴代首相、外相、外務官僚の回顧録などを精力的に収集した。また、外務省の外交史料館で入手した史料をはじめとして、日本政府の公文書の読解も進めた。さらに、日本とビルマの関係を知るうえで、重要な補助線というべきアメリカの動きについても、Foreign Relations of the United Statesシリーズなどを通して、把握するように努めた。既に、2013年度に、本研究事業の中間報告として、占領・戦後史研究会にて「戦後日本=ビルマ『特殊関係』の軌跡」と題して研究報告を行い、そこで多くの有意義なコメントをいただいていたため、今年度は、そこに留意しつつ、研究の完成度を高めていく点に重点を置いた。 2014年度に取り組んだもう一つの課題は、当初の予定にはなかった、現状分析である。この点では、今年度は、重要な成果が挙がった。即ち、雑誌『世界』2014年10月号に、「ミャンマー民主化と日本外交 自由で公正な2015年総選挙実現に向けて」を発表した。そこでは、①既に、ミャンマーでテイン・セイン政権が民主化改革を始める前に、前原誠司外相が対ミャンマー政策の転換を模索していたこと、②テイン・セイン政権発足直後に菊田真紀子外務政務官がミャンマーを訪問し、経済援助の再開に筋道をつけたこと、③玄葉光一郎外相のミャンマー訪問が、対ミャンマー政策を転換させる画期であったと当時に、従来、関係が密ではなかったアウン・サン・スー・チー女史との関係を好転させたこと、④そして野田佳彦首相、玄葉外相が巨額の対ミャンマー債権を放棄し、ミャンマーの民主化・国民和解を後押しするために大規模な経済援助に舵をきっていったことが、明らかとなった。 なお、論文を執筆した後に、再度、玄葉前外相に補足的なインタビューを実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究事業は、おおむね順調に進展しているといえる。外務省外交史料館や国立国会図書館における資料調査は、ほぼ、予想通りの成果を挙げている。換言すれば、戦後日本=ビルマ関係史を描くうえで必要な、一定の資料は収集できた。とりわけ、研究史上の空白であった戦後日本とビルマの平和条約締結をめぐる動き、賠償をめぐる一連の交渉過程については、十分に検証することができている。 既に、研究成果については、2013年度中に、占領・戦後史研究会にて、「戦後日本=ビルマ『特殊関係』の軌跡」と題して、研究報告を行っている。そこでは、「戦後処理」、「復興」、「冷戦」、「脱植民地化」をキーワードに据えて、1950年代から60年代前半にかけての日本とビルマの関係について論じた。よって2014年度は、補足的な調査を実施し、そのうえで、研究成果のとりまとめに入った。 また、当初の予定にはなかったことだが、歴史研究を深める手段として、近年の日本とミャンマーの関係についての研究を行ったことも、重要な達成である。歴史が「過去と現在の対話」であるとするならば、現状に関する適切な理解が、歴史研究にも欠かせない。とくに、2011年にテイン・セイン政権がミャンマーで発足し、民主化が進むなかで、日本が対ミャンマー政策を大きく転換させた過程が明らかにされたことの意義は大きい。前掲の「ミャンマー民主化と日本外交」においては、日本政府がなぜ、いかに対ミャンマー政策を転換させ、大規模な経済援助に乗り出したのかについて検証した。論文執筆にあたっては、野田前首相、玄葉前外相、前原元外相、菊田元外務政務官らにインタビューを実施した。 なお、当初の予定になかった現状分析に取り組んだことから、本来の歴史研究のとりまとめにやや遅れが出ているため、1年間の研究事業の延長を行うこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度は、本研究事業の最終年度にあたるため、研究成果のとりまとめを行う。7月に、冷戦研究会にて、「戦後日本=ビルマ『特殊関係』と冷戦 賠償問題を中心に(仮)」というテーマで研究報告を行う予定である。そこでは、主に、日本とビルマの賠償問題をめぐる二国間関係をとりあげたいと考えている。日本とビルマが早期に賠償問題で妥結したのはなぜか、また1950年代後半に二国間関係に軋轢が生じたのはなぜか、そして60年代に入って、いかに日本とビルマの関係が改善されたのかを論じる。この過程を明らかにすることで、日本の対ビルマ外交の成果と限界が明らかになるだろう。 なお、その研究報告を実施した後に、研究会での議論を踏まえ、補足的な調査を行って、研究の最終的なとりまとめ、即ち論文の執筆を行いたい。
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Causes of Carryover |
歴史研究を進めていく中で、確かな現状認識を持つことの重要性を再認識するに至ったため、当初の研究計画にはなかったことだが、2000年代の日本とミャンマーの関係についての研究を行うこととした。その成果として、論文「ミャンマー民主化と日本外交」を発表したが、その分、歴史研究の進展に若干の遅れが出ることとなり、次年度使用額が発生する一因となった。また、アルバイトとして雇用していた人物が多忙となってしまったため、あまり作業を依頼できなかったことも、次年度使用額が発生した原因の一つである。 なお次年度も研究事業を継続することについては、既に、「補助事業期間延長」を承認していただいている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度においては、研究事業のまとめを行う。現時点では、東京大学で開催される冷戦研究会にて、賠償問題をめぐる日本とビルマの関係について、研究報告を行う予定である。よって、東京への出張費(旅費)を計上する。また、当然ながら、文献の収集を継続する。すなわち、日本の政治、外交、国際関係に関する文献を幅広く収集し、日本とビルマの関係について、時間軸・地域軸ともにより広い文脈から把握できるよう努める。また、分析対象の時代や地域を問わず、優れた先行研究から、研究手法を学びたい。パソコンのインクや印刷用紙代を含めて、次年度予算は物品費としても使用する。 なお、次年度においては、アルバイトを雇用する予定はないため、人件費・謝金を計上することは考えていない。
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