2011 Fiscal Year Research-status Report
労働証券論の史的展開:労働評価の格差是正、協同性の回復、国際的波及過程
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23730204
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
結城 剛志 埼玉大学, 経済学部, 准教授 (40552823)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 労働証券論 / 貨幣・信用制度改革論 / 地域通貨 / ユートピア社会主義 / リカードウ派社会主義 |
Research Abstract |
研究計画調書の「研究計画・方法」にしたがい、マルクス学派による労働証券論の取り扱い方の再考、基礎文献の精査、関連資料調査を行った。 マルクス学派による労働証券論の取り扱い方を検討するためには、マルクス理論体系を内在的に理解しなければならない。そこで、「市場機構論特論」と題する「政治経済学ワークショップ」を開催した。ワークショップでは、物量計算を基礎として、異なる生産技術を有する部門が複数存在する場合に、生産技術の優位性は自明ではないことが明らかにされた。労働証券論の場合は、労働量に基づく経済計算を行わざるをえないが、労働量計算に基づく生産技術の選択は一意に定まるため、技術選択の問題は単純である。労働証券論の課題に引きつけて、その意味を今後考究する必要がある。 Caldwell[1980]が指摘するウォレン手稿及び関連資料の収集を行うためにWorkingmen’s Institute Libraryを訪問した。調査内容は「ニューハーモニー調査の概要」『ロバアト・オウエン協会年報』(36号、116-121頁)に報告した。この調査を通じて、Josiah Warrenの手稿Notebook D, 1840.とButler, Annの博士論文Josiah Warren Notebook "D", 1964. (未公刊)を収集した。いずれも未公刊文献であり、国内ではまだ論じられていない。 また、労働証券論に関する基礎文献の解読作業を行った。平成23年度は、上述した3つのアプローチから研究を進め、研究成果を学術単著『労働証券論の歴史的位相:貨幣と市場をめぐるヴィジョン』(原稿)にまとめた。本成果を公開するために科研費の研究成果公開促進費(学術図書)に応募した。採択されなければ公開することができないが、十分な研究実績を公表するための準備を整えることができたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は、研究計画調書の「研究目的」の「(2)研究期間内に何をどこまで明らかにするのか」において、オウエン、トンプソン、ペア、プルードン、ウォレン、ゲゼルといった労働証券論の代表的論者の文献を丹念に読み解くことで、各論者の学説の継承関係や波及過程を詳らかにすると述べた。23年度は、政治経済学ワークショップを通じた基礎理論研究やアメリカでの資料調査による文献精読を踏まえ、労働証券論を体系的に整理する作業に取り組んだ。アメリカにおける文献調査によって、英米の交流過程の一部が明らかになり、同時に、ウォレン学説の内在的理解を進めることができた。 23年度の研究によって、申請者のこれまでの研究内容を拡充し、同時に、体系的に整理する作業を進めた結果、学術単著『労働証券論の歴史的位相:貨幣と市場をめぐるヴィジョン』の原稿を書き上げ、科研費の研究成果公開促進費(学術図書)に応募することができた。採択に至らなければ、本書は日の目を見る機会を逸するとはいえ、現時点では考え得る限り十分な作業ペースを保っているのではないか。 ただし、本書では、トンプソンの学説にたいする配慮が十分ではないという限界がある。さらに、23年度の研究を通じて発見した新たな文献の存在を確認するために、研究計画調書には記載されていなかった資料館を訪問する必要が生じている。この調査については、「今後の研究推進方策」について詳述する。また、「研究目的」の「(3)本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義」にみられる3つの特色のうち、学術単著の公刊によってカバーできる範囲は労働証券論に関する包括的な経済学史研究に限られるため、次年度以降の研究計画が大きく変更されることはない。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、学術単著『労働証券論の歴史的位相:貨幣と市場をめぐるヴィジョン』を確実に公刊することが必要である。その上で、単著においてそぎ落としたいくつかの論点を回収しながら、研究計画調書に掲げられている研究目的を達成するための研究に引き続き取り組む。それらに加えて、学術単著原稿に収録されている研究成果の一部を英文論文として独立させ、英文ジャーナルに投稿する。 また、Workingmen’s Institute Libraryの資料調査を行う過程で、ジョサイア・ウォレン関連資料がIndiana Historical Society (Indiana, USA)など他の資料館に所蔵されていることが明らかになった。今後、当該資料館に資料の閲覧等の許可を申請し、許可が下りれば調査を行いたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
労働証券論研究は基礎文献の精査・考証が基本となるため、労働証券論関連資料(一式)が必要である。そして、23年度の調査を通じてウォレン関連資料の所蔵が明らかになったIndiana Historical Society (Indiana, USA)を訪問する。 若干の点で研究計画調書よりも早いペースで研究を進められていることもあり、学術単著原稿に収録されている研究成果の一部を英文論文として独立させ、英文ジャーナルに前倒し的に投稿する。そのため、いくつかの予算費目を見直し、英文校閲のための予算を捻出する。また、研究の遂行上、新たな知見の習得が必要とされた場合には適宜ワークショップなどを開催する。
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