2011 Fiscal Year Research-status Report
ピグー財政論の研究: 理論と政策、および厚生経済学との関係
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23730207
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Research Institution | Hirosaki Gakuin University |
Principal Investigator |
本郷 亮 弘前学院大学, 社会福祉学部, 講師 (80382589)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 |
Research Abstract |
本年度(平成23年度)は、本研究の第1年目にあたる年度であった。それゆえ、研究の基礎を固め、方向性を定めることに努めた。すなわち考察時期を第一次大戦以前と以後とに分けたうえで、ピグー財政論の大まかな展開を整理し、各時期の財政に関わる主要問題とピグーの主要な政策提言とを整理した。また内外の先行研究の収集・整理をおこなった。 第一世界大戦以前には当時の社会保障制度(年金・医療保険・失業保険)の財源調達問題が、また大戦以後には膨大な戦時国債を処理する問題が、それぞれ重要になるということは当初から予想されていた。しかし本年度の研究によってピグーが、第一次世界大戦以前には「土地税」と「相続税」の増税を、また大戦以後には(土地税と相続税に加えて)「所得税」の増税と「(臨時的)資本課税」を、それぞれ財源として考えていたことが明確になった。本年度の研究では、ピグーの所得税論と資本課税論についての詳しい考察はおこなえなかったが、土地税と相続税については、ピグー厚生経済学の最初の体系書である『富と厚生』(1912年)の精査によって、大部分は明らかにすることができた。 本研究の第1年目を終えたにすぎない現状では、完全な形での研究成果の公表は時期尚早であり、研究を継続することが必要である。しかし、前述の研究成果の一部は、平成24年5月の経済学史学会全国大会(於小樽商科大学)におけるセッション「ピグー厚生経済学の再検討:『富と厚生』出版百周年」(組織者:本郷亮・山崎聡)の中で、報告される予定である(本郷亮「ピグー厚生経済学とは何か? ―『富と厚生』の形成過程―」)。また同年6月末に公刊予定の邦訳書『ピグー 富と厚生』(本郷亮訳/八木紀一郎監訳, 名古屋大学出版会, 2012)の解題の中でも論及される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(平成23年度)の研究課題は次の2つであった。(1) ピグーの財政論の大まかな展開の整理、(2) 内外の先行研究の収集・整理。 (1)については、全体としてはおおむね達成できたと言えるが、時期によってその達成度に多少のムラが生じていることは否定できない。すなわち第一次世界大戦以前については、ピグー厚生経済学の初の体系書『富と厚生』(1912年)の邦訳の助けもあり、研究は極めて円滑に進んだのに対し、大戦以後については、消化すべき文献の多さもあり、研究は比較的困難であった。このように特に大戦以後の期間について、考察が比較的浅いものにとどまった点は否定できないが、それでも本研究の第1年目の成果としては十分な水準に達したと言えるだろう。 (2)についても、全体としてはおおむね達成できたと言えるが、若干の重要文献が新たに判明しており、それをまだ入手できていない(現在その入手方法を検討中である)。すなわち1919年から1920年にかけてピグーが「王立所得税委員会」の委員であったときになされた議論に関わる文献(特に同委員会の報告書)である。この報告書がイギリスの所得税制度に与えた影響の大きさをふまえれば、またそこでの議論がピグー『財政の研究』(1928年)の土台になったことをふまえれば、それらの文献は本研究にとって不可欠のものであると言わなければならない。しかしそれらの文献は、現時点(本研究の第1年目)において直ちに必要になるものではなく、今後速やかに入手すれば十分に間に合うものである。したがって本年度の資料収集の成果は、全体として見れば、おおむね達成されたと言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
まず本年度(平成23年度)に達成できなかった2つの課題を済ませなければならない。それは第1に、第一次大戦以後のピグー財政論の展開をより深く理解することであり(これは直ちに次年度の研究課題に直結するだろう)、第2に、前述の「王立所得税委員会」に関わる若干の文献の入手である。 そのうえで、あるいはそれと並行しながら、次年度(平成24年度)の研究課題(本研究計画全体の中核部分である「理論」面の究明)に着手する。その研究課題とは、(1) ピグー財政論の完成形態である『財政の研究』(1928年)と関連論文の精査、(2) ピグー財政論の形成・発展過程の解明、の2つである。 (1)については、当時の財政学の代表的教科書の1つであった『財政の研究』全体の精査を通じて、財政理論史上のピグーの貢献を明らかにする。従来の厚生経済学の研究では、分配側面に関心が集中しがちであったが、その偏りを是正するため、資源配分や景気変動の側面にも十分に配慮するつもりである。例えば1920年代には、膨大な戦時国債の償還のための各種の増税の必要性が唱えられたが、一方では20年代には常に百万人を超える慢性的失業も存在した。ピグーは不況下における増税について、理論的にどのような見解をもっていたのか。このような点も含めて、彼の財政理論を精査する必要があるだろう。 (2)については、ピグーの主著級著作(『富と厚生』1912年, 『厚生経済学』初版1920年、『財政の研究』1928年)の比較を通じて、彼の財政理論の形成・発展過程を考察する。 本年度の研究課題である「理論」面の究明は、本研究全体にとって最も重要な中核部分であるので、特に慎重におこなう必要がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1) 設備備品費として、パソコン SONY VAIO ●(1台×●円)、プリンター EPSON Offirio LP-S120(1台×9,800円)、スキャナー ScanSnap S1500(1台×35,700円)、経済学史関係書籍(200,000円)、が少なくとも必要である。 (2) 消耗品費として、 プリンター用インクトナー(1個×10,000円)、プリンター用紙(2,000円)、が少なくとも必要である。 (3) 国内旅費として、「経済学史学会全国大会」(小樽商科大学)への旅費と、経済学史学会関東部会大会(年2回・開催地未定)への旅費、が少なくとも必要である。 (4) 海外旅費として、European Society for the History of Economic Thought年次大会(ペテルスブルグ・ロシア)への出席(250,000円)、あるいはイギリス・ケンブリッジ大学への調査旅行(250,000円)、を支出する予定である。ただし準備等の事情や必要性の有無によっては次年度に延期する可能性もあり、研究の進展に照らして判断したい。 (5) その他の経費として、英文校正料(1回×60,000円)、切手(3,000円)、複写・製本料(20,000円)、が少なくとも必要である。
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Research Products
(3 results)