2013 Fiscal Year Research-status Report
地域イノベーションシステムにおける公設試験研究機関から中小企業への技術移転の評価
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23730225
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
福川 信也 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00433409)
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Keywords | イノベーション / 中小企業 / 技術移転 / スピルオーバー / 公設試験研究機関 / 大学 / 地域イノベーションシステム / 地域イノベーション政策 |
Research Abstract |
本研究では大学や公設試験研究機関、企業の各種データに基づく地域イノベーションパネルを構築し、公設試験研究機関が地域イノベーションシステムにおいて果たす役割について次の観点から分析を行った。第一に、技術指導、技術相談、新技術研修、試験分析、共同研究、受託研究、ライセンス等を通じて地域企業の技術力を直接的に改善する効果。パネル推計から、公設試験研究機関の技術移転活動は地域企業のイノベーションに正の効果を持つことが分かった。被説明変数と説明変数との間に一年のラグと五年のラグを導入したパネル推定結果を比較すると、大学の研究成果が地域企業のイノベーションに正の影響を与えるのに五年のラグを要するのに対して、公設試験研究機関の技術指導、技術相談がイノベーションに正の効果を及ぼすのには一年のラグを伴うことが示された。この結果は、企業が科学的知見から産業上の有用性を見いだし、技術開発を行うのに時間がかかる一方、技術指導のような製造現場における具体的な問題解決を目的とする技術移転については、その効果が比較的短期に発揮されることを示唆している。第二に、地域企業と大学との連携を促進し、それにより間接的に地域のイノベーションを促進する効果。パネルデータの分析を通じて、公設試験研究機関は共同研究を通じた地域内産学連携の活性化には寄与していないことが明らかとなった。これに対して国立大学に設置されているリエゾンオフィス、地域共同研究センターは地域内産学連携を促進している。この結果は、地域内スピルオーバーの源泉、もしくは触媒として機能するinnovation intermediaryを政策的に設置、運営する際には、各機関の特性に応じた分業関係が重要であることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究から地域イノベーションシステムの全体像として、異なるタイプのintermediaries(大学、公設試験研究機関、リエゾンオフィス)がスピルオーバーの源泉、触媒として異なる役割を果たしており、これらが異なるスピルオーバーの経路(共同研究や技術指導)を通じて、異なるスピルオーバーの受益者(大企業と中小企業)と異なる時間的・地理的関係で結びついていることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
公設試験研究機関に代表されるinnovation intermediaryと呼ばれる組織は、地域内スピルオーバーの源泉として、また大学からのスピルオーバーの触媒として地域イノベーションを促進する。こうした組織は、コーディネーションの失敗などのイノベーションシステムの失敗(systemic failure)の危険が高く、既存知識の効率的な伝播が経済成長に重要な役割を果たすキャッチアップ経済において、特に重要な役割を果たすと考えられる。今後は公設試験研究機関の定量的評価に加えて、アジアのキャッチアップ経済における中小企業の技術力改善を目的とする技術移転組織の分析を行う予定である。
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Research Products
(6 results)