2012 Fiscal Year Research-status Report
若者の交友ネットワークを通じた犯罪行為の社会的相互作用の実証分析
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23730229
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
中嶋 亮 慶應義塾大学, 経済学部, 准教授 (70431658)
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Keywords | マッチング / 構造推定 |
Research Abstract |
1) 年度前半は実証マッチング・ゲームの手法を援用し、若者の交友関係の選択を記述する実証行動モデルの構築を行った。2010年代以降に研究が飛躍的に発展した両側マッチングモデル(Two-Sided Matching Model)の非移転可能(Non-Transferable Utility)両側マッチングの構造推定手法に着目し、均衡データからマッチングの効用関数を推定する手法について分析を行った。特に、Echenique, Lee and Shum (2010)によって開発された集計マッチングデータに基づく推定手法をを若者の非行グループの形成の背後にある選好パラメータ推定問題に拡張した。Echenique et alの提唱するマッチングの構造推定手法は両側マッチングの問題にのみ適用可能なものであったが、本研究で解明する非行グループの形成ゲームは理論的には片側マッチングとなるため、マッチングの均衡(安定性)概念には修正が必要である。ここでは片側マッチングの場合でもEchenique et alの推定手法が適用可能であることを示した。 2) 年度後半は、片側マッチングによるグループ形成の構造分析を所与として、グループ形成という自己選択の問題を明示的にコントロールした若者の非行行為の因果関係を測定する構造モデルの定性分析を行った。分析対象は、グループの形成過程を明示的にモデル化し、それを所与としたうえでの非行行動の発現させる行動モデルという2段階の構造モデルである。このような自己選択をマッチングモデルで記述する2段階モデルは、Sorensen 2007で提出されている。しかしながら、Sorensenは両側マッチングモデルを取り扱うものであったので、この手法を非行グループの形成に適用できるように片側マッチングに変更し、その構造推定手法を開発し、シミュレーションによる定性分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度の研究で非行グループ形成の構造推定問題を片側マッチング問題として定式化する作業は完了している。さらに、片側マッチングの行動モデルの分析結果を所与にして、非行グループの形成過程を自己選択行動の第1段階目の行動モデルとして定式化し、グループの内生的な選択行動を考慮した非行の因果関係を発見する構造推定の分析枠組みについては、定性的なシミュレーション作業分析については終えている。しかしながら、この分析の過程で、構造モデルを実際の片側マッチング問題に援用する際に「次元の呪い」という問題を解決しなくてはならないことが判明した。すなわち、マッチング問題は、経済主体の数は中程度であっても、その可能なマッチング組み合わせの数は爆発的に増大し、自己選択問題を考慮したあとの条件付き期待値計算では、そのすべての組み合わせについて積分を計算することが計算上非常に困難となる。特にパラメータ推定の際に、通常のシミュレーション尤度法(Simulated Maximam Likelihood; SML)、または、シミュレーション積率法(Method of Simulated Moment; MSM)の援用することの計算費用は禁止的に高いことが明らかになった。そこで、本研究ではSMLやMSMによる最適化手法に基づくパラメータの推定でなく、ベイズ法に基づくパラメータの事後分布を求めるというアイデアを得た。しかしながら、依然として積分計算には時間がかかり、そのため実証研究に結実するために、推定手法の計算機的な改良が必要となっているためである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の前半で、これまでに開発した非行グループの内生的な選択行動を考慮した非行の因果関係を発見する構造推定の手法を、Add Healthのデータに適用して、非行行動をもたらす真の因果関係を発見する。そして、その推定で得られた構造パラメータをもとに、若者の犯罪行為の交友ネットワークを通じた波及経路と、その、乗数的波及効果について定量的分析を行う。さらに、分析結果に基づき、犯罪を抑止するための政策手段について講じる。現在の問題点は、自己選択を考慮した後の、非行行動の条件付き期待値の計算に、極めて次元の高い多重積分問題を解く技法を発見することであるが。その積分問題を特にあたり、マルコフチェーン・モンテカルロ法などを援用した計算機集約的な手法の適用を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の前半は、実際のAdd Healthデータの実証分析作業を集中しておこなうため、データの解析作業の補助としてRA作業の人件費への支出を考えている。また、計算効率的なベイズ推定手法を考案しても、まだ、計算資源が不足する万一の場合を考慮して、計算機能力を向上させるための支出についても計上する。 なお、昨年度は、実証構造モデルの策定と推定方法の計算機的な改良という推定の前段階となる作業に多くの人的・時間資源を投入したため、モデルの推定の作業として計上していた費用(約68万円)については本年度に繰り越している。この繰越金は上述した今年度前半に行う実証分析に必要な予算として査定されている。 今年度の後半は、完成した分析結果を学会やセミナーで積極的に発表し、この分野の研究者・専門家と活発に議論することで複眼的な視点から、分析結果の信頼性・頑強性について考察を行うことを考えているため、旅費、通信費などの支出を計上する。
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