2011 Fiscal Year Research-status Report
途上国における児童労働と教育:経済開発へのパースペクティヴ
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23730269
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
和田 一哉 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (70589259)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 教育 / 児童労働 / 途上国 / 農村 |
Research Abstract |
本研究の目的は、二つの異なる途上国の農村を事例に、社会経済の発展段階の差違が児童労働と教育に対してもたらす影響について、ミクロ・マクロの両面から検証するものである。途上国における児童労働は教育機会を阻害し経済成長を停滞させる可能性を有する一方で、所得リスクへの対処として重要な役割を果たすものでもあるが、国によって、あるいは社会経済状況によって、その意味は一律でない。この点に留意し、本研究では(1)家計内の意思決定プロセスの影響、(2)家計が有する富の効果、(3)経済グローバル化のインパクト、の分析を通じ、異なる発展段階にある二ヶ国における児童労働と教育の動向に関して分析を行い、将来の経済開発の可能性を考察するものである。 これらの研究目的を達成させるために、ウェブ上で公開されている家計データを利用し分析を行うことに加え、二つの途上国の農村で現地調査を実施し、両国の家計データの実証分析も併せて行うこととした。初年度は特にインドに焦点を絞り、(1)NFHSという家計データを用いた実証研究と、(2)独自のデータを得るための準備段階として実施した南インド(タミル・ナードゥ州)でのパイロットサーベイ、加えて(3)IHDSという家計データとセンサスを組み合わせて用いた実証研究、を実施した。 初年度の成果は以下の通りである。まず上記(1)の成果として、インドにおける教育とジェンダーの問題を扱った研究を、International Journal of South Asia Studies誌にて刊行予定である。また(2)に関しては年度末に実施した予備調査を踏まえ、2012年度に実施予定の本調査で用いる調査票の改訂作業を実施中である。さらに(3)に関しては、学会や研究会で「非農業雇用と教育投資:インドの事例」というタイトルで行った報告を踏まえ、現在学術雑誌への投稿に向けて改訂作業中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は当初の予定通り、インドに焦点を絞り、家計データとセンサスデータの整理、実証分析、現地調査を実施した。まず家計データとセンサスデータの整理に関しては若干時間を要したものの、ほぼ当初の計画通り作業は終了している。 これらを用いた実証研究に関しては、学会や研究会での研究報告を重ね、そこで得たフィードバックを改訂作業に活用し、論文執筆を進めている。NFHSという家計データを用いた研究である"Change in Gender Disparity in India: Evidence from National Family Health Survey"は、すでにInternational Journal of South Asia Studies誌にて刊行されることが決定している。IHDSという家計データとセンサスの県レベルデータを組み合わせて利用した実証研究は、学会や研究会で「非農業雇用と教育投資:インドの事例」というタイトルで報告し、現在論文改訂作業を進めているところである。 現地調査に関しては、データ整理に時間を要したこともあり、現時点では予備調査を終えたのみの段階で、当初の計画より若干遅れている。しかし、もう一つの研究対象国であるケニアにおいても利用することになる調査票の改良という意味で、慎重に進めるべき作業である。今年度はこの改良した調査票を利用し調査を実施するため、順調に進めばインドとケニア両国において本調査の実施が可能となると見込まれる。 以上のように、現地調査に若干の遅れは生じたものの、データの整理と実証分析の実施と論文執筆に関しては当初の予定を若干上回る形で進んでいる。現地調査の遅れは次年度に回復できる見込みであることから、全体としては、概ね計画通り順調に進捗していると考えて良い状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度はデータ整理に予定以上に時間を要し、現地調査に若干遅れが出た一方、論文執筆作業は当初の予定を上回ることとなった。このため、当初の計画では次年度はケニアのみにて現地調査を実施する予定であったが、インドとケニア両国での現地調査が可能となることが見込まれる。 ケニアの現地調査に関しては、当初の予定では2013年8~9月に実施する予定であったが、International Centre for Research on Agroforestry(ICRAF、ナイロビ)のカウンターパートの予定を考慮し、現在日程を再調整中である。現時点では、2013年1月~3月の間にCentral Provinceの数ヶ村において、無作為抽出による家計調査を実施する予定となることが有力である。 インドの現地調査に関しては、タミル・ナードゥ州ティルチラッパリ県のバラティダーサン大学のカウンターパートと予定を調整中である。ケニアの調査日程を踏まえて決定することとなるが、現時点では2012年8~9月、あるいは2012年12月~2013年1月のいずれかに実施する予定となることが見込まれている。 また、特にセミマクロレベルのデータに関して新たなデータを入手する必要性が若干生じてきているため、データの収集・整理を進め、これを踏まえて実証分析をさらに改良する。加えて、現在執筆中のインド関連の論文の改訂作業を進めるとともに、ケニアを対象とする実証研究を開始し、学会や研究会にて順次報告してゆく予定である。学会での研究報告に関しては、2012年度前半にアジア政経学会にて、後半にアジア政経学会と国際開発学会での発表を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度はデータ整理と現地調査の計画変更によって若干予算執行の内容にも変更が生じたが、次年度にこの変更を弾力的に吸収し、総じて計画通りに進むことが見込まれている。まず、初年度の状況は次の通りである。 初年度は、想定していたよりもデータの収集と整理が困難であったことで、比較的大きな日程変更を余儀なくされた。すなわち、当初の計画よりも多くの日程を要したことが一つの要因となり、現地調査の日程を当初の計画よりも大幅に削減することとなった。 一方で、初年度に十分データ収集・整理に時間をかけたため、次年度はデータ収集・整理に要する時間が予定より縮小することが見込まれる。このため、当初計画よりも多くの日程を現地調査に費やすことが可能となる予定である。現地調査に使う調査票の改良が順調に進んでいることからも、初年度に生じた現地調査の遅れを次年度に回復できると期待される。 この際、予算に関しても、初年度はデータ整理に要したコストが若干予定を上回る一方、現地調査に要するコストは若干下回り、結果的に両者が相殺されることとなった。次年度は、データ整理にはコストが予定を若干下回る一方、現地調査には予定を若干上回るコストが発生する予定で、初年度同様、全体としては両者はほぼ相殺されると見込まれる。このため、次年度以降の研究費も、総じてほぼ当初の計画通り予算執行される予定である。
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Research Products
(9 results)