2012 Fiscal Year Research-status Report
途上国における児童労働と教育:経済開発へのパースペクティヴ
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23730269
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
和田 一哉 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (70589259)
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Keywords | 国際情報交換 / インド / ケニア |
Research Abstract |
本研究の目的は二つの異なる途上国の農村を事例に、社会経済の発展段階の差違が児童労働と教育に対してもたらす影響について、ミクロ・マクロの両面から検証するものである。途上国における児童労働は教育機会を阻害し経済成長を停滞させる可能性を有する一方で、所得リスクへの対処として重要な役割を果たすものでもあるが、国によって、あるいは社会経済状況によって、その意味は一律でない。この点に留意し、本研究では①家計内の意思決定プロセスの影響、②家計が有する富の効果、③経済グローバル化のインパクト、の分析を通じ、異なる発展段階にある二ヶ国における児童労働と教育の動向に関して分析を行い、将来の経済開発の可能性を考察するものである。 初年度に引き続きインドを対象とし、既存データの整理と実証分析、そして現地調査による研究を行った。前者に関しては、India Human Development Surveyという家計データとセンサスの県レベルデータを組み合わせて子供の教育に対する期待形成と実際の教育投資行動を検討したものである。これに関しては、アジア政経学会等で「インドにおける雇用環境の変化と子供に対する教育投資―社会的分断の影響」というタイトルで報告し、“Changes in Employment Structures and Investments in Children’s Education: Evidence from Rural India”というディスカッションペーパーを執筆した。これについては現在学術誌への投稿を目指し、改訂中である。 加えて、初年度に実施したパイロットサーベイに基づき、南インドのタミル・ナードゥ州ティルチラッパリ県のアパデュライ村にて全家計を対象に子供に対する教育投資に関して調査を実施した。現在データの入力作業を進めているところで、本成果は最終年度中に発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に引き続き、現地調査に若干遅れが出た一方、論文執筆作業はは当初の予定を大幅に上回った。当初の計画では今年度はインドとケニアの双方で現地調査を実施する予定であったが、インド農村の全数調査に予想以上に時間を要したため、ケニアの調査は最終年度に実施することとした。また論文執筆に関しては、“Change in Gender Disparity in India: Evidence from National Family Health Survey”を学術誌に刊行したのに続き、“Changes in Employment Structures and Investments in Children’s Education: Evidence from Rural India”を国際シンポで発表した後、一橋大学経済研究所のウェブサイトにて公開した。 ケニアの現地調査に関しては、当初の予定では2012年8~9月あるいは12月、もしくは2013年1~3月に実施する予定であったが、当方のインド調査と、International Centre for Research on Agroforestry(ICRAF、ナイロビ)のカウンターパートの予定を考慮し、2013年度中に実施することとした。現時点の予定では、2013年8月~9月の間にCentral Provinceの数ヶ村において、無作為抽出による家計調査を実施したうえで調査票を修正し、本調査を実施することを考えている。 以上のように現地調査には若干の遅れが出てはいるものの、論文執筆は当初の予定を大幅に上回っている。このため全体的には概ね順調に目標を達成していると考えられよう。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に引き続き若干遅れが生じたため、二年目に予定していたケニア農村調査を最終年度である今年度の8~9月に実施する予定である。ケニア農村調査は、以下の理由から大幅な効率化の実現が見込まれる。第一に既存データの整理が概ね終了していることと、第二にインド農村調査で資料が蓄積されたことである。また今回のケニア農村調査のカウンターパートであるInternational Centre for Research on Agroforestry(ICRAF、ナイロビ)は、数年前に実施したケニア農村調査の際の研究協力者でもあるため、迅速かつ適切な調査の実施が期待できる。データ入力作業を10~11月に、データの分析と論文執筆を2013年12月~2014年2月に行う所存である。 最終年度の論文執筆予定は以下の通りである。まず、すでにウェブ上で公開済みである、“Changes in Employment Structures and Investments in Children’s Education: Evidence from Rural India”の改訂作業を進める。次に、南インドで実施した現地調査による農村データの入力作業を進め、実証分析を行い、秋には学会にて報告を行う予定である。テーマは2つあり、1つは親の期待形成の要因分析、もう一方は子供に対する実際の教育投資の要因分析である。最後に、ケニア農村調査で得られるデータを利用し、子供の教育投資の決定要因に関して分析を行うことである。 最終的には、インドとケニアにて検討した子供の教育投資に関する決定要因について論文をまとめ、途上国における将来の発展に資するひとつの政策提言となるよう目指す所存である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
繰り返しになるが、インド調査に時間を要したため当初の予定より若干遅れが生じている。一方で、ケニア農村調査が最終年度にずれ込んだことで支出を予定していた研究費が繰り越され、またインド農村調査に要した費用が予定より若干少なく済んだことで、ケニア農村調査を行うにあたっての資金としては若干の余裕が生じている状況である。このため資金的には当初の予定より若干の余裕を持って最終年度に臨むことが可能となる見込みである。ただしケニアはインドよりも物価が高いため、この点に留意しつつ研究費の支出を行う。 最終年度の研究費の使用計画は以下の通りである。第一に、ケニアのカウンターパートであるInternational Centre for Research on Agroforestry(ICRAF、ナイロビ)との調査に関する打ち合わせと、農村でのパイロットサーベイの実施・モニタリングのための渡航費数回分が挙げられる。第二に、カウンターパートとカウンターパートを通じて協力を依頼する現地調査員数名に対して支払う調査実費である。ここには、調査票の修正作業に要する支出も含まれる。第三に、調査に際して使用する調査道具の購入費である。加えて、可能であれば農村調査終了後のデータ入力も、現地調査員に依頼することを計画している。 現地調査員にデータ入力を依頼できない場合は、日本へ持ち帰り、必要人員を雇用したうえ入力作業を進める。データ入力の必要に応じて必要となる物品の購入についても考慮する。以上のように、最終年度の研究費の多くはケニア農村調査に支出される予定である。
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Research Products
(6 results)