2011 Fiscal Year Research-status Report
稼動年齢層の社会的孤立のメカニズムの解明と孤立抑止のためのセイフティネット設計
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23730275
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
赤井 研樹 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (20583214)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 孤立 / 孤独 |
Research Abstract |
1つ目は「孤立のメカニズムの解明」である。生産活動の中での集団形成に着目し、逆に、集団を形成しない人たちを社会から自発的に孤立する人と定義し、その孤立がどのような環境で起きるのかを経済実験を用いて検証する。そして、孤立する人と協調する人では生産性がどの程度異なるのかを検証することで、孤立が生産活動に与える影響を明示的に示す。 今年度はパイロット実験として、実験室に20人の被験者を集め、手紙を封入する作業を繰り返す。被験者はこの作業をペアもしくは単独で行うかを毎回決める。作業後、1枚の封筒につき一定の賃金が支払われるが、ペアで作業した場合には、二人の間でそれを配分する。この環境を基礎として、「賃金」、「ペアの組み方」、「ペア内での報酬配分方法」を操作変数として、孤立の度合いを探った。 2つ目は「社会的繋がりへの対価」の調査である。実験経済学とアンケート調査の手法を応用し、人は孤立および社会復帰に対してどの程度のコストを費やしても良いと考えているのかを調査する。これによって、孤立・無縁者救済のために、いくらの社会的投資が必要なのかを算出する。具体的には、まず、実験室で単独で作業する権利を入札させることで孤立の価値を計測する。テーマ1の実験環境を用いて、独りで作業する権利を入札にかけ、この入札額を孤立への価値として評価する。実験後、テーマ1と同じアンケートに回答する。テーマ1と同じく、本年度はパイロット実験を行った。 また、別角度から孤立と孤独を計測するため、携帯電話などのモバイル端末を利用し、1週間でどの程度人と話すのかを計測し、これと孤立や孤独の尺度との相関を計測した。それをもとに、「個人的な繋がり」、「関係的な繋がり」、「集団的な繋がり」の3つを対象として、コミュニティへのアクセス・コストを探るためのチョイスメソッドの質問しのドラフトを設計した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画と比較して、実績の概要に掲載したように非常に順調に研究が推進している。特に、1つ目の「孤立のメカニズムの解明」では、生産活動の中での集団形成に着目し、逆に、集団を形成しない人たちを社会から自発的に孤立する人と定義し、その孤立がどのような環境で起きるのかを経済実験を用いて検証したが、被験者が報酬の分け方の複雑性や相手の選び方の複雑性に反応して孤立を高めることが仮説通り指示された。 2つ目の「社会的繋がりへの対価」の調査では、プレアンケートから、人は孤立および社会復帰に対してどの程度のコストを費やしても良いと考えている社会的費用の傾向がおおむねわかり、孤立・無縁者救済のために、いくらの社会的投資が必要なのかを算出のめどが立った。そして、別角度から孤立と孤独を計測するために用いた、携帯電話などのモバイル端末を利用し、1週間でどの程度人と話すのかを計測した結果から、上述した社会的コストが相関していることが分かった。人とのコミュニケーション時間がそのまま孤立・孤独と関係している研究は他にはなく、その意味で新しい発見も得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下を進める。1つ目は「社会的繋がりへの対価」の調査を行う。実験経済学とアンケート調査の手法を応用し、人は孤立および社会復帰に対してどの程度のコストを費やしても良いと考えているのかを調査する。これによって、孤立・無縁者救済のために、いくらの社会的投資が必要なのかを算出する。実験全体として、20人×4トリートメント×3回=240人を雇用する。 2つ目は、実験でカバーしきれない失業者、生活保護者、母子家庭、不登校経験者を対象とし、ハローワーク、市役所、不登校情報センター及び精神保健福祉センターを介したアンケート調査を行う。そして、孤独感尺度を用いて、Cacioppo et. al(2005)が米国で行った、自分と他者の繋がりをどう捉えるのかに関する因子分析を行う。社会的繋がりに関しては、Cacioppoが提唱する「個人的な繋がり」、「関係的な繋がり」、「集団的な繋がり」の3つを対象として、家族・友人・学校・職場・デイケアセンター・地域コミュニティ・mixiなどのコミュニティへのアクセス・コストを探るために、チョイスメソッドを用いて推計する。 3つ目は、非自発的孤立・無縁者救済のための社会保障制度設計」である。本テーマでは、これらの制度が社会的孤立をどの程度改善するのかを検証する。具体的には、テーマ2のアンケートにベーシックインカムや、アッセトベース福祉として英国で実験的に採用された非課税の子供貯蓄推進策「チャイルド・トラスト・ファンド」や低所得者向けの貯蓄促進政策「セービング・ゲート」などを評価項目として導入し、その期待度を孤立度別に評価する。実験全体として、20人×3試案×3回=180人程度を雇用する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1つ目は、実験全体として、20人×4トリートメント×3回=240人を雇用する。一人当たりの時給を2000円として48万円必要となる。また、実験の補助者の代金として3割として14万円必要となる。合計62万円ほど必要となる。 2つ目は、外部委託によりインターネット調査を行う。統計的に優位なサンプルを得るために必要な数は500以上だが、サンプルの採取の難しさからして、50万円ほどのサンプル採取量が必要となる。 また、研究成果について海外の学会での報告を行い、よりよい研究のための意見交換を行う。ヨーロッパの学会に1週間ほど出張するのに25万円ほど必要となる。さらに、国内の研究学会や出張旅費として、東京ー大阪の1泊2日の往復代金5万円が3回ほどで15万円程かかる。 そして、そのほかの実験に必要な携帯端末の費用として1万円の12カ月分で12万円ほど、また、書籍や消耗品や印刷費などで10万円ほどかかる予定である。さらに、稼働年齢層であるサラリーマのアンケートとヒアリング調査のために、ビジネス街に調査拠点を持つためのレンタル費用が70万円ほどかかる。
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