2012 Fiscal Year Research-status Report
稼動年齢層の社会的孤立のメカニズムの解明と孤立抑止のためのセイフティネット設計
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23730275
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
赤井 研樹 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (20583214)
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Keywords | 孤立 / 孤独 / 信頼 |
Research Abstract |
本研究の目的は、非自発的孤立・無縁ゼロを目指し、1)孤立に至る要因の解明、2)人が潜在的に持つ社会的繋がりに対するコスト意識の金銭的評価、3)非自発的孤立・無縁者を救済し、その潜在的予備軍を防止するための社会保障制度を検証することである。 現時点までに、テーマ1については、実験室に200名程度の被験者を呼び、信頼計測に関わる実験と孤立のための支払意志額を調査した。信頼計測に関わる実験では、どの被験者も相手をよく信頼するが、信頼に対して返礼するほうは、信頼される割合に対して過小に返礼することがわかった。彼らの孤立を選好する際の支払意志額は3人1組で3000円を分けるタスクに対して、一人で1000円の報酬をもらうことの内、50~100円をそのために支払っても良いとする意志として計測され、孤立への支払意志額は賃金の1割程度であることがわかった。さらに、お金を支払わなくて良いならばほとんどの人は一人であることを選ぶことから、大学生サンプルの孤立選好は非常に高いことがわかった。また、これらの被験者に孤立状態に関する質問、UCLA孤独感尺度、シャイネス、相互依存・相互独立尺度、対人信頼尺度、鬱に関する質問などを行った。その結果、全ての項目で相関が認められ、信頼感の強いグループと低いグループでは異なる結果となることが分かった。 さらに、労働市場における社会的孤立を探るために、実験室に40人程度の学生を被験者として呼び、一緒に手紙を作るか独りで手紙を作る作業のどちらかを選ぶ実験を行った。その結果、被験者である学生は、報酬を山分けしなければならない場合には、相手が自分の努力にただ乗りするのを恐れて、一人を選ぶ傾向にあることがわかった。これは労働市場に置いて、給与所得の配分方法が労働者の孤立を促進する鍵となることを示していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1つ目の「孤立と絆のメカニズムの解明」では、単発の労働環境の実験では、孤立は実際の孤立状態や孤独などの心理的要因ではなく、労働環境における相手との組み合わせや所得分配などの社会的・経済的環境に強く影響されることがわかった。また、共同作業は生産性を上げることを解明した。 2つ目の「社会的繋がりへの対価の評価」では、単発の労働環境の実験では、協働相手を探す手間と作業の報酬を分けあう手間に比例して孤立への対価が高くなることがわかった。また、アンケートでは、失業者、生活保護受給者、母子(父子)家庭、ひきこもり、不登校からなる社会的孤立グループは集団所属において、匿名性および近所・近隣の付き合いの回避を重視することが分かった。さらに、このグループは困った時に相談できる人数が3人未満と深刻な社会的孤立状態にあり、心理的孤独度も高く、幸福度は低く、将来への不安度が高い、真の意味での社会的孤立者であることがわかった。 3つ目の「孤立抑止のセイフティネット設計」では、社会的孤立グループは、低所得者向けの貯蓄政策に目を向けると、セイビング・ゲートやチャイルド・トラストファンド、そして、ベーシックインカムに対する期待度が総じて高いことがわかった。一方で、サラリーマンを対象とすると、セイビング・ゲートに比べてチャイルド・トラストファンドの期待度は低かった。生活保護時の給与所得を生活保護の減額ではなく貯蓄に回す政策については、貯蓄に回される額への許容率は社会的孤立グループよりも低くなった。 以上のように計画に沿った研究を進めているため上記のように自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は昨年度の研究を発展させて、社会的絆が日々の生活で構築されることを省みると、連続した労働と意思決定を行う実験環境での調査が次の課題として不可欠となる。繰り返しの実験は被験者の拘束時間と謝金が増えるため、全条件を網羅的に行うことが難しいため、本研究では、上記の先行実験で最も孤立度が低い環境と高い環境を抽出し、それをベースとして、繰り返しの意思決定を行う実験環境を構築する。そして、その繰り返しの環境の中で、孤立や孤立からの復帰、協調や裏切り、その果てに、社会的絆がどのように発生するのかを観察して、何が引き金となり孤立が誘発され、何が絆のある社会を維持する要因となり得るのかを検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は実験のために必要な環境整備のためにクライアント端末用のPCおよびサーバー機用のPCを購入する。そして、新たな実験環境で、実験を実施するための被験者謝金と補助者謝金のために資金を用いる。この実験のための打ち合わせ旅費および、これまでの成果を国際学会で報告するための旅費に用いる。
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