2011 Fiscal Year Research-status Report
途上国における賃金形態と内生的制度変化:個票データの行動経済分析
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23730284
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Research Institution | University of Nagasaki |
Principal Investigator |
中村 和敏 長崎県立大学, 経済学部, 准教授 (40304084)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | インドネシア / 効率賃金仮説 / 内生的制度変化 |
Research Abstract |
平成23年度は、本研究課題が依拠するモデルの理論分析、インドネシア中央統計局(Badan Pusat Statistik)での統計資料(ミクロデータ等)の入手、そしてインドネシアの西ジャワ州スカブミ県におけるパイロット調査をおこなった。 モデルの理論分析については、現物賃金を含む賃金形態とそれを含まない賃金形態の2種類を想定し、雇用主の利潤最大化行動に基づいて、労働市場の特徴について考察した。その結果、二つの賃金形態の間で賃金格差は発生するものの、どちらの賃金形態が相対的に高い賃金となるかは、労働供給の状況に依存することを明らかにした。また、雇用規模、非自発的失業の規模についても、労働供給側の要因が決定的な役割を果たすことを示した。これらの分析結果は、「途上国における賃金形態と労働市場:効率賃金仮説の栄養モデルによる分析」として公刊した。 また、インドネシア中央統計局において、分析に必要となるミクロデータ(インドネシア全国労働統計調査、インドネシア全国社会経済調査)の利用手続きおよび統計書の購入をおこなった。本研究課題では、現物賃金の実態を把握し、その成果を理論仮説や実証モデルにフィードバックさせるため、インドネシアの農村でフィールド調査を予定している。平成23年度は、本調査の準備として、西ジャワ州のスカブミ県において、地域開発庁地方事務所、インドネシア中央統計局西ジャワ州スカブミ県事務所、農業普及員、農家に対してヒアリングを実施する形のパイロット調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題におけるモデルの理論分析については、標準的なミクロ経済学の枠組みに基づいて考察を行い、既存の研究では指摘されてこなかった賃金格差の発生要因として、賃金形態の違いが考えられることを指摘した。これはインドネシアの事例分析で賃金形態間の賃金格差が確認されていることとも整合的である。したがって、理論分析を通じて新たな知見を得ることができたと考えられ、研究計画で予定していた水準をおおむね達成したと判断される。ただし、グライフの提唱する「制度強化」と「制度弱体化」の概念に基づく分析については、十分に展開できていない面があるので、来年度はこの点についての完成度を高める必要があるだろう。 分析に必要なミクロデータのインドネシア中央統計庁における利用手続き、統計書や各種政策資料の入手についても、予定通り進めることができた。また、本研究では、フィールド調査として、農業における雇用主と労働者(小作農も含む)に対するヒアリング及びアンケートを予定している。これに先駆けて、平成23年度はパイロット調査をおこない、本調査を効果的に実施するために必要な情報を入手することができた。 以上のことから、全体的に、研究計画に沿って、順調に研究を進めることができていると言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
モデルの理論分析に関しては、平成23年度に実施したインドネシアの西ジャワ州におけるパイロット調査で得た情報とその分析を踏まえながら、現物賃金という賃金形態が、労働市場構造及び所得の変化という内在的要因によって、経済発展と共に生成・消滅していくという内生的な制度変化の過程を明らかにする。また、フィールド調査(本調査)として、西ジャワ州スカブミ県の100家計程度の農家に対してアンケートを実施し、本研究で提示している仮説の検証に必要な情報や数値の収集をおこなう。さらに、『中小企業統計』のミクロデータによる統計分析(Quantile Regression)を、インドネシア全域33州を対象として実施する。分析にあたっては、栄養不足人口の分布には、絶対数は多いものの比率は低いジャワ島、比率は高いものの絶対数は少ない東部インドネシアという地域差が及ぼす影響を詳細に検討する。そして、『製造業大企業統計』(毎年全数調査のパネルデータ)の個票データを用いて、大企業の分析も行ってみたい。最大の目的は、栄養モデルが含意する「現物賃金が生産性を引き上げる効果は、賃金水準の上昇と共に低下していく」という仮説を、分位点回帰によって検証することである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費の使用計画については、下記の通りとなっている。まず、分析に必要な書籍・論文を購入し、必要に応じて大学図書館を通じた文献複写の依頼をおこなう。また、インドネシア中央統計局や関係する公官庁において、ミクロデータ・統計書・各種政策資料などを購入する予定である。インドネシアにおけるフィールド調査(本調査)に関しては、アンケート調査に用いる調査票を作成した後、それをインドネシア語へ翻訳校正する費用について、研究費を充当する。そして、9月には西ジャワ州スカブミ県において、本調査をおこなう。この調査においては、旅費、アンケート調査を実施するための費用について、研究費を執行する計画である。
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