2011 Fiscal Year Research-status Report
中国の農業インテグレーションによる農家行動の変容:契約農業の実証分析
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23730293
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
寳劔 久俊 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, その他部局等, 研究員 (90450527)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 中国 / 契約農業 / 農業協同組合 / 農家 |
Research Abstract |
本科研費研究の目的は、アグリビジネス企業を中心とした農業インテグレーションが急速に進展する中国農業に注目し、生産農家によるアグリビジネス企業との農業契約の締結と、生産農家の農業協同組合への加入という農家の選択行動がどのような要因によって規定されているのか、そして農業契約の締結と農業協同組合への加入が生産農家に対してどのような経済効果をもたらしているのかについて、農家調査に基づいて定量的に解明することにある。 本年度は、契約農業と農業協同組合に関する文献収集と理論・実証モデルの整理、そして基礎データの収集に取り組むと同時に、調査対象地域である江蘇省南通市と山西省新絳県で予備調査を行い、当該地域で活動するアグリビジネス企業や農業協同組合、地元政府と生産農家に対するヒアリング調査を実施した。この予備調査の成果と海外研究協力者との詳細な協議に基づき、具体的な調査対象地域と標本抽出方法を確定し、海外研究協力者の所属機関に委託する形で、各々350世帯前後の農家調査を行った。また、農家調査の実施にあたっては、村幹部と農業協同組合、アグリビジネス企業に対するアンケート調査とヒアリング調査を行い、詳細な定量分析のための調査対象地域に関する背景情報も収集している。 海外研究協力者から提供された農家調査データについては、データ・クリーニング作業を通じてデータの補正を行うとともに、調査データの記述統計の計算と実験的な推計作業も進めた。このような一連の作業によって、次年度の研究活動のための基盤が整備されたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の予定通り、農業インテグレーションの発展水準の異なる2つの省を選定し、海外研究協力者との協議に基づいて、調査対象予定地域での予備調査と農家に対するアンケート調査を実施した。予備調査を通じて、調査対象地域の農業全般の概要と農業インテグレーションの進捗状況について情報収集を行った結果、より適切な調査候補地が選定可能となり、調査票の質問内容についても農家の実態により即したものに修正した。 農家調査の実施にあたっては、中国の実情に鑑みて、海外研究協力者の所属機関に委託する形式を採用した。対象農家の標本抽出では、農業生産条件や経済的環境は類似しているが契約農業の普及率と農業協同組合の組織化率の異なる地域から、層化抽出法によって農業協同組合の会員農家と非会員農家を選出し、詳細な農家調査を実施した。その結果、当初の想定通り、2つの省でそれぞれ350世帯前後の調査票を回収することができ、会員農家と非会員農家のサンプルサイズの割合もほぼ拮抗している。 なお、調査予定地域のうちの1つは当初、内陸地域の事例として四川省を予定していたが、当該地域の政治上の問題と海外研究協力者の健康上の理由から、同じく内陸地域に属する山西省に調査対象地域を切り替えることとなった。この切り替え作業を今年度の早い段階に行ったため、その後の調査プロセスに支障が出ることはなかった。 以上の理由から、現在までの達成度は「(2)おおむね順調に進展している」と自己評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
農家調査データを利用して、契約農業への参加の有無(あるいは協同組合への加入の有無)の決定要因に関する実証分析を行う。その際、世帯の基本的属性(世帯主の年齢、教育水準、耕地面積、非農業就業状況など)や地域属性(農外就業機会、農地賃貸市場の発展状況など)といった要因に加え、信用制約の有無や農業生産に対する意欲(新たな農業技術への積極性、リスクへの態度など)といった要因を考慮しながら、加入決定のメカニズムを定量的に考察する。 さらに、操作変数法とマッチング(PSM: propensity score matching)によるインパクト評価法を用いて、契約農業の実施と農業協同組合への加入による農業生産性に対する経済効果を厳密に検証する。その際、農作物の品目を十分にコントロールしながら、生産関数の推計や要因分解法によってその効果を定量的に実証すると同時に、経済効果が生み出される(あるいは生み出されない)メカニズムについて、アグリビジネス企業、農業協同組合、農家というアクター間の具体的な相互関係と、地方政府の果たす調整機能に焦点を当てながら解明する。 なお、データ解析を通じて新たに浮かんできた疑問点と不明な点を確認するため、次年度は2つの調査対象地域に関して、補足的な現地調査と資料収集を行う。補足調査の調査地は、本年度に農家調査を実施した地域に限定し、地方政府の幹部とアグリビジネス企業の地元担当者、農業協同組合の責任者、調査農家への追加的なヒアリング調査を実施する。さらに、最終報告書の執筆段階で、研究結果を学会や研究会(中国経済学会、アジア政経学会、一橋大学など)で報告する予定である。学会や研究会でのコメントを参考にしながら、最終的な報告書の執筆を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、2つの調査対象地域(江蘇省、山西省)に関する補足調査と資料収集を実施する。現地協力者の都合と地元政府との連絡調整の関係で、調査対象地域での現地調査は2回に分けて行う予定である。調査期間としては各10日間を想定し、外国旅費は36万円×2回=計72万円を見込んでいる。 また、最終報告書の執筆段階で、広範な意見・コメントを聴取するため、学会(国内2回(都内1回、関西1回)、海外(中国)1回)での研究発表を行う。関西での学会報告については参加期間が2日間で国内旅費は6万円、海外での学会報告については、参加期間4日間で海外旅費は18万円を予定している。 その他、最終報告書を執筆する際に必要な図書・資料(学術研究書:5冊×3000円=1万5000円、統計年鑑類:4冊×8000円=3万2000円)の購入を行う見込みである。
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Research Products
(5 results)