2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23730296
|
Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
宮崎 雅人 埼玉大学, 経済学部, 講師 (20553069)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 保険財政共同安定化事業 |
Research Abstract |
本研究は国民健康保険(以下,国保)の都道府県単位化のシミュレーションを行い,制度変更の意義と限界を明らかにするものである。この目的を達成するため,本研究は次の3つの分析・調査を行うこととしている。(1)市町村国保の現状分析を行い,制度変更が何を解決するのかを明らかにする。(2)インタビュー調査を行い,文献やデータでは明らかにならない点を明らかにする。(3)国保の都道府県単位化のシミュレーション分析を行い,政策の評価を行う。 今年度は,(1)および(2)の全て,(3)の準備について行うことを予定していた。 (1)については保険財政共同安定化事業を中心に現状分析を行った。また,(2)については空知中部,大雪地区,後志の三広域連合(北海道),御坊市と,介護保険を広域連合で運営している福岡県の広域連合と沖縄県の広域連合の担当者に対してインタビュー調査を行うことができた。その中で都道府県単位化が保険財政共同安定化事業の対象医療費拡大によって行われるものであることを理解した。そして,保険財政共同安定化事業の対象医療費の拡大(これを1円以上とすると財政運営は都道府県単位化する)について検討を行っている佐賀県,青森県,長野県の担当者に対してインタビュー調査を行った。(3)についてはインタビュー調査で得た知見を踏まえて準備を行った上で,ある県の市町村について実際にシミュレーションを行うことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1)については,保険財政共同安定化事業を中心に現状分析を行うことができたが,保険料(税)の収納率の問題について十分に検討を行うことができなかった。国保の都道府県単位化の課題のひとつである統一保険料の設定について検討するためには,収納率と保険料(税)の水準に関する現状分析は不可欠であり,次年度行うべき課題として残されている。 (2)については,広域連合で国保を運営している団体を先進事例として位置づけ,インタビュー調査を行った。保険料格差の大きさから統一的保険料を設定せず,複数段階の地域別保険料を設定して保険料徴収を行っている団体の運営の状況や,広域的運営から脱退する自治体の行動要因などについて伺った。計画当初に予定していた内容についてはすべて行うことができた。さらに,保険財政共同安定化事業の対象医療費の拡大について検討を行っている佐賀県,青森県,長野県の担当者に対してインタビュー調査を行い,研究に必要な都道府県単位化の制度設計に関する具体的なイメージを得ることができた。 (3)については,計画当初では準備のみを行うつもりであったが,インタビュー調査で得た知見を踏まえて準備を行った上で,ある県の市町村について実際にシミュレーションを行うことができた。具体的には保険財政共同安定化事業の対象医療費を1円以上に引き下げた場合の国保特別会計に与える影響と単一のモデル家計における保険料(税)負担の変化について,定量的に明らかにすることができた。 したがって,達成率を定量的に示すとすれば,(1)が50%程度,(2)が100%,(3)が100%より大であると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
当該年度の分析・調査に基づき,保険財政共同安定化事業を1円以上とした場合の影響と,統一保険料の設定について検証可能な形でシミュレーションの前提を構築し,複数の県の市町村について検証を行う。国保の都道府県単位化による家計負担の変化や,そのことによって予想される収納率の変化がどの程度になるのかを明らかにすることが中心的課題となる。シミュレーションの方法としては,モデルケースをいくつか作成して市町村国保における家計負担を算出した上で,これが都道府県単位化にどのように変化するのかを検証する形になる。実際の所得分布や世帯構成を踏まえた上で,モデルケースを設定することになる。 シミュレーションを行う際に必要となるデータは,保険財政共同安定化事業を1円以上とした場合の医療費(保険財政共同安定化交付金)と,保険財政共同安定化拠出金のデータであるが,都道府県によってはこれらのデータを提供してくれないというところもいくつか出てくるものと考えられる。データ入手可能な自治体のみでシミュレーションを行い,そこからのみ結論を得ることは避けるべきことである。本来であれば,すべての市町村に関して分析を行うべきであるので,極力データの提供をお願いしたい。データの提供がなされない場合の対応は今後の研究を推進する上で大きな課題として存在している。 なお,2015年度から厚生労働省は国保の都道府県単位化を実施する方針を示しているが,審議会等の資料でシミュレーションを行っているものは見当たらない。したがって,本研究から得られる政策インプリケーションは極めて重要なものになると言える。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の進捗状況を踏まえ,次年度は下記のような形で研究費を使用する。 引き続き現状分析を行うため,物品費を10万円(地方財政論・社会保障論関係図書費として5万円,ソフトウェア購入費として5万円)計上する。 保険財政共同安定化事業を1円以上とした場合の影響と,統一保険料の設定について検証可能な形でシミュレーションの前提を構築し,複数の県の市町村について検証を行う。これに必要なデータを入手するため,当該年度にシミュレーションを行った以外の46都道府県からの紙データでの提供に備え,データ入力委託費20万円を計上する。また,データを提供していただくに当たって直接お話を伺う場合に備え,旅費10万円を計上する。専門的知識の提供と資料整理に対する謝金として10万円計上する。複写費として5万円計上する。 そして,研究実績の公表のため,報告書印刷費として5万円を計上する。
|