2012 Fiscal Year Research-status Report
大規模金融機関破綻処理の経済へのインパクト:日本の金融危機の再検討
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23730307
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鯉渕 賢 中央大学, 商学部, 准教授 (60361672)
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Keywords | 国際情報交換 / 財閥 / 企業集団 / 役員兼任 / ネットワーク分析 / 法的整理 / 債権放棄 |
Research Abstract |
研究期間の2年度目である2012年度は、1編の日本語論文の学術誌への掲載、1編の英語論文の国際カンファレンス(スイス)での報告という成果を得た。 日本語論文「銀行主導の企業再建の再検討:銀行-企業間関係・債権者調整スキーム・損失負担配分」社会科学研究(第64巻第3号,東京大学)では1998 年から2004 年にかけての日本の主要な大企業の私的整理事例において,メインバンクとその他の債権者間の損失負担配分がどのような要因により決定されていたのかを、ケーススタディと計量分析によって包括的に再検討し,銀行- 企業間関係の親密度と債権者調整スキームの設計が債権者間の損失負担配分の重要な決定要因であることを見出した.結果は,1990 年代後半から2000 年代半ばにかけての日本の大企業の企業再建において,財務危機企業の持つ事業の収益性以外の要因である銀行との過去からの関係性が,銀行主導の私的整理による企業再建に影響を与えた可能性を強く示唆するものである。 英語論文"Evolution of Corporate Networks in Twentieth Century Japan"は国際プロジェクトの一環として日本の20世紀における総資産で上位200社の事業会社と上位50社の金融機関からなる250社のサンプルを10年ごとにピックアップし、その役員の兼任関係を調査して、社会学のネットワーク分析の手法により分析したものである。戦前においては事業会社同士あるいは事業会社と金融機関の間の役員兼任関係は財閥の枠を超えてさえ極めて顕著である一方、戦後においては役員兼任関係は極めて希薄なものであった。代わって、戦後では六大企業集団の銀行から大企業への役員派遣が顕著な特徴となっている。この結果は、戦前と戦後がそれぞれ顕著な特徴を持つ金融システムをもっていたという見解と整合的である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究課題に関連する2つの論文を執筆し、1編は学術誌に掲載され、他の1編は国際カンファレンスで報告することができた。後者は今後、経済史におけるネットワーク分析の応用の論文についての書籍の1章として今後出版予定である。研究年度2年目にして2編の論文の公開に至ったことは大きな成果・研究の進展である。 また、上記の2編の論文は、その分析手法において、研究課題の中心に位置している大規模金融機関破綻の顧客企業への影響を分析する研究において、重要な分析ツールを提供することになった。日本語論文は銀行-企業間関係の新密度が私的整理と法的整理という再建手法の選択に統計的に有意な影響をもたらすことを示し、英語論文は日本の大企業と金融機関の間の関係性についてネットワーク分析という新たな手法の応用可能性を示した。この点で、今後の研究成果にとって重要な貢献となる可能性が高い。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の最終年度となる今年度は、非上場の中小企業を含む大規模データベースを用いて、1996年から2011年にいたる15年間の銀行-企業間の融資関係のデータベースを構築する。その上で、金融機関破綻のようなイベントがどの程度、安定的な銀行-企業間の融資関係を断絶させたのかについて計量的な推計結果を示す。これを用いて、大規模金融機関破綻のインパクトについての英語論文を作成し、国際学会で報告して、国際学術誌への投稿を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国際学会・カンファレンスへの数度の出張を計画している。
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Research Products
(3 results)
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[Presentation] Corporate Network in Twenty Century Japan2012
Author(s)
Satoshi Koibuchi, Tetsuji Okazaki
Organizer
Conference "The power of corporate networks: A comparative and historical perspective," University of Lausanne
Place of Presentation
University of Lausanne, Switzerland
Year and Date
20120827-20120828