2013 Fiscal Year Research-status Report
公的資金注入がマクロ経済システムの安定化に与える影響
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23730317
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
中島 清貴 甲南大学, 経済学部, 准教授 (00367939)
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Keywords | 公的資金注入 / 銀行貸出 / 介入効果 / キャピタルクランチ |
Research Abstract |
公的資金注入は,自己資本の拡充を契機として,資本注入行に対して不良債権の償却を促し,銀行システム全体の財務リスクを低下させるなかで,銀行貸出だけでなく銀行の収益性の改善をも促すことを目的とした包括的な政策プログラムである.本研究では,1998 年3月に実施された金融機能安定化法に基づく邦銀21行に対する資本増強(第1回公的資金注入)と1999年3月に実施された早期健全化法に基づく邦銀15行に対する資本増強(第2回公的資金注入)の介入効果(treatment effect on treated)を推定し,日本の公的資金注入がどのような意味で機能し,どのような意味で機能しなかったのかを分析している. 本研究では,政策プログラムとしての公的資金注入を通じて,銀行システムの安定化がもたらされることはあっても,銀行貸出を改善させるという意味において実物経済に対するより波及的な効果がもたらされることの蓋然性は極めて低いのではないかとの結論が導出される. 銀行の財務リスクを低下させ,銀行システムの安定化に寄与するという意味においては政策プログラムとしての公的資金注入が望ましい効果をもたらした可能性が推察される一方,銀行システムへの資本注入そのものが銀行貸出や銀行の収益性を大きく改善させることの可能性は,少なくとも本研究の分析からは確認されなかった. 公的資金注入は,金融システムの安定化のみならず,銀行の貸出行動や銀行の収益性についても改善を促す包括的な政策プログラムであるが,実際的には「金融システムの安定化=銀行の救済」という点においてのみ機能する政策プログラムなのかもしれない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2012年7月から2013年10月までカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)における在外研究の機会を利用して,それまでの研究成果をUCSDの研究会や他大学のセミナーで発表してきた.発表の中で,米国の研究者より非常に有益なコメントをいただいたが,そうしたコメントを受けて,それまでの論文を全面的に改訂し,2014年4月に改訂稿をディスカッションペーパーとして完成させた. 現在は,改訂稿を国際誌に投稿している最中であるが,研究の最終的な到達点が論文の公刊であるとするなら,現在はまだその道程にあると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
公的資金注入の効果に対しては,それがどのように機能して,どのように機能しなかったのか,ということについての意見の一致が金融研究の最先端においても見られていないのが現状である.本研究は,日本の公的資金注入の貴重な経験を利用することで,公的資金注入の効果を実証的に概念化することを試みている. 本研究は,2012年以降,EUで大きな懸念事項となっている金融システム不安の問題と直接的に関わっている.実際,これまでも本研究の成果を論文にまとめた後,フランスのパリ大学の研究者,ポルトガルの中央銀行の研究者より論文の供与を依頼する連絡が来た. このように,本研究の成果は海外の研究者にも関心をもたれており,公的資金注入をめぐる研究者間の関心の高さが伺えるとともに,政策的な観点のみならず,学術的な観点からも,本研究の成果が今後,大きな貢献をなしうるものと信じている. 本研究の結論として,銀行システムの信用リスクを低下させたという意味において,公的資金注入が銀行システムの安定化に大きく寄与することがあった一方,銀行貸出を改善させ,実物経済を回復させるような効果をもたらしたという意味においては,望ましい効果が観察されることはなかったことの可能性が指摘される. さらに,公的資金注入後の銀行貸出の鈍化が銀行側の要因によるものなのか,借入企業側の要因によるものなのか,という問題を東京証券取引所に上場している借入企業に焦点を充てて分析をした.その結果,銀行側の要因というより,むしろ,借入企業の財務状況や収益性の悪化によって,銀行側の貸出リスクに対する認識が公的資金注入後,さらに厳しくなったことにその理由を求めている. 今後の課題としては,借入企業を上場企業に限定することなく,非上場企業にも拡張していく中で,公的資金注入後の銀行貸出の鈍化について,より詳細な分析を行っていきたいと考えている.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度から平成25年度にかけて,カリフォルニア大学サンディエゴ校の客員研究員として米国に滞在中,公的資金注入の銀行システムへの影響についての分析結果をシンポジウムや研究会で発表してきた.その折,銀行システムへの影響だけでなく,借入企業への影響も分析することで研究の質が大きく向上するであろうことを指摘された.平成25年10月に帰国後,あらたに借入企業側の分析をすべく,未使用額が生じた. 平成26年度は,借入企業側の公的資金注入への影響だけでなく,公的資金注入が銀行と企業の関係性に与えた影響も分析する予定である.そして,その分析結果を国内外のカンファレンスや学会で発表していく予定である.未使用額はそれらの経費に充てることとしたい.
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Research Products
(3 results)