2012 Fiscal Year Research-status Report
企業情報の伝達プロセスの多様性と株価形成に関する実証研究
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23730318
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
阿萬 弘行 関西学院大学, 商学部, 教授 (70346906)
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Keywords | ファイナンス |
Research Abstract |
当該年度の研究では、企業情報が株価形成に及ぼす効果を、情報伝達プロセスの多様性の観点から実証分析した。異質な情報伝達プロセスが、投資家による情報認知を経て、どのように相互に関連しあいながら、最終的な株価形成の情報効率性に影響を及ぼしているか検証する。 具体的には、株式ボラティリティが、ディスクロ―ジャー情報やマスメディア情報からどのような影響を受けているかを共同研究により分析した。研究結果は、ボラティリティはディスクロージャー情報の流入に伴い増加することを示している。研究成果は、日本ファイナンス学会において報告している。 また、株式流動性と多様な情報経路の関係についても共同研究により分析を行った。流動性尺度として、ビッドアスクスプレッドおよびデプスを用いている。この研究では、ディスクロージャー、新聞メディア報道に加えて、テレビ報道データを新たに活用し、情報伝達の多様性効果をより幅広い視点で分析している。テレビによる伝達情報は、個人を含むより広範な投資家層を対象としている点、および、速報性の点において、他の媒体とは異なり、新たな分析対象とする意義は大きい。過去の先行研究においても、テレビ報道に関する市場への効果を分析したものは大変限られており、その意味でも学術上の意義は大きいと考えている。分析結果は、テレビ報道量の増加は、スプレッドの増加、デプスの増加と関連している。このことは、テレビ情報は、投資家間の情報非対称性を高めると同時に、広範な投資家への情報認知を高める効果をもつことを示唆している。成果は、Asian Academic Accounting Association、Midwest Finance Associationにおいて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ティックデータからの日次データ作成は、研究基盤となる重要なプロセスであるが、これを森保教授(長崎大学)との共同研究として実施することにより、格段に効率的に、ボラティリティ、流動性指標(ビッドアスクスプレッド、デプス)を計測することができた。とりわけ、今回の研究では、東証一部上場の多数の企業について、クロスセクション、日次レベルでの指標作成には膨大な計算量が必要であった。この点において、効果的に共同研究を実施できた利点は大きい。 また、テレビ報道の効果研究について、森保教授、春日教授(甲南大学)と共同で行うことにより、効率的に進めることができた。とくに、テレビ報道に関する情報通信業界に詳しい春日教授との共同研究によって、株価形成とテレビ報道の関連性という、これまでの先行研究では実績の少ない領域において、新たな知見を得ることができた。以上のように、共同研究ではそれぞれの専門分野の知見を活かして、本研究課題の実施を効果的に行うことができた。 Pacific Basin Finance Journalに掲載確定した研究では、レビュアーからのコメントをもとにして、企業情報と株価の急激な変動についての分析をブラッシュアップすることができた。とくに、実証結果の解釈において、代替的な理論的枠組みについても考察できた点は大きな改善点であった。
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Strategy for Future Research Activity |
実現ボラティリティを用いた研究については、いくつかの国内外での研究発表を終えたため、そこでのコメントを踏まえた修正を行いすでに国際専門誌に投稿している。今後は、レビュアーからの意見をもとにした改訂や再投稿を行っていきたい。 テレビ報道と流動性の研究については、次年度において、日本ファイナンス学会、Asian Finance Associationでの研究報告を予定している。そののち、学会での反応を踏まえて最終的な改訂を行い、できるだけ速やかに国際専門誌へ投稿する予定である。今後の分析の新たな展開としては、視聴率データを加味することにより、情報認知度の効果をより信頼性ある形で検証する予定である。ビッドアスクスプレッドについては、理論的仮説を踏まえて、逆選択コストの推定値を追加分析として加味していく。これにより、実証結果が、投資家間の情報非対称性に起因するものがどうか明確にできる。デプス指標について、現在は売り買い両方の集計値を用いているが、これを別々に計算することによって、投資家の情報認知効果を明確にできる。 さらに、現在、共同研究として、企業広告情報の効果も、多様な情報源の一つとして注目し、研究を準備しており、次年度はこの分析を行っていく予定である。その際に、広告効果は、長期的に効果が顕れる可能性が高いため、現在の日次レベルの分析とは異なるアプローチを検討していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在、財務データ、株価データ等の基礎的なデータベースはすでに利用可能な状況である。高頻度株式取引データ等は、共同研究により利用可能である。したがって次年度は、アナリスト情報や新聞、テレビ報道以外の企業情報の収集へ研究費を使用していく。手作業でのデータ収集が必要な場合は、研究補助員を雇用してこれを行う。 次年度は、海外学会、国内学会での研究発表がすでにいくつか確定しているため、一部は旅費に充当する。ボラティリティ分析については、すでに投稿している論文の再投稿のための改訂が必要であるため、英文校正を行う。テレビ報道と流動性の研究では、新規に投稿する論文の英文校正が必要となる。研究費の一部はこれに充当する。
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