2011 Fiscal Year Research-status Report
産業集積の再構築過程に関する概念的モデルの開発と経験的検証
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23730337
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
相原 基大 北海道大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (40336144)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 産業集積 / 再構築過程 / 準拠枠 / ディスコース |
Research Abstract |
研究の初年度である2011年は,主に次の3つの研究活動を展開した。 第1に,経営学,地域経済学,経済地理学の3分野を中心に渉猟した国内外の産業集積研究の知見を整理するとともに,本年度に収集した経験的データと既存の知見との照合を通して,産業集積の再構築過程を精確に捉える概念モデルの位相を検討した。現時点で,本研究の目的のひとつである産業集積の再構築過程に関する概念的モデルの構築には至っていないが,産業集積の歴史的なコンテクストおよび産業集積を構成する行為主体の主観的世界と相互行為に注目し,産業集積の構造を機能的な側面から理解する既存の支配的な視角の限界を乗り越える方向性を見いだしている。 第2に,主要な調査対象である福井眼鏡枠産地および大川インテリア産地を構成する計501社の詳細な取引先データを収集し,ネットワーク分析用の基礎的なデータセットを構築した。現在,それぞれの産業集積地で実際に業務を展開する調査協力者にデータセットの包括性について最終的なチェックをお願いするとともに,現行のデータセットを用いた試行的な解析作業を実施している。 第3に,調査対象の産地および関連業界に関する過去43年分の史料を収集し,整理作業をおこなった。調査過程で幸運にも非常に豊かな文献史料の提供者との接点を得た。現在,膨大な資料の整理作業を進めているが,すでに産業集積地の現状が形づくられるに至る歴史的な因果関係の連なりを見いだすことに一定程度成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1の研究目的である産業集積の再構築過程を捉える概念的モデルの開発については,関連する先行研究の系統的な整理が計画通りにすすむ一方,本研究の有力な参照点となる歴史的な豊かさを欠かずに適切に制御されたモデルを見いだすことができなかった。そのため,モデルの構築を探索的に展開する必要が大きくなり,第2の研究目的である経験的検証への移行過程に若干のファインチューニングが必要にはなっている。ただし,経験的データの収集が当初計画よりも進んでおり,研究計画の執行上大きな問題にはなっていない。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に,調査対象である産業集積地の出荷額が減少傾向を見せ始めた1997年以降をまず重点的な分析対象期間と定め,国際的な産地間競争の態様,産地の分業構造の変動,関連する行為主体のディスコースや諸活動に関する定性的データと,産地出荷額,最終製品の小売市場規模,国際貿易額などの量的データの挙動とを照合し,産業集積の再構築過程を詳細に記述する。もちろん分析対象期間に先立つ歴史的なコンテクストについても,適宜,関連づけて記述的な推論を展開する。 第2に,産地内の行為主体が展開するディスコースや諸活動および行為主体間の相互作用を手がかりに,産業集積の再構築過程をダイナミックに捉える概念的なモデル構築の可能性を探求する。初年度は産業集積研究を軸に既存研究の知見にモデルの基盤を求めたが,今後はディスコースや事業慣行などの集積内の主体間で生起する相互作用を捉える際に有用だと思われる諸概念にも注目し,モデルの組み立てを図る。 第3に,4年計画の3年目に経験的検証に着手できるよう,調査対象へのアプローチを展開する。 なお,初年度に発生した研究費残の2,854円については,借用史料の返却郵送費に充当予定であったが,入手した過去43年分の史料整理が年度内に完遂できなかったために生じている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の主たる調査研究活動は,産地におけるフィールドワークの実施,収集資料・史料の整理・分析,概念的モデルの組み立てと洗練の3つである。研究費に占める割合が大きいのは,フィールドワークの実施費用(資料・史料の収集を兼ねる),商用データベースを用いたデータ収集費用,分析用ソフトウェアの購入費用の3つであると予定している。他方,概念的モデルの組み立てと洗練に関しては,適宜,内外の学会への参加等により,モデルの重要な鍵と考えるディスコース,相互行為,組織化などの構成概念を用いた組織研究分野の経験的知見を得,モデルの構築に活用したいと考えている。なお,前年度の研究費残については,本年度に借用史料の整理作業を終え次第,返却郵送費として使用する計画である。
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