2011 Fiscal Year Research-status Report
組織の自律性と株主の制禦:企業の法的形態と組織の相互作用に関する比較経営学的研究
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23730343
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
清水 剛 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (00334300)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 経営組織 / 株式会社 / 会社形態 / コーポレート・ガバナンス / 国際比較 / 国際研究者交流 韓国・中国 |
Research Abstract |
本年度は企業の法的形態と組織との関係について理論的な検討を行うとともに、企業の法的形態の選択に関するデータ分析と行った。当初の予定ではいくつかの企業を取り上げて、その組織と法的形態の関係に関する事例分析を先行させる予定であったが、日本における企業の法的形態の長期的な変化に関するデータ(国税庁総務課『会社標本調査30回記念号』所収)を発見したために、その分析を優先させた。 企業の法的形態と組織との関係については、企業の法的形態には資本の集中という機能のほかに、組織を他の関係者から隔離し、組織の自律性を保護する機能があること、組織の自律性には2つの種類(責任の自立性と意思決定の自律性)があり、それぞれの程度に応じて適切な法的形態が変化することなどを理論的検討から明らかにした。 一方、日本における企業の法的形態の変化については、計量的な分析により、戦前には合名・合資会社が一定の比率で存在していること、戦後は1950年頃以降一貫して有限会社が増加し、株式会社の比率は減少していること、また会社数の成長率は高度成長期には経済成長率を下回り、その後経済成長率と連動していることなどを見出した。以上の点は、会社の形態は株式会社に収束するわけではないこと、戦前は資本の集中形態としての企業が重要だったが、戦後の高度成長期以降は組織の自律性の保護が重要になったことを示している。 なお、関連する研究として、経営組織内の意思決定過程と制度的枠組みとの関係について事故防止に注目しながら検討し、また組織の機能を外部からどのように評価するかという点を会計監査との関係から考察した。 以上の研究は、組織と企業の法的形態との関係、あるいはより広く組織を機能させるための制度的枠組みのあり方の一部を明らかにするものであり、企業の法的な制禦を考える際に大きな意味を持つ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、企業の法的形態と組織との相互作用やその結果に関する検討を通じて、経営組織を効果的に機能させられるような法的形態を探求することにある。 この点で言えば、すでに理論的な分析により組織の自律性の内容やこれに対する適切な法的形態の検討が進んでおり、またデータ分析によって、組織の自律性が確立することでどのような会社形態が利用されるのかに関する検討も進んでいる。具体的にいえば、組織の自律性が確立していない段階で個人と結びついている場合は合名・合資会社が利用されるのに対し、組織の自律性が確立すると小規模な場合には有限会社、大規模な場合には株式会社が利用される。このように、法的形態と組織との対応関係については期待以上の成果が上がっている。また、組織を機能させるための法的な規制のあり方についても成果が上がっており、この点も効果的な法的形態の探求にとって大きく貢献している。 ただし、一方で以上のような分析を先に行ってきたため、国際比較のための事例分析のほうがまだ進んでおらず、主に日本国内の分析にとどまっている。この点ではまだ成果を挙げているとはいえない。 研究の順序が変わり、現在進めている方向について期待以上に進展しているが、それ以外の方向は進展していないために、全体としては期待した程度の進展ということになる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は研究の順序を入れ替え、理論的な分析とともに日本国内に関するデータの分析を主に進めたため、国際比較が十分に進展してはおらず、これが次年度に繰越が発生した理由である。このため、次年度(平成24年度)以降、米国、アジア諸国から2ヵ国程度(現時点では韓国・中国を想定)、ヨーロッパから1ヵ国程度を取り上げ(現時点ではドイツを想定)、これらの国々の企業を取り上げてその組織形態の変化と法的形態の変化との関係について分析する。対象企業の選定においては、各国の代表的な企業、もしくは判例などにおいて企業の法的形態と組織との関係が主要な論点となったような企業を利用する。次年度では各国の代表的な企業1、2社程度からはじめるが、平成25年度にはこれを数社に拡張し、傾向を整理する。 また、本年度のデータ分析に引き続いて、各国においてもこのようなデータ分析を進める。ただし、各国の全国レベルで時系列データが入手できれば良いが、このようなデータが入手可能であるとは限らない。そこで、上記の事例分析との接続も考え、各国において比較的初期の段階で存在していた企業群に注目し、その企業群がどのような組織と会社形態の変化を経てきたのかを分析するというアプローチを取る。データソースについては、各国の歴史的資料や、近代化初期の企業群に関する先行研究を利用する。なお、組織内の要因についても可能な限り収集し、分析に取り込む。これは次年度にまず1つもしくは2つぐらいの国で開始し、平成25年度にはこれをもう1カ国でも試みる。この上で、各国における企業の法的形態の選択と組織的な要因との関係に関するクロスセクショナルな分析を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
すでに述べたように、今年度は研究の順序を入れ替えて国内のデータ分析を先行させたため、海外調査のための旅費の一部が次年度の使用となった。この点を踏まえて、次年度には海外での資料収集や海外の研究協力者との打ち合わせ、あるいはインタビューなどを進める。とりわけ、上で述べたデータ分析においては、歴史的な資料の収集が必要になるため、中国、韓国には打ち合わせと資料収集、あるいは成果発表のために各1-2回程度(1回の場合には数日間の滞在)、米国、欧州にも資料収集やインタビューのため、あるいは成果発表のために各1回程度行く予定である。このために、旅費が必要となる。 また、各国について統計分析を進めるためには、データ分析のための補助人員を30時間前後(週2回、1回4時間を4週間前後)雇用する必要がある。さらに、成果発表については海外への投稿の際の校閲費も必要である。
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Research Products
(6 results)