2012 Fiscal Year Research-status Report
組織の自律性と株主の制禦:企業の法的形態と組織の相互作用に関する比較経営学的研究
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23730343
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
清水 剛 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (00334300)
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Keywords | 経営組織 / 株式会社 / 会社形態 / コーポレート・ガバナンス / 国際比較 / 国際研究者交流 韓国・中国 |
Research Abstract |
本年度は昨年度に引き続き、企業の法的形態の選択に関するデータ分析を行うとともに、特に戦前期における法人概念の導入と発展について、宗教法人を事例としながら検討した。当初は日本の会社についていくつかの事例を取り上げて分析を行う予定であったが、戦前、特に明治期においては法人そのものが新しい概念であり、事例分析に先立って、そもそも法人という概念がいかなる形で理解されたかを考える必要があると判断したため、このような形になった。 日本における企業の法的形態の変化については、昨年度にどのような変動が起こっているかを明らかにしたが、このような変動なぜ起こっているかを明らかにするため、資本ストックの成長や人口成長、そして全要素生産性の成長との関係を統計的に検証した。その結果、戦前期は会社数成長率には名目経済成長率が有意な影響を与えているのに対して、戦後期では資本ストック成長率と全要素生産性成長率が有意な影響を与えていることなどを見出した。この結果は、戦前期には会社は資本を集中させる機能を、戦後期には自律的な組織を保護する機能を果たしていたという本研究の見方と整合的であり、会社形態と組織の相互作用の変化を統計的に明らかにしたといえる。 また、明治以降の法人概念の導入と発展については、戦前期の宗教法人法制の変容を検討したうえで、戦前期には基本的に信者が集まって宗教法人を設立することは認めず、あくまで宗教者が国家に申請し、国家が法人格を与えるという形をとっていたこと、また法人は国家の写像であると理解されていたために、宗教法人が独自の国家像を作り出すことを認めなかったことなどを見出した。このことは、法人概念の導入において、あくまで法人は国家の被造物であり、国家のコントロールの下にあると考えられてきたことを意味しており、会社の法人格を考える際の基礎となる研究といえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、企業の法的形態と組織とがいかなる形で相互作用をするのか、その際に組織の自律性とこれに対する制禦をどうバランスさせるのか、その上で、経営組織を効果的に機能させるにはいかなる組織形態をとればよいのか、といったことを明らかにしようとしている。 この点を踏まえて現在までの達成度を考えると、昨年度の理論的な分析やデータ分析を踏まえて、日本における企業の法的形態と組織との相互作用について踏み込んだ検討を行い、現在までにそのような相互作用の変化を引き起こす要因について明らかにしてきている。例えば、戦後期の会社数変化の要因として資本ストック成長率と全要素生産性成長率があることは、会社が新しい技術を含めた設備の拡大や技術・経営の高度化に対応するために利用されていることを示している。また、法人格の導入の検討からは、そもそも会社制度がいかなる文脈において導入されたかが明らかになりつつある。このように、日本における変化のダイナミズムについては期待以上の成果が上がっていると言える。 一方で、国際比較についてはようやく韓国において会社および各会社形態の数の変化に関するデータを発見したところであり、まだ分析ができていない。また他国については、ようやく会社制度の検討を始めたところであり、成果が上がっているとは言えない。 以上のように、研究が集中している分野については期待以上に進展しているが、それ以外の方向は進展していないために、全体としては期待した程度の進展ということになる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は昨年度の研究から引き続いてデータ分析を進め、また法人概念に関する分析を進めた。さらに、これらの研究の成果を国際会議で報告することにエネルギーを注いだため、これらについては期待以上の進展が見られるものの、国際比較については必ずしも進展していない。これが予算の一部を繰り越した理由である。 そこで、次年度(平成25年度)においては、まず今年度の研究の延長として、特に戦前期に注目して、会社数の変化が具体的にいかなる要因により引き起こされるのかについて、いくつかの可能な要因、例えば制度的要因(租税制度や会社法制度の変化)やマクロ的な経済環境要因、あるいは経営に関わる要因を検討しながら明らかにする。この作業の過程で、どの段階で会社の機能が資本の集中から組織の保護に変わっていくのかも明らかにする。また、法人概念についても、宗教法人や地方自治体と比較する形で、会社の法人格がいかなる形で認識されていたのか、戦前期においていかなる意味を持つのかについて検討する。 また、国際比較については、今年度発見した韓国における会社数及び各会社形態毎の数に関するデータ(朝鮮総督府によるもの)を中心に分析を行い、まず日本と韓国の2カ国で国際比較を進めるとともに、中国についてもデータ(とりわけ中華民国期のデータ)の所在を確認し、3カ国比較の段階まで進める。 また一方で、ヨーロッパにおける事例研究については、ドイツにおける会社形態の発展と組織との関係を明らかにするため、とりわけ閉鎖型の有限責任会社形態である有限会社形態を中心として、各会社形態の発展を整理した上で、ドイツにおいて有限会社形態をとる有力な会社の歴史を検討し、会社形態と組織の相互作用を検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は研究成果の発表と資料収集に費用を必要としたが、来年度も引き続き研究成果の発表及び資料収集、及び研究協力者との打ち合わせに費用が必要となる。現在のところ、韓国、中国、ドイツに各1回(それぞれ数日程度)の滞在を予定している。このため旅費及び資料収集のための費用(書籍及びコピー代)が必要になる。 また、韓国、中国のデータの分析を進めるために、データの捜索、入力、分析のための補助人員の雇用(現在のところ50時間程度を想定)が必要となる。さらに、成果発表については海外への投稿の際の校閲費も必要である。
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Research Products
(5 results)