2012 Fiscal Year Research-status Report
企業の戦略的考慮と経営者の私的インセンティブが事業・財務戦略へ及ぼす影響の分析
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23730353
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
嘉本 慎介 香川大学, 経済学部, 准教授 (20511463)
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Keywords | リアルオプション |
Research Abstract |
今年度は、前年度から実施を開始した研究を継続して行った。この研究では、既存の独占企業が市場の製品需要に関する不確実性とともに潜在的競争企業による市場参入の脅威に直面する状況を考慮したリアルオプションモデルを設定し、その既存企業による生産規模の拡張に関する投資の意思決定とその投資の価値評価に潜在的競争企業による市場参入の脅威が及ぼす影響が理論的に考察されている。今年度は、モデルの設定を改良しさらに分析を進めた。そして、この研究の分析から得られた結果を整理するとともに、それらの分析結果がもたらす既存研究への貢献や示唆について精査を行った。 本研究では、既存企業による生産規模の拡張が潜在的競争企業の市場参入の延期を引き起こす戦略的効果によって、潜在的競争企業による市場参入の脅威が不在である独占企業の投資よりも規模が過大になることとタイミングが前倒しされる結果が示された。また、不確実性、成長性、需要の価格弾力性などの市場環境、既存企業の規模、潜在的競争企業の生産費用に関する優位性などの特性が生産規模の拡張に関する投資の意思決定とその投資の価値に及ぼす影響についても分析を行った。 さらに、上記の研究を基礎として理論モデルを拡張することによって、企業の負債保有が引き起こす株主と債権者間のエージェンシー問題が潜在的競争企業の市場参入の脅威に直面する既存企業の生産規模拡張に関する意思決定に及ぼす影響を考察するモデルを開発するとともにそのモデルの分析を開始した。現在のところ、負債の保有が過大投資につながることを示す暫定的な結果を得ている。 上記の研究に加えて、不完全競争下における企業間の市場先取りに関する戦略的競争が市場参入・投資規模・製品差別化に関する事業戦略の意思決定に及ぼす影響を分析した研究について、投稿先の学術雑誌の査読者からコメントをもとに分析を進めるとともに論文の改訂を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本申請課題の研究目的は、オプション価格評価理論の動学的枠組みを応用し、現代企業の投資・財務戦略に関する意思決定の分析において考慮されるべきである二つの要素1. 競合企業の行動に対する戦略的考慮、2.経営と所有の分離に起因する経営者の私的インセンティブや心理バイアスを明示的に組み込んだ理論モデルを構築し、不確実性下における企業の投資・財務戦略の意思決定のメカニズムを明らかにするとともに、それらの意思決定が企業価値に及ぼす影響を分析することである。 今年度は、上記の2に関する研究については、モデルの設定を改良し、不確実性、成長性、需要の価格弾力性などの市場環境、既存企業の規模、潜在的競争企業の生産費用に関する優位性などの特性が生産規模の拡張に関する投資の意思決定とその投資の価値に及ぼす影響ついて分析を進めることができた。またその研究を基礎として、企業の負債保有が引き起こす株主と債権者間のエージェンシー問題が潜在的競争企業の市場参入の脅威に直面する既存企業の生産規模拡張に関する意思決定に及ぼす影響を考察する発展研究を開始することができた。そして、この研究から得られた暫定的な結果をまとめた研究成果を学会で報告した。 上記1については、昨年度学術誌に発表した研究を基礎として、応用研究の可能性や方向性の検討を行ったがその具体的な目途を付けるに至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本申請課題の研究目的は、オプション価格評価理論の動学的枠組みを応用し、現代企業の投資・財務戦略に関する意思決定の分析において考慮されるべきである二つの要素1. 競合企業の行動に対する戦略的考慮、2.経営と所有の分離に起因する経営者の私的インセンティブや心理バイアスを明示的に組み込んだ理論モデルを構築し、不確実性下における企業の投資・財務戦略の意思決定のメカニズムを明らかにするとともに、それらの意思決定が企業価値に及ぼす影響を分析することである。 上記1に関する研究については、昨年度学術誌に発表した研究を基礎として、応用研究の可能性や方向性について引き続き検討していく。経営と所有の分離に起因する経営者の私的なインセンティブや機会主義的行動を明示的に組み込んだ投資・財務戦略の意思決定に関する分析を目的とした理論モデルを設計し、企業財務活動に関する意思決定の分析への応用の可能性を検討する。 上記2に関する研究については、昨年度から実施している研究を継続するとともに、研究成果を論文としてまとめて学術誌へ投稿することを検討している。また、今年度に報告した企業の負債保有が引き起こす株主と債権者間のエージェンシー問題が潜在的競争企業の市場参入の脅威に直面する既存企業の生産規模拡張に関する意思決定に及ぼす影響を考察する研究については、現段階で得られている結果の頑強性を検証しながら引き続き研究を継続していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
学会・研究会での報告・参加および研究協力者との研究の打ち合わせのための旅費、 本研究の応用分野であるコーポレートファイナンスおよびガバナンス・産業組織論の書籍と研究資料とモデルの設計と分析に関連する ゲーム論・確率論を中心とした数学の書籍と解析ソフトウェアに関連する書籍の収集、モデルの数値計算を実施するための解析ソフトウェアの購入、海外の学術誌への投稿を目的とした英文校正と論文投稿などの支出等に研究費を使用する計画である。
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Research Products
(1 results)