2011 Fiscal Year Research-status Report
地域貢献型ベンチャーの創出に影響を及ぼす、起業家による主観的要因の再検討
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23730359
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
松野 将宏 横浜市立大学, 国際総合科学部, 准教授 (00386666)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ベンチャー企業 / 社会的起業家 |
Research Abstract |
本研究の目的は、起業家による主観的な「正統性の認知」に着眼し、起業家活動における事業機会の認識は、技術的要因よりも制度的要因、すなわち、起業家が埋め込まれている社会的文脈における歴史的・社会的・文化的要因に強く規定されているという仮説を検証することである。 平成23年度の研究課題として、起業家が直面する制度的要因を整理し、それらが制度的環境として起業家活動に及ぼす影響について検討した。また、平成23年度の研究実施計画としては、起業家の主観的な認知に影響を及ぼす制度的要因を検討するための資料収集により、上記課題に取り組んだ。具体的には、先行研究となる文献・資料収集、制度的要因が起業機会の認識を強く規定していると考えられる社会的起業家に関する資料収集を中心に行った。 研究成果として、先行研究の整理により、制度的環境における社会的・文化的要因が、起業家の主観的な認知に及ぼす影響について検討した。特に、本研究では、制度的企業家研究における中心命題となっている「埋め込まれたエージェンシーのパラドクス」について再検討した。結論として、起業家は制度的プレッシャーに対抗しながら、新たな「制度そのもの」を創造することにより制度的環境に適応していた。そのために、既存の制度的枠組や構造に強く規定されながらも、戦略的に対応し、新たな制度を社会的に構成していくことが考察された。起業家は既存の構造や社会的文脈に埋め込まれることにより、資源を獲得したり、起業機会を創出したりすることができる。制度的環境は、制約としても資源としても捉えることができるが、その要因として起業家の主観的な認知が影響を及ぼしていることが推察された。本研究の成果は、起業家と制度との関係について、特定の分析枠組により質的に考察する可能性を示したという意味において、制度的企業家研究に対する意義があると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である、起業家の主観的で認知的な要因が、起業家活動における事業機会の認識に及ぼす影響の検討について、先行研究となる文献・資料収集により分析枠組を構築した。結果的に、「埋め込まれたエージェンシーのパラドクス」という中心命題に対して、制度的企業家研究の視座より起業家と制度との関係について質的に考察するための分析枠組を検討できた。 今後、研究目的の達成に向けた課題として、起業家活動を強く規定しているような既存の構造や社会的文脈について検討を進める必要があり、これらの制度的要因の影響が顕著に見られる環境として、地域に着眼していく必要がある。実証研究の方向性として、新しい制度を社会的に構成しているような地域を分析対象として、対象地域を再検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降は、事業機会が社会的文脈の影響を受けやすい分野として、地域に密着した形での起業家活動に着眼していく。地域に既存の構造や文脈において、起業家の起業行為の解釈や意味づけの源泉となった、地域固有の資源や正統性の認知に影響を及ぼした社会的・文化的要因を明らかにする。 具体的には、地域固有の歴史的・社会的・文化的要因に強く影響を受けた起業家活動に関する事例研究を推進していく。これらの要因は、地域に既存の構造や社会的文脈に埋め込まれているため、面接による聞き取り調査が必須になる。さらに、定性的情報を裏付けるための定量的情報の収集も必要である。 平成23年度は、分析対象となる事例調査地域を比較的近辺に限定してきたため、平成24年度以降は、分析対象を拡張し、本研究の目的に合致するような地域に範囲を拡大していく予定である。産学官のガバナンス・ネットワークに着眼し、地域の構造や文脈が、特に起業家活動を強く規定しているような地域を対象としていく。 本研究の推進による成果として、地域に密着したタイプの起業家活動は、地域におけるガバナンス・ネットワークのような制度的環境が起業家の主観的・認知的要因、事業機会の認識に強く寄与すると推察される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、本研究課題の実証に向けた事例調査において、分析対象となる地域を限定してきた。よって、国内主張旅費については予定していた金額より支出を抑制することができた。しかし、課題達成に向けて、分析対象となる事例調査地域を拡大していく必要がある。平成24年度は、地域密着した起業家活動の事例調査を推進していくため、前年度に支出を抑制することができた国内出張旅費を使用し、面接による聞き取り調査、および、対象地域における定量的情報の収集として、対象企業に関する情報の購入、地方新聞における記事検索、アーカイブを推進していく計画である。
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