2011 Fiscal Year Research-status Report
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23730368
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
野島 美保 成蹊大学, 経済学部, 教授 (10349160)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | デジタルコンテンツ |
Research Abstract |
本研究の目的は、パソコンと新モバイル端末(スマートフォン・電子書籍端末・タブレット端末)に展開される、娯楽コンテンツ(ゲーム)と実用的コンテンツ(書籍)における、価格形成要因を導くことである。特に、新モバイル端末における新しい市場について、学術研究の切り口を見出すことが、本研究の新規性であり意義である。本年度は、新モバイル端末で提供されるソーシャルゲームと電子書籍について、探索的な調査を行った。 まず、企業サイドの価格形成要因についての仮説を立てるため、シンポジウム等の参加に加えて、9社の企業について個別にヒアリング調査を行い情報収集した。これらの事例分析についてペーパーにまとめているところであるが、その一部はインターネットのビジネス誌にて発表を行った。野島(2011)「ソーシャルゲームにおける日本型データ・ドリブンのあり方とは」『ITMediaビジネス誠9月・10月号』 次に、消費者の需要要因に関する仮説を立てるため、35人の学生を集い、ソーシャルゲームの利用行動について定性調査を行った。具体的には、ゲーム画面の遷移毎に所要時間を計測し、各フェーズでの操作性や満足度等についてコメントを得た。この知見を次年度の定量調査の指標作成の土台とする。 さらに、消費者の需要要因について深く切り込むため、心理学的な要因を探る調査を、共同研究者と始めた。当初の計画には入れていなかったが、重要な価格形成要因が得られるからである。Ueda,Y.&Nojima,M.(2011)"The Mediating Effect of Perceived Media Characteristics on Shyness and Text Messaging in Cell Phone Relationships" Seikei University Discussion Paper No.109.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調だが、一部について研究計画の若干の修正が必要となる。 順調である点は、企業ヒアリング調査が進んだこと、次年度に予定する大規模定量調査の準備が進んでいる点である。また、当初予定していたよりもさらに研究が進んだ点もある。消費者の需要要因に関する仮説設定について、クローズドメンバーによる定性調査と共同研究者との心理学的な考察を行うことで、より深い調査を行うことができた。 その反面、研究計画の若干の修正が必要な点がある。それは、この2年間でソーシャルゲームと電子書籍の両市場の発展状況に大きな開きができたため、単純な比較ができなくなったことである。電子書籍は予測よりも普及が大幅に遅れ、シャープ社の端末(ガラパゴス)の現行機種が販売停止になるなど撤退事例も出た。一方、ソーシャルゲームは、この数年間で市場が急成長し、推計で3000億円規模に達した。 本研究は現在進行中の新ビジネスをリアルタイムで追っているため、産業の動向によって研究計画を修正していかねばならない。 電子書籍については普及途上にあり、価格を企業が競争的に決定する段階に至っていないことから、現在の書籍価格のデータを用いた定量分析は時期尚早であると判断し、異なる調査アプローチをとることにした(今後の研究の推進方策)。 ソーシャルゲームについては、有料コンテンツの販売が成功し収益性を確保したと判断し、その価格決定のメカニズムについて調査を続行した。企業ヒアリング調査を行い明らかになったことは、既存産業の価格付けとは異なるロジックが働いていることであった。コンテンツを提供しながらリアルタイムで消費者の利用履歴のデータ(ビッグデータ)を解析し、受け入れられるであろう価格を割りだし、コンテンツと価格の改変をリアルタイムで行うものである(データドリブン経営:野島2011)。
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Strategy for Future Research Activity |
前述のように、ソーシャルゲームと電子書籍とでは市場成長段階が異なるため、単純に定量的な比較ができなくなった。そのため、今後の研究の推進にあたって次のような工夫を行うことにした。 まず、産業をマクロ視点からの考察し記述論ベースで論じるプロセスを付加する。先行研究レビューからは、競争市場における価格決定要因が導かれたが、デジタルコンテンツという新しい財においては、競争市場の形成が不完全であり、産業構造や政策というマクロ要因が無視できないことがわかったからである。 電子書籍の普及を阻む理由について、既存の書籍流通・再販制度による産業構造の問題がある。ソーシャルゲームについては、当初は企業同士による競争的な価格設定が行われていたものの、2012年に入ってからは消費者庁による法規制が入るようになり、政策が価格決定に影響を及ぼすようになりつつある。こうした側面について、定性的な記述を行うことにした。 ただし、ソーシャルゲームと電子書籍を比較する意義がなくなったかというと、そういう訳ではない。企業ヒアリング調査を通してわかってきたことは、ソーシャルゲームも電子書籍も「原作コンテンツ」を金銭化する「出口」として同列に捉えられつつあることである。実際に、ソーシャルゲームと電子書籍を同時に扱う出版社(角川コンテンツゲート)が存在する。小説原作を紙の書籍とするか電子書籍とするかという二者択一の判断だけではなく、アニメ放送やソーシャルゲームの開発も遡上にのぼるのである。これらの価格設定について異業種であるとして切り離して論じられないことが今後予想されることから、そうした萌芽的な企業事例についてもまとめたい。 消費者の需要要因の分析、消費者アンケート調査(定量調査)については予定通りすすめていく。この部分の研究は予定よりも進捗が進んでいるので、より説得的な定量モデルが得られるように心がける。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の最も大きな支出は、アンケート調査の実施である。その他の区分で240万円を予定している。 消費者のコンテンツ利用行動と支払行動について約60項目の質問からなるアンケートを行う。モバイル端末でのコンテンツ利用特性を明らかにするために、パソコン利用者との比較を行う。パソコン利用者とモバイル端末それぞれ2000サンプル以上を確保することをめざす。アンケートはパネリストをもつ調査会社に実施を委託する。複数の調査会社に見積もりを出してもらい、適切なパネリストを確保でき、予算内で多くのサンプルを集められる業者を選定する。 また、文献調査を引き続き行うため、図書費を計上する。特に、消費者の心理学的な要因を掘り下げるための心理学関係の書籍が必要である。 また、これまでの定性調査・予備的な定量調査の結果をまとめて、中間発表を行う。その際に、学会発表のための旅費交通費、外国語校閲費(謝金10万円)を計上する。消耗品・物品費として研究遂行上必要な、印刷トナーや記録媒体や文具などを購入する。 平成23年度の交付金のうち14,137円の残金があるが、これは電子書籍端末(キンドル)の購入にあてる予定である。当初より購入予定であったが、キンドルの発売が24年度になったことから期ずれが起きている。
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