2012 Fiscal Year Research-status Report
車載組込みシステムの標準化プロセスにおける日欧産業技術政策の比較分析
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23730389
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
徳田 昭雄 立命館大学, 経営学部, 教授 (60330015)
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Keywords | ISO26262 / 適合性評価 / 標準化 / 機能安全 / ARTEMIS / AUTOSAR |
Research Abstract |
本年度は、組込みシステムの標準化について、ひとつには、一昨年度発行したISO26262 (機能安全規格)に焦点を当てて、①発行の歴史的背景を明らかにし、②日本自動車産業への影響を考察するとともに、③標準規格と車の両輪でもある適合性評価基準とそれを擁立する適合性評価機関(CAB:conformity assessment bodies)の活動動向について調査・研究を行ってきた。現状、ISOを適用する自動車関連企業は、認証機関の力を借りながら「適合(性)の相場観」の試行的形成している段階であり、詳細な車両スペックやユースケースを考慮して、ASIL値の相場観形成を業界として図っていく途上にあることが分かった。 具体的に調査では、ISO26262を導入するメリットとして、①業界全体でのASIL評価方法の共通解釈・理解により、PLのリスクを低減できること、②不必要な”過剰機能安全適合”によるASIL評価の上昇を防ぐことが出来ることが確認された。他方で、デメリットとしては、①ハザード解析とリスクアセスメントでは、E,C,Sの具体的数値が規格に記載されていないため判断が難しい点(どんな方法論を運転状況の評価に使うか?、どんなハザードはコントロール可能なのか?どんな怪我が予想されるか?)や②説明責任を求めている割にエビデンスの残し方の規定がないこと、③適合性評価の仕組み(項目、プロセス、アプローチetc.)が規格の整備状況に比べて未成熟であること、が明らかにされた。 また、仕組みを固めていく段階において日本企業は、標準化規格に対応するために、多額のコンサルティングフィーを欧州の認証機関に支払っていることが分かった。そこで、コンサルティングフィーのコスト構造は不明確であり、今後の日本の産業技術政策として一定の手立て(適合性評価機関の育成)を講ずるべきであるとの政策提言を行ってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、コンソーシアムベースで展開される日欧の組込みシステムのイノベーションと標準化の動向を実証・理論の両側面から把握することである。実証面では、日欧におけるコンソーシアム活動の実態について、国・産業・企業レベルでの重層的な調査分析、理論面では既存理論の検討と新しい理論モデルの構築である。 3年期間のうち2年間が終了し、ほぼ予定通り研究が進展していると自己評価している。先ず理論面については、企業が製品アーキテクチャを投企的(proactive)に変更していく動態的プロセスを捕捉するこのできる理論モデルの構築をほぼ完成した。(2軸4象限モデル:オープン-クローズド;自律的イノベーション-システミックイノベーション)。最終年にそのモデルの精緻化・レジリエンスの向上を図り、製品アーキテクチャ論の新しい展開に理論的貢献をしていきたい。 他方、実証については標準コンソーシアムの背後にある産業技術政策やコンソーシアム間の連携の実態の調査研究を行ってきた。調査研究にあたっては、組込みシステム分野における標準策定プロセスを分析するために開発した「重層的オープン・イノベーションモデル」を用いて、企業レベル、バリューネットワークレベル、国家レベル、超国家(EU)レベルのイノベーションと標準化のダイナミズムをレイヤーの違いに応じて捕捉してきた。
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Strategy for Future Research Activity |
そもそも本研究の目的は、車載組込みシステム(マイコンを応用したハードウェアの上で、その機器や製品の機能/性能を専用ソフトウェアで実現、制御するシステム)の標準化を目指して、日欧において形成されているコンソーシアムを分析対象にし、 ①標準策定メカニズムを、コンソーシアムとその背後にある国家や地域の産業技術政策と関連づけながら、標準策定メカニズムの日欧の比較分析を行い、 ②欧州と協調しつつも日本発の規格が国際標準の地位を獲得して、日本企業の国際競争力の向上に資するアクションプランを提示すること であった。2年間の研究を振り返って、①については内外の調査も8合目まで到達しており、残り一年で最終目標との差分を埋めることができるよう引き続き文献調査・ヒアリング調査を継続して行っていく。特に、本年度の下半期に在外研究で欧州に研究滞在する機会に恵まれた。この機会を最大限に生かして、文献調査では得ることのできない背景情報を丹念に収集していきたい。 ②については、上記【現在までの達成度】のところで述べた理論モデルを用いながら、日欧コンソーシアムの標準擁立プロセスを理論的・客観的に相対化し、日欧のプロセスの違いを分析するとともに、日本の標準化政策に対する一定のアクションプランを纏めていきたい。最近10年、産業技術政策や企業競争力と標準化についての研究蓄積が増えてきている。しかし、それら蓄積によって日本の産業技術政策の問題点や個別企業の標準化戦略の善し悪しが個別に把握されるようになってきたものの、具体的に「日本の産業組織風土」に適合したアクションプランが提示されているとは言えない。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の次年度計画は、理論面については「理論フレームワークの構築」、実証面については「日米欧のコンソーシアムと連携関係にある諸企業・標準化団体・研究機関・政策立案機関に対する捕捉的なヒアリングやアンケートを実施する」としてある。 計画に則り、次年度は実証面で研究費の大半を計上したい。具体的には、①6月の第三週に欧州の自動車関係の研究者ネットワークであるGERPISAのコロキアムへの出席を兼ねてヒアリング調査を実施するとともに、②9月以降の現地滞在の機会を活かして、補足的ヒアリングの実施(ミュンヘン、シュテュッテュガルド等)と、標準化に関わる研究ワークショップでの研究成果のアウトプットに努めていく。
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Research Products
(9 results)